どうも、バラエティDVDソフト紹介コラム「こんなDVDありますけど?」を書かせていただいている熊方雄二と申します。今回は、編集さんから「たまには映画も観なさい。そして紹介レビューも書きなさい」という重大な指令をいただき、10月27日に公開される大作ファンタジー映画『スターダスト』を観ることに……。「記事名はやっぱり『"スターダスト"レビュー』しかないよなあ」なんてどうでもいい事を考えながら、試写会に向かいました。

主人公のトリスタン(チャーリー・コックス)とイヴェイン(クレア・デインズ)。このイヴェイン、実は流れ星なんです。わけわかんねーよ、という方、もっともです。バリバリ読み進めてください

クレア・デインズ、ミシェル・ファイファー、そしてロバート・デ・ニーロという大物スターたちが豪華共演する大作ファンタジー。そんなあいまいな事前情報のみだったので、「これは大人版『ハリー・ポッター』みたないな感じ?」とか「『ロード・オブ・ザ・リング』を越える感動の大作かも!」なんて勝手な期待に胸が膨らみます。

さらに原作を担当しているのは、天才的なストーリーテラーとして映画・コミック、TVなどでも才能を発揮し、現代のファンタジー文学界の最高峰に君臨する作家といわれる英国のニール・ゲイマン。あの『もののけ姫』海外公開時には英語版脚本を担当したという立派な人です。そんなに凄い人の原作なら、きっと難解で壮大な物語に違いないと観る前に勝手に思い込んでおりました。そんな何の予習もしておかなかった自分の事を今は激しく責めております。実際に観てみると、まるで中学生が昼休みにサクッと考えた物語みたいにシンプルだったので安心しました。それでも、試写会の暗闇の中には、携帯のライトで手元を照らしながら、必死にメモを取っている映画ライターさんのプロフェッショナル過ぎる姿がありました。

『スターダスト』のストーリーはこうです。イングランドのはずれのウォール村には、現実世界とファンタジー世界「ストームホールド」との境界線である壁(ウォール)があります。これは表向きは秘密なのですが、村の名前と、あからさまな裂け目のある壁のビジュアルで、かなりバレバレです。18年前、好奇心旺盛な若者がこの壁を越えて、ストームホールドへと足を踏み入れます。禁断の境界線のはずですが、この壁を守るのはたったひとりの老人なのでまったく無問題。あっさりと壁を越えた若者は、この未知のファンタジー世界に割と数秒で馴染み、数分後には現地の女性と恋に落ちベッドイン! 気分良く、村に帰宅します。ひと夏の避暑地の恋って感じです。

時は流れ、彼の元にひとりの赤ちゃんが届けられます。そう、あの夜、彼は現地の娘を妊娠させていたのです! 赤ちゃんにはトリスタンという名前が付けられていました。すくすくと成長したトリスタン(チャーリー・コックス)は、村一番の美女ヴィクトリア(シエナ・ミラー)に恋して、軽くストーキング。フィアンセもいるヴィクトリアはもちろん断固拒否します。それでもヴィクトリアを口説き続けるトリスタンは彼女の気をひくために、ストームホールドの向こうに流れ星を取りに行くのでした。こうして、愛のために流れ星を求める、トリスタンの冒険が始まるのです。

ハイ、こちらがその流れ星です! なぜ女性の姿をしているのかは謎。彼女をめぐって争いが巻き起こります

『スターダスト』は、本当にこんな感じで始まります。特に大きな志や使命もなく、好きなねーちゃんの気をひくためだけにストームホールドへと冒険の旅に赴く主人公トリスタン。「僕を生んでくれたお母さんに会いたい!!」みたいな強い感情もほとんどナッシングなので、正直、彼に共感するのは難しいです。トリスタンの追う流れ星は美しい女性の姿(クレア・デインズ)をしていて、不老不死をかなえる力を持っていたり、ストームホールドの王位継承の条件となるアイテムだったりするので、様々な人に狙われています。トリスタン以外にも魔女三姉妹(リーダーはミシェル・ファイファー)や王家の息子たちが登場。魔法や武力を駆使し、流れ星争奪戦を繰り広げるのです。あまり本筋とは関係なく名優ロバート・デ・ニーロも女装趣味のある海賊としてゲスト参戦します。

ギャー! 怖いー! 流れ星を狙う恐ろしい魔女三姉妹。残忍な動物占いで未来を予言。この醜い姿から逃れるには、流れ星の心臓を食べて永遠の若さを手に入れるしかない……ってこの設定もなんだかスゴイ

とにかく全編、気楽に観られるライトファンタジーです。未知の魔法の国で大冒険をしているという緊張感はあまりないまま、物語は進んでいきます。トリスタンなんて、冒険の途中で壁を越えてウォール村に一時帰宅したりもします。なんか、ほのぼのしてます。流れ星役のクレア・デインズも、星というよりただのわがまま娘です。ミシェル・ファイファー演じる魔女も、なんかいつもふざけています。魔法や剣でバタバタと人が殺されていきます。でも、死んだ人の何人かは亡霊となって登場し続けるので、あまり悲しみもなく、人命に重みがない感じです。

殺されたストームホールドの王子たち。「こっち見んな」って感じでしょうか。次の王が決まるまでは成仏できない。みんな酷い殺し合いをした仲なのに、明るいです。死んだときの姿のままなので、酷い顔してます

流れ星争奪戦も、目の前のおつかいのようなクエストを、なんとなく流れに従ってこなしていくうちに進んでいきます。王族の兄弟が全員下劣だったり、20年以上も魔女に捕らえられているトリスタンの母親が、パンチ一撃で魔女を倒し自由の身になったりと、人命だけでなく、過去の歴史や時間の重みも感じられません。この作品は、数多のファンタジー映画のパロディとして作られているのではないか、という気がしてなりません。

空飛ぶ海賊のリーダー、キャプテン・シェイクスピア。魔法世界の住人だが現実世界に憧れ、こんな名前を名乗る。ストームホールドの空を支配する男だが、女装癖アリ

それでも、ファンタジー世界の映像は素晴らしいです。特に斬新なビジュアルがあるというわけではありませんが、誰もがイメージする「剣と魔法の中世の世界」をきっちりと映像化しています。海賊が乗る船は、ゲーム『ファイナルファンタジー』の飛空艇の実写版みたいで、サイコーでした。

シェイクスピアに気に入られ、海賊船で剣の扱いを習うトリスタン。「現実のイングランドから来た」という理由で、イングランドに憧れる海賊と仲良しに

何作も続く重厚なファンタジーも素敵ですが、そればかりでは息が詰まってしまいます。『スターダスト』のように、サクッと気楽に2時間楽しませてくれる映画も時には良いもんです。ぜひ劇場で楽しんじゃって下さい。

10月27日(土)日劇3ほか全国ロードショー。配給はUIP。

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