編集、MAが終わればその話数の作業工程はほぼ終了。『ぷちえう゛ぁ』第1話の作業を終えた直後の桜井弘明監督にお話をうかがった。

――『ぷちえう゛ぁ』を監督するきっかけはどんなところから?

「この話をもらったときは僕がちょうど名作アニメの制作真っ盛りで、呑気にふざけて思いつきだけで突っ走るのは無し! という状態だったんですよね。そこへキングレコードの大月(俊倫=『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』エグゼクティブプロデューサー)さんが『なにやってもいいよ』って言うから、こっちも『待ってました!』っていう(笑)、そういう流れです」

――大月プロデューサーが桜井さんを指名した決め手はどんなものだったんですか?

「どうも鶴巻(和哉=『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』監督)さんの推薦があったみたいなんですよね。僕が監督した『魁!!クロマティ高校』を鶴巻さんが気に入ってくれて『あんな感じでやってもらったら?』みたいなことを言ってくれたらしいんです。だから鶴巻さんには感謝感謝」

――鶴巻さんとのお付き合いは?

「『アキハバラ電脳組』のころ(1998年)に初めてお会いしました。そのあと鶴巻さんが監督した『フリクリ』のときに、リッケンバッカー4001っていう主人公が持っていたベースギターとほぼ同じものが僕の家にあるんで『しばらく貸すから参考に使ってください!』って押しかけで渡しに行ったりして(笑)」

ベテランの桜井弘明監督。監督作以外にも『機動戦艦ナデシコ』『すごいよ!!マサルさん』などへの参加でアニメファンにはおなじみ
(c)GAINAX・カラー

桜井監督と言えば知る人ぞ知る音楽通。『ぷちえう゛ぁ』の音楽にもベース演奏で参加したとのことで、携帯でベースの写真も見せていただきました
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ザフールの東京と京都のスタジオの間ではテレビ電話を使った打ち合わせも
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――CG制作には『Funny Pets』の増田龍冶さんにアドバイザーとして協力してもらっています。

「増田さんとは以前から『なにかあったら一緒に』って話してたんですよね。で、打ち合わせで増田さんと話してたときに『『エヴァ』って庵野さんの心象風景だから『ぷちえう゛ぁ』は桜井さんの心象風景でやったらいいんじゃないですか?』っていうヒントをもらって『それいいな!』みたいな(笑)。『じゃあ幼稚園のころに何回も見た怖い夢をやろうかな』とか、せっかくなのでいろいろ考えてます。ただ夢をそのままやってもめちゃくちゃなんで、そこはみんなが見て楽しめるようには脚色するでしょうけど」

――作品は『魁!!クロマティ高校』で音楽を担当した美狂乱の須磨邦雄さんの曲に乗せて進む流れです。

「まあ、音楽が格好よければくだらないことをやっても格好が付くだろうと(笑)。最初に『3分ぐらいの曲をお願いします』って何曲か作ってもらって、絵コンテのスキャンデータで作ったムービーにまずはデモ音源を貼りつけて選曲してます。で、完成版の曲が来たところでもう1回合わせて、それからまた細かく編集して……っていうこの辺はチマチマと1人でやってますが。ビデオクリップみたいな感じですね」

――3DCG作品は初になるそうですね。

「とりあえず絵コンテを描いてみて、あとは3Dを知ってるXEBECのはばら(のぶよし)さんと、ザフールの増田さん、伊藤(敬之)さんに教えてもらおうという感じですね。2Dと3Dの違うところは例えば2Dだと、場合に応じて腕の長さを長く描いたり、短く描いたりもできるんだけど、3Dだと別モデリングにしなきゃいけないとかね。あと2Dのアニメだと止まるときは完全に止まるんだけど、3Dだとずっと動いてる場合がある。だからCG班にも『ここは止めてください』と注文することはあります。それと僕らのやってるアニメは1秒間24コマで計算するんですけど、3コマずつの基本の動きに、たまに2コマずつ、1コマずつの動きを入れてメリハリを付けるんですね。それを細かい指定をしないでそのまま3Dにすると均等に動いて滑らかすぎちゃうときがあるんで、気になる場合は途中のコマをわざと抜いたりもしています」

――CG班にはほかにどんなオーダーを?

「第1話では綾波が走るシーンで『腕は振らないで』ってお願いしました。3Dってちゃんとした走りになりがちなんですけど、腕を振らないほうが幼児がトコトコ走るかわいらしい感じになるんですね。モデリングに関しても人形っぽい質感でお願いしています。CG班が『こうやっておきました~』って、どんどん作ってくれるので助かってますね」

桜井監督がこだわったという綾波の走りのカット。人間のリアルすぎる動きにはならないよう工夫されている
(※作品画像は制作中のものです)
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桜井作品おなじみの不思議な生物もふさふさになって3D化。『エヴァ』らしく聴いているのはSDAT
(※作品画像は制作中のものです)
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――第1話ではシュールな内容でも、綾波のぼーっとした雰囲気がちゃんと残ってるのがいいなと思って。

「あ、えらい!」

――狙いどおりですか?

「いや、それは全然考えてなかった(笑)。でもそういう受け取り方はうれしいなあ。『エヴァ』ファンの方も、各自でいろいろ自由に読み取ってくれるといいんじゃないですかね」

――本家のように「じつはこういう裏設定が……」みたいなこともあったりしますか?

「うーん、例えばシンジって本編でもウジウジしてるから『じゃあ××××にしちゃえ』とかね(笑)」

――あれはそういうことだったんですか!?

「いや、大して考えていません(笑)。思いつきです。だからなんとなくぼーっと見て楽しんでもらえるといいですね。アニメってできるまで時間がかかるんで、僕らもなるべく飽きないように、楽しみながら作っていきたいと思います」

綾波はいつもと変わらぬマイペースな雰囲気で登場
(※作品画像は制作中のものです)
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シンジ、××××になってしまうの図。この後、ちゃんと立ち直るのでご安心を
(※作品画像は制作中のものです)
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『ぷちえう゛ぁ』は、現在バンダイチャンネルにて三木監督チームの2本目「お掃除の時間」が配信中。桜井監督チームの作品も3月から配信予定となっている。両チームの作風を見比べながら、かわいくて楽しいもうひとつのエヴァワールドを楽しんでみてはいかが?