ついにニコンからも35mmサイズのFXフォーマットを採用したデジタル一眼レフカメラ「D3」と、これまでのDXフォーマットのフラッグシップ機「D300」が発売された。FXサイズのCMOSセンサー搭載に至る経緯、またD200の後継となるD300について開発者の方々にお伺いした。

ニコンD3(左)、D300(右)

左から、D3担当の川路氏、シーン認識システム担当の岩崎氏、D300担当の中村氏

--まず、D3にFXフォーマットを採用することになった経緯を教えてください

川路:今までDXフォーマットが一番いいだろうと主張してきたもっとも大きな理由は、周辺画質です。35mmフィルムカメラを長くお使いの方が非常にたくさんいらっしゃって、それと同じ感覚で撮りたいというご要望が当然ありました。しかし撮像素子を単に大きくするだけでは、値段が高くなるばかりで実が伴わない。撮像素子を大きくすると、レンズも含めて大きく重くなりますし、画質にも問題があるとしたら、ユーザーにメリットがありません。そこでこれまでは総合的に考えてDXフォーマットが一番いいという判断でして、別に35mmサイズを否定していたわけではありません。そうして、いろいろな研究の積み重ねで、総合的に値段や性能などが「納得いただける」というところまで来た、ということで今回、D3の製品化に至りました。

12M(1200万画素)という画素数ですが、プロのユーザーの画質に対する要望、それから幅広い仕事に対応しなければいけないというのがD3の企画上のキーポイントになっています。一般に、ひとりのプロカメラマンでも撮る被写体は多岐にわたるので、1台のカメラでスタジオのブツ撮りのようなカチっとしたものから、報道やスポーツのような激しい状況下で撮影するものまで全部カバーすることが求められます。すると、ある程度の画素数は必要ですし、感度域も高いところまで必要になります。それらいろいろ考えると、12Mピクセルあれば相当幅広い仕事に対応できて、高感度も実現できると判断しました。フォーマット、画素数、感度のレンジなど、どれが一番プロにとって幅広く仕事できるかを考えたところ、D3になったというわけです。

といっても、たとえば今回我々がD300もフラッグシップだと申し上げているとおり、こちらもDXフォーマットならではの良さを持った、非常にワイドレンジで使えるカメラですから、FXでもDXでもユーザー様の選択肢が増えたとお考えいただきたいと思います。

--D3を作る上でブレークスルーになるような技術があったんでしょうか?

川路:さまざまな画質の向上技術が大きいです。画像処理は基本的にD3とD300に同じものを積んでいますが、多くの新技術の中でいちばん影響力があります。わかりやすいところでは倍率色収差の補正機能です。RGBの倍率を調整して最後の絵を作るという技術が確立して、それを使えばRGB各色の結像倍率の相違から起こる画像の乱れが軽減できます。画面全域で効果がありますが、特に目立ちやすい周辺の乱れが相当軽減できます。

この機能はDXフォーマットのD300でも採用していますが、DXフォーマットの画像に対しても非常に効果があります。実際の結像を見ますとRGBが分かれていても、各々はシャープに結像しているということがかなりあります。そこでRGB各色の像の倍率を調整して同じ大きさにしてから絵にまとめ直すと非常にすっきりした絵が得られます。ですから、レンズの性能を実質的に上げていくような感覚もありますね。FXフォーマットならではの良さをしっかりアピールするための非常に重要な基礎技術です。

--FXフォーマットになって何が可能になりましたか?

川路:高感度画質と画素数の両立ですね。もうひとつはフォーマットが違うと焦点距離と画角と絞りのボケ方の関係が変わります。その関係をフィルムカメラで培った感覚がそのまま使えるのはやはりFXフォーマットならではの利点です。

ただ、我々がことさらに2つのフラッグシップと申し上げておりますのは、この2機種は上下関係ではないからです。お互い、より得意な場面というのがやっぱりあるわけです。大きさや重さも違いますから、いろいろユーザーさんも持ち比べてとか、撮影に持っていく交換レンズをどれにするかも含め、総合的な選択肢が広がったと思っています。ご承知のとおり、D300のスペックはD3と比較してフォーマット関連以外は共通部分が非常に多く、スペック的には同等、見方によってはD300のほうが電源や大きさの選択性など、より柔軟性があります。ですからどちらもフラッグシップであり、お互いに補完する関係だと考えています。

--自社新開発CMOSというと、D2Hで採用されたLBCASTを思い出しますが、LBCASTから継承された点は何かありますか? それとD3とD300でサイズ以外の撮像センサーの違いは?

川路:LBCASTにおいての撮像素子製造、設計、開発のノウハウがD3用撮像センサーには生かされています。

岩崎:D3のセンサーでは、9コマ以上の連写性能を実現するために12チャンネル並列の読み出しが必要でした。DXフォーマットでも同じ構造のセンサーを作ろうと思えばできますが、並列処理のためには回路も並列分だけ必要になりますから、サイズが大きくなって部品点数も増えます。ですからD3はアナログ出力の直後に処理する方式ですが、D300では回路をコンパクト化するために撮像素子内部でデジタル処理してから出力しています。このほうが総合的にメリットが大きいと判断しました。

画像処理システムEXPEEDの処理チップ。倍率色収差を補正する機能も持つ

D3のシャッターユニット

D3に搭載された35mmサイズ「FXフォーマット」のCMOSセンサー。画素数は約1210万画素

D300に搭載されたDXフォーマットのCMOSセンサー