自治体とマイクロソフトが共同でITベンチャーをサポート

マイクロソフトはこのほど、2008年度の「マイクロソフト ITベンチャー支援プログラム」(愛知県/香川県/福井県/広島市)および「マイクロソフト インキュベーションプログラム」(神奈川県/埼玉県/千葉県/北海道)の選定企業19社、準選定企業11社を発表した(詳細はこちら)。両プログラムは全国各地の自治体と共同で実施され、1年間の期間限定で選定各社に技術やマーケティング面での支援を提供していく。

マイクロソフトのITベンチャー育成事業は、2003年10月にインキュベーションプログラムとして開始。以来、自治体や教育機関などと連携しながら選定企業へ技術サポートやマーケティング支援を行なってきた。2007年には、同社が2005年から3カ年計画で推進する「Plan-J」における企業市民活動(CSR)の取り組みとしてITベンチャー支援プログラムを発表。各地域のIT産業の振興と経済の活性化を目的とし、新たに政令指定都市とも連携した支援を実施している。支援するIT関連企業は、地域ごとに中小企業や個人を対象に募集を告知し、書類審査などを経て決定する。支援期間は1年間、募集地域は基本的に年度ごとに変更され、これまで北海道や神奈川県、千葉県など計12の地域で約100社が支援を受けてきた。

ITベンチャー支援プログラム/インキュベーションプログラムの主な支援内容
  ・開発用ソフトウェア・開発用ツールの提供
  ・技術的質問に対する専用窓口の利用
  ・トレーニングやカンファレンスへの招待
  ・マイクロソフト米国本社における研修への招待
  ・マーケティング活動支援

香川県でITベンチャー支援プログラム認定書授与式

選定企業の発表にともない香川県は23日、同県庁においてイノベイトとエースシステム2社へのITベンチャー支援プログラム認定書授与式を開催した(準選定企業はエム・イ・テック)。同県は2007年7月に中小IT企業の育成事業でマイクロソフトと覚書を締結しており、それに基づき同年10月、ITベンチャー支援プログラムの参加企業を募集、4社が応募していた。今回採択された2社の支援対象事業は次のとおり。

  • 株式会社イノベイト(代表取締役 宮本吉朗) …… 非接触式RFID(微小無線チップ)を利用したソリューション製品開発ツール。RFIDを利用した、契約店舗のサービス(ポイントサービスやクーポン等)情報の書き込みを行なうシステム
  • 株式会社エースシステム(代表取締役 河野猛) …… 福祉用具貸与サービス業向け業務管理ソフトウェア「れん太壱番」。福祉用具貸与に係る契約情報処理、介護保険報酬の伝送請求等のできる福祉用具貸与サービス業(小規模事業者)向けソフト

1月23日、香川県庁においてITベンチャー支援プログラム認定書授与式が行なわれた


香川からICカードの共通フォーマット利用の世界標準を

イノベイト代表取締役社長 宮本吉朗氏

宮本吉朗イノベイト代表取締役社長は同プログラムに採択された事業内容について、「簡単な話が、財布に入っている10枚ほどのカードを1枚に」まとめるものと説明する。店舗ごとに発行されるポイントカードや会員証で財布が膨れあがる……そんな問題を解決するために今、ICカードやおサイフケータイに複数のサービスを記録できる「FeliCaポケット」などの共通プラットフォームの利用が始まっている。ICカードメモリ上に設けた共通領域に各種データを集約するというものだ。利用者動向をチェックするマーケティングツールにも活用できるとして注目を集めており、同社はその際に必要となるデータの書き込みシステムを開発する。

ICカードメモリ上の共通領域にデータを書き込むには、サービスに対応した専用端末(カードリーダ/ライター)が必要になる。書き込み処理はハードウェアレベルで行なわれるが、同社はこの部分のソフトウェア化を目指す。端末によって異なる処理方式の違いを吸収するソフトウェア(Windows CE/XP/Vista用など)を用意し、「ハンディターミナルやUSBタイプといったリーダ/ライターの種類を問わず、ソフト上から簡単なコマンドでサービスを追加できるようにする」(稲毛浩 専務取締役)。これによってRFID技術を利用したサービスの開発や運用が容易かつ低コストで実現する。例えば、個人商店であっても「PaSoRi」(FeliCaを利用したUSB対応リーダ/ライター)を使い、同社が開発したソフトで独自のポイントサービスを記録するといったことが可能になる。

