米Sun Microsystems社長兼CEOのJonathan Schwartz氏

現在米カリフォルニア州サンフランシスコ市内で開催されている「Oracle OpenWorld 2007」の3日目にあたる14日朝(現地時間)、米Sun Microsystems社長兼CEOのJonathan Schwartz氏のキーノートスピーチが開催された。Project BlackBoxやZFS、UltraSPARC T2など、ここ最近の同社の成果を紹介しつつ、DellとのSolarisライセンス販売契約や、xVMによる仮想化ハイパーバイザ市場への参入など、最新のアナウンスも混ぜたサプライズな講演となった。

Sunのプラットフォーム戦略を振り返る

「The Market's Changing (Again)」のタイトルでスタートしたSchwartz氏の講演は、市場の要求に対してどう応え、イノベーションの中でどう市場をドライブしていくかをテーマとしたものだ。特定の技術に固執するのではなく、市場の変化やニーズに合わせて柔軟に戦略の転換やソリューションの展開を行っていくことが業界での生き残りにつながる。

Sunの直近の成果としてはコンテナ型のデータセンター「BlackBox」が挙げられる。可搬性に優れるデータセンターソリューションは、完成されたデータセンターシステムを急速展開し、必要に応じての撤収や移動も容易にする。ソリューション活用事例として、北京五輪のような特定のイベントの会場での動画配信、無線ネットワークのプロバイダが地方にデータセンターを配備する場合の選択肢となっていることを紹介した。BlackBoxが開拓するのはニッチなニーズの開拓だ。Solaris OSの積極的な拡販や、Javaのオープン化を推進して携帯デバイスの販売台数増に合わせてのプラットフォームの拡大なども、ニーズや販売機会拡大を見越した柔軟な戦略転換だといえる。

ニーズを読むという意味では、消費電力効率を極限まで高めたソリューションである「UltraSPARC T1/T2」などは、業界の先駆けともいえる。AMDやIntelなどのプロセッサベンダでは最近、自社製品のPPW(Performance Per Watt)の高さを積極的にアピールし、消費電力削減をうたったイニシアチブを立ち上げるなど、活動を活発化させている。また、AMDとIntelは共にシステムリソースのユーティリティ化を積極的に推進、仮想化へのコミットメントを高めている。「UltraSPARC T2は仮想化に最適なプラットフォームだ。64の独立したプロセスが1つのプロセッサ上で動作する。これにより、SolarisからWindows、Linuxまでさまざまな仮想マシン(VM)のインスタンスを同時に走らせることができる」とSchwartz氏は述べ、Sunもまた仮想化を推進するベンダの1つであることを強調した。

可搬性に優れたコンテナ型データセンターのProject BlackBox

GPLによるオープンソース化1周年を迎えたJava。ある意味で最も成功した仮想マシン(VM)環境だ

UltraSPARC T2。消費電力あたりのパフォーマンス効率と並列動作性を究極まで高めたUltraSPARC T1/T2シリーズだが、整数演算中心のT1に対して、T2では浮動小数点演算を含むパフォーマンスを大幅に強化、ネットワークやセキュリティ補助機能などの拡張も施されている

昨今のデータセンター事情。システムに占めるハードウェアのコストの割合が減る一方で、電力コストと管理コストが増大していることがわかる。これは前日のIntelの基調講演で示されたグラフと同じ傾向だ。消費電力を減らし、複雑化する管理をいかに仮想化するかがSunの目標の1つだという

Solaris 10が持つ技術的優位性の1つ「ZFS」。オープン化によるコミュニティ拡大とストレージアプライアンスとの組み合わせ、そしてWindowsやLinuxなど他のプラットフォームの連携で利用機会拡大を狙う

Solarisや搭載機能について、ダウンロードが行われた地域をZIPコード別に集計したところ。北米、欧州、日本周辺に集中していることがわかる

Michael Dellがステージに登場 - サーバ業界のライバルどうしの提携

Schwartz氏の講演で最初のサプライズとなるのが、Dellとの提携だ。壇上には米Dell会長兼CEOのMichael Dell氏が登場、Dellのサーバ製品とともにSolaris OSを販売するOEMライセンス契約を結んだことを発表した。これまでSunはSolarisとSunFireサーバの拡販にあたり、Intelとの技術提携を皮切りに、IBMのX seriesサーバ向けのSolarisライセンス販売契約、MicrosoftとのSunハードウェア上でのWindows Serverライセンス販売契約などを立て続けに発表している。この一連の提携に続く4番目のアナウンスが今回のDellとのOEM販売契約だ。

