企業買収によるポートフォリオの集約が進む

エンタープライズ向けの情報基盤/基盤業務向けプラットフォームやアプリケーション、コンポーネントを提供している大企業は多数ある。国ごとに存在しているローカルベンダや、世界にまたがって活動を展開するグローバル企業までその規模はさまざまだ。2007年までに、こうした企業は買収にってポートフォリオの集約を進めてきた。特徴あるプロダクトを展開してきた企業は買収によって大企業に吸収され、いくつかの大企業が全方位に渡るポートフォリオを獲得しつつある。

多くの企業が買収された2007年だったわけだが、もっとも印象的だった買収劇のひとつは10月12日(米国時間)に明らかにされたOracleによるBEA Systemsに対する買収提案だろう。同買収は結局物別れに終わったわけだが、買収によって複数の大企業に多くのポートフォリオが集約を始めている実状を示す好例だったといえる。

SOAから、さらに一歩踏み込んだ統合情報システムへ

同分野においてグローバル企業として今後もシェアを獲得していくのはIBM、Microsoft、Oracle、SAPではないかと見られている。アジア太平洋地域に目を向ければBEA Systemsも入るだろう。ローカルに限定すれば各国それぞれローカルに強いベンダがいる。各社の戦略や戦術はばらばらだが、いくつかの企業の戦略は明確だ。そうした企業戦略に目を向け、2008年の情報経営をみていこう。

最も戦略がはっきりしているのはOracleだ。BEAやSAPの戦略もわかりやすい。IBMやMicrosoftなどの巨大企業は組織が大きいだけに同分野における戦略を簡単に語ることはできそうもない。戦略がはっきりしている企業の動向を参考にして2008年を考えよう。

技術的な側面からいえば、情報システムと基盤システムをSOAのもとに統合するフェーズは一般的なフェーズにはいった。次のステップは既存のSOAのうえにさらにアプリケーション構築ためのプラットフォームを構築する段階に入ったといえる。

Oracle - 企業買収とFusion Applications

最も積極的に買収戦略を進めている企業のひとつがOracleだ。OracleといえばOracle DBとして有名だったわけだが、2004年12月14日(米国時間)にPeopleSoftの買収合意に達したことを発表するなど業界の主要なポートフォリオの獲得に奔走してきた。PeopleSoftの買収は同社にとって大きな転換期だった。以後、さらに買収を繰り返してポートフォリオを獲得。獲得したポートフォリオ同士の相乗効果を狙いさらに売上を伸ばしてきた。これがOracleの基本戦略だ。

買収によってポートフォリオを獲得した場合、製品展開という面からみて2つの問題がある。まずひとつは、当然ながらこれまでの顧客に対してどう付き合っていくのか、もうひとつはどうやって他のポートフォリオと組み合わせるか、だ。OracleはこれまでOracle Fusion Middlewareでプロダクトを組み合わせる仕組みを提供してきた。加えてプロダクトを単体でサポートし続けるApps Unlimitedを発表。ポートフォリオの単体永続と相乗効果という2つを実現している。

Oracleは次のステップとしてアプリケーションを組み合わせるためのプラットフォームAIAを発表。2008年の終わりまでにはさらに個別のパーツを組み合わせてアプリケーションを構築するためのFusion Applicationsを展開する。アプリケーション単体でのサポート継続(Apps Unlimited)、アプリケーションを組み合わせるプラットフォームの提供(AIA)、パーツを組み合わせてアプリケーションを開発するSOAよりもさらに上位のプラットフォームとパーツの提供(Fusion Applications)。企業買収で得られるポートフォリオとこれらの取り組みが、今後のOracleの基本戦略となる。

BEA Systems - 総力をGENESISプラットフォームへ

BEA SystemsはWebLogic、AquaLogic、Tuxedoという3つの主要プロダクトを展開している。2007年には同社の保持しているすべてのポートフォリオを組み合わせたGENESISプラットフォームを発表。GENESISプラットフォームでは、ダイナミックビジネスアプリケーションを実現するために同社のポートフォリオがすべて組み合わせられる。BEA Systemsの次の戦略はGENESISプラットフォームを構築し、ダイナミックビジネスアプリケーションを実現していくことにある。

ダイナミックビジネスアプリケーションは、既存のSOAやそこで構築されたコンポーネントを組み合わるプラットフォームやアプリケーションの組み合わせといったスタイルとはちょっと違っている。どちらかといえばSaaSに近いもので、ビジネスが変化することを前提としてすぐに変化できるプラットフォームを目指したものだ。

具体的にGENESISプラットフォームという包括的な取り組みや名称を発表し、ダイナミックビジネスアプリケーションという言葉で実現すべき未来像をはっきり描いている点が特にBEAでわかりやすい点だ。それ以外でもキーとなる技術や取り組みをちょっと取り上げてみよう。

2008年のキーワードは

仮想化技術と環境配慮

エンタープライズクラスの情報システムでは仮想化技術がますます重要度を増す。仮想化技術が重要になるのはシステムのスケーラビリティの確保、スケールアウトの実現、効率がよい省コストでの運用を実現するためだ。経営という一点でみれば運用コストの削減や効率的なハードウェア投資を実現するための技術として仮想化技術が重要になるわけだが、今後の経営には環境配慮も欠かせないものとなる。時代が環境配慮を求めており、その要となる技術が仮想化というわけだ。

Web 2.0の取り込みとコンシューマからエンタープライズへ

Web 2.0の潮流やモバイルガジェットの普及は、個人におけるツール利用に変革をもたらしている。インスタントメッセンジャーの普及やどこでもインターネットに接続できる携帯やスマートフォンの普及によって、どこにいてもメッセージングによる情報検索や情報交換、インターネットの活用が可能になった。こうした個人レベルでの革命をこれまでは企業活動に反映できていなかった。2008年はこれらツールを企業活動に取り込み、個人レベルでも企業レベルでもツールの活用率を向上させるものになるだろう。

SaaSとダイナミックアプリケーションプラットフォーム

2008年以降、企業活動を支えるプラットフォームはもっとダイナミックで常に変化を取り込み、そしてどこからもアクセスできるものへと変わっていくだろう。そのひとつの要となる技術がSaaSだ。SaaSが実際に企業活動で積極活用されるまでにはまだ多くの模索が必要になるだろう。Google Appsのようなスタイルで提供するのか、アプライアンスのスタイルで提供するのか、ソリューションとして企業内に構築するのか。ともかくも2008年は企業活動へSaaSを導入する走りの年となるように思える。

今後も企業戦略に注目を

企業戦略はその企業の規模の大小、参入している市場、保持しているポートフォリオの種類、抱えている従業員の種類の違い、国や地域における文化の違い、地政学的な差異などによって左右される。このため他社の企業戦略が自社の企業戦略にそのまま使えるとは限らない。しかしながら、発表される企業戦略から、ほかの企業がどういったところに焦点を絞って何を考えているのかはよくわかる。