すでにサービスの実用化に向けた動きもある。1月26日より広島県交通系ICカード「PASPY」でのFeliCaポケットの利用が開始された。「当社が開発を進める書き込みモジュールもPASPYへ対応させていく」(稲毛氏)。ICカードを開発するジェイアール東日本メカトロニクスによると、今後、このICカードがSuicaで利用される予定のほか、他の交通機関系ICカードでの利用にも取り組む。イノベイトの技術を活用できる下地は整いつつあり、宮本氏は「香川から日本標準、世界標準を作っていきたい」と、RFIDを利用した情報書き込みシステムへの意気込みを力強く語った。


福祉用具レンタル業者のコスト削減とIT化を推進

エースシステム取締役統括部長 森川悦次氏

エースシステムの採択事業は、福祉用具レンタル事業者の業務効率を高めるシステムの開発だ。福祉用具レンタル事業とは、介護保険利用者(被保険者)に車イスや介護ベッド、歩行器といった福祉用具の貸し出し、またそのメンテナンスを提供する。同社はこれまで、広域・大規模事業者向けに福祉用具レンタル管理システム「れん太壱番」を提供してきたが、小規模事業者でも安価に導入できるようにする。

福祉用具レンタル事業は多くの小規模事業者が支えているが、「介護保険制度の改定に対し、そうした事業者はコストや人員の面で問題もあって対応しきれていない」(森川悦次 取締役統括部長)という。サービス利用状況の定期報告を義務づけるモニタリング制度の導入や介護保険報酬の引き下げなど、事業者を取り巻く環境が頻繁に変化していく中、業務プロセスの効率化は企業規模を問わず喫緊の課題となっている。しかし、そのためのIT投資も小規模事業者には難しい。同社の福祉用具レンタル管理システム「れん太壱番」の導入コストは、「ソフトウェアでも300万円から」(同氏)。そこで同社は、業務内容に応じてソフトウェアの機能を絞り込み、管理システムの導入コストを引き下げる。そして「製品を通じて小規模事業者の管理業務の効率化、IT化を推進していきたい」(同氏)。ソフトウェアの提供方法については、パッケージの貸し出しやASP方式の採用を考えているほか、「ITベンチャー支援プログラムもその選択肢のひとつとして捉え、マイクロソフトが持つ技術のうち、より使えるものを見極めたい」(同氏)とした。

介護ビジネスにおいて、地方の山間部など収益性の低い地域は小規模事業者が支えているケースが多い。物流サービスという側面を持つ福祉用具レンタル事業者にとっても、搬入コストのかかる地域で事業を続けるには経営の効率化とコスト削減が欠かせない。広範な地域で福祉用具の提供が行なわれるためにも、小規模事業者をサポートするエースシステムの事業に寄せられる期待は大きい。


支援プログラムを通じて開発者のモチベーションを高める

マイクロソフト執行役常務 公共インダストリー統括本部長 大井川和彦氏

香川県庁におけるITベンチャー支援プログラム認定授与式に出席した大井川和彦マイクロソフト執行役常務 公共インダストリー統括本部長は、「香川県の選定企業は、ビジネスモデルがユニークで独創性に溢れている。さらに2社も選ばれたことに香川県の底力を感じた」と、選定企業2社へ期待を寄せた。両社は今後、およそ1年間をめどにサービスや製品の提供または試験運用を目指し、研究開発を行なっていく。

なお、イノベイトの稲毛氏にITベンチャー支援プログラムを利用する狙いを聞いたところ、「技術支援も大事だが、開発者のモチベーション向上にも期待している」という。「作りたいという気持ちがないと先に進まない。受託開発では納品して終わることが多く、次に続かない。その点、RFIDに関する商品は発展を続けており、進化性が望めるし、フィールドも広がったと思う」(同氏)。地方都市のIT企業では今、技術者不足が問題となっている。IT地場産業で働く技術者たちのモチベーションをいかにして高め、企業の魅力をアピールするか。ITベンチャー支援プログラムは、そうした機会を創出する場ともいえそうだ。

写真左から、香川県商工労働部長 中山貢氏、森川悦次氏(エースシステム)、宮本吉朗氏(イノベイト)、イノベイト開発部システム課 吉田勇一氏、大井川和彦氏(マイクロソフト)、マイクロソフト四国支店長 楠瀬博文氏