SunとDellは世界のサーバ市場でトップ3の座を激しく争うライバル関係として知られている。ハイエンドを得意とするSunに対し、PCサーバの販売で着実に売上を積み上げるDellは好敵手であり、そのときどきのトレンドに合わせてサーバ市場シェア第3位と第4位が入れ替わる形で一進一退が続いている。

そんな両社が選んだのが今回の提携だ。そのメリットについてSchwartz氏とDell氏は「チャンスを拡大するための戦略。両社が共同で市場とチャンス拡大を狙っていく」とその意図を説明する。SunにとってはDellのサーバ製品が売れることでSolarisのライセンスやサポート契約のチャンスが得られ、Dellにとってはソリューションの幅が拡大する。後述するが、Sunは仮想化にも力を入れており、その受け皿となるハードウェアでの販売機会が増すメリットは大きい。

サプライズゲストとして登場したのが米Dell会長兼CEOのMichael Dell氏

ハイパーバイザ「xVM」発表、仮想化市場へのコミットメント

Sunのキーノートのサプライズ第2弾が仮想化市場への正式参入だ。これまでも仮想化を意識したハードウェアやソフトウェア展開を進めてきたが、自ら仮想化に必要なハイパーバイザや管理ツールをリリースしてSolarisやSunFireサーバ拡販を目指すのは初となる。Dellとの提携と並ぶ大きな戦略転換だ。

xVMはXenをベースとしたオープンソースの仮想化技術となる。ハイパーバイザの「xVM Server」と管理ツールの「xVM Ops Center」の2種類のソフトウェアから構成される。xVMではSolarisをはじめ、WindowsとLinuxをゲストOSとして動作可能。Ops Centerによりリソース管理に加え、自動パッチ処理やコンプライアンスレポート機能なども提供される。

サプライズ第2弾はSunの仮想化技術「Sun xVM」

Sunが目指す仮想化されたデータセンター環境。解説するのは米Sun Microsystemsソフトウェア部門エグゼクティブバイスプレジデントのRich Green氏

xVMはハイパーバイザの「xVM Server」と管理ツールの「xVM Ops Center」から構成される

SunがxVMで強調する1つのメリットとして、Solarisのリソースを仮想化環境に組み込める点を挙げている。たとえばSolarisの特徴のひとつにファイルシステムのZFSがあるが、xVMを使うことでWindowsなどの他の環境から透過的にZFSボリューム内のリソースへのアクセスが可能になるという。Solarisアプリケーションをポーティング作業なしで直接ハイパーバイザを介してWindowsシステムと同じシステム上で動作させるなど、仮想化技術ならではのサーバ統合のメリットもある。Sun自身にとってはソフトウェアとハードウェアの両面で販売機会を拡大させる一挙両得なソリューションだといえる。

xVMはオープンソースで公開され、発表同日よりソフトウェアの利用やリソースの参照が可能。SunはxVMのコミュニティサイト「openxVM.org」の立ち上げも発表しており、「ハードウェアからソフトウェアまですべてのレイヤの仮想化を目指した次世代のダイナミックデータセンター」実現を目指し、技術開発や市場展開を目指す。

xVM ServerはSolaris、Windows、LinuxをゲストOSとして動作させることができる。またOS間の各機能に透過的にアクセスすることが可能

xVM Ops Centerはリソース割り当てだけでなく、自動パッチ処理やコンプライアンスレポートなど、運用をサポートする各種機能を備える。画面はOps Centerの動作例

xVMサポートを表明するパートナー企業群

サーバだけでなく、ストレージからデスクトップまで、すべてのリソースの仮想化を目指す

xVMは発表当日より提供開始。また同日より、専用コミュニティサイトのopenxVM.orgの設置がアナウンスされた