東京・渋谷区神宮前のGALLERY HIPPOにて17日より、オフィス新大陸による企画展「世界のボードゲーム・アート展」が開催されている。海外製ボードゲームに着目した今回の企画展は、見ているだけでも楽しいものから、日本には数点しかないような貴重なものまで、多種多様なボードゲームを展示。規模こそ小粒なれど、普段ボードゲームにあまり親しみのない人から、コアなプレイヤーまで楽しめる濃い内容となっている。会期は12月2日までで、開場時間は11時から19時(日曜日は17時まで)。入場無料。

会場のギャラリー近くにはお洒落なお店が立ち並び、女性も入りやすい雰囲気。ゲームファンはもちろん、海外のアートや小物が好きな人にもおすすめしたい

ギャラリーにはカラフルなゲームの数々が並ぶ。手前のものは塔を積み上げる『ヴィラ・パレッティ』(左)と、正倉院に所蔵されるほどの歴史を持つ『バックギャモン』(右)

今回の展示を企画したオフィス新大陸は、海外ボードゲームの文化を日本に伝えるため、数々の書籍や雑誌、イベントを制作・企画するプロダクション。代表の坂本犬之介氏と双六屋カゲゾウ氏に、今回の展示と欧米のボードゲーム文化についてお話をうかがった。

「今回並べたゲームはアート性を志向したことは事実ですが、特別に奇抜な作りのものだけを集めたわけじゃないんです。ごく一般的なボードゲームでも、このくらいアート性の高いものが多くて、ドイツやアメリカではこれらは街中でごく普通に売られています」

欧米のボードゲームは、作家の名前がファンに広く知られているのが特徴。こちらは巨匠と呼ばれる故アレックス・ランドルフのサイン入り『ラッセルバンデ』

変形の陣取りゲーム『タムスク』のコマはなんと砂時計。砂が落ちきるとそのコマが動かせなくなってしまうという、長考厳禁のスリル満点なゲーム

「日本では大人が子供に付き合ってあげるというタイプのボードゲームが多いんですが、海外のものは、ルールもコンポーネント(部材)もはじめから子供から大人まで楽しめるように作ってあって、世代を超えて親しまれています。大人も本気で楽しむことで、子供とのより深いコミュニケーションを育めるように、というスタンスなんです」

「また、日本のボードゲームはキャラクターとセットになったものがほとんどですが、欧米ではゲームのシステムそのものが評価されていて、キャラクターグッズとしてではなく、遊んで面白いかどうかがシビアに判断されるのも特徴です」

「ボードゲームの世界はいまドイツが最先進国で、世界40カ国から業者が集まる見本市が年2回開催されるなど、日本では想像できないほど大規模なマーケットが広がっています。公園やパブ、図書館など町のあちこちで大人から老人までがボードゲームやカードで遊んでいるのもヨーロッパではごく当たり前の光景です。とくにドイツは冬が長く、家族が屋内で過ごす時間が長いために、人と会話することが主軸になるボードゲームの人気が高いといえます。ボードゲームは、一般家庭に欠かせないものなんですね」

ドイツ製ボードゲームの代名詞的存在『カタン』。ウイスキーメーカーと提携し、ウイスキーに因んだアレンジ要素を加えた貴重な特別版も展示されている

羊のフィギュアが愛くるしい『ひつじパニック(毛狩りパニック)』。毛刈り役の羊から逃げながら得点を重ねていく。かわいさとは裏腹にパズル要素もなかなか強い作品

「我々が海外ボードゲームの最もすばらしい点、日本に伝えたいと思っている文化は、そのコミュニケーション性の高さなんです。海外の見本市でもゲームルールという共通言語があれば、違う国の人同士であってもすぐにコミュニケーションが取れる。駆け引きや心理戦はもちろん、遊びながら日常のことなどいろんな話が出ますから、コミュニケーションを円滑にしてくれるツールとして、日本でもボードゲームがもっと注目されるようになるといいですね」

日本人になじみの深いトランプももちろん展示。海外では、有名ファッションブランドやデザイナーが意匠を手がけるものも多く、コレクターもいる。こちらはエルメス製

女性にも人気という『デュスターバルドの狼男』(『ワーフルフ』とも)。狼男、村人、預言者などの役割に分かれ、誰が狼男かを話し合って推理するという心理戦が楽しめる

ダイスセット? と思いきや、こちらもゲーム。出た目を組み合わせて大きな数字を作っていく『シックスミックス』。運だけでなく戦略も試される

回転する木製の宝石箱に隠された宝石を探し出す『マイスター・ディーベ(盗賊の親方)』。コンポーネントそのものが工芸品となっている芸術作。お値段もかなりの高額だとか

このタペストリーも町の発展を目指す『ケイラス』というゲーム。メーカー曰く「世界に10点しかないタペストリーで、日本にはオフィス新大陸にしか寄贈していない」とのこと

インテリア性も備えた木製ゲーム『アルボスの木』。不安定な木の幹に、手持ちの葉と枝を接いでいく『ジェンガ』のようなバランスゲームとなっている

誰でも楽しめる『アルボスの木』を、来場者も交えて早速プレイ開始。枝葉を接ぐごとに歓声が、崩れた瞬間には大きな悲鳴が上がっていた

会場では便宜上「ボードゲーム」という呼び方がされているが、アナログで人と遊ぶタイプのゲームが幅広く集められているので、じつはボードゲームに対して固定観念を持つ人ほど刺激的な内容と言えるだろう。デジタルなテレビゲームとはひと味違うアナログゲームの世界に触れる絶好の機会なので、東京に足を伸ばせる人は立ち寄ってみてはいかがだろうか。