昔の歌へのこだわりを吹っ切った野村義男の言葉

今回のアルバムには、「銃爪」、「宿無し」、「あんたのバラード」というツイスト時代の名曲も収録されている。ほかの曲と同様、ハードなギターサウンドに変身。世良のハスキーな歌声はますますパワーアップしており、思わず懐かしさと驚きが交差する。しかし、世良本人にしてみれば、これらを歌えなくなった時期もあったと言う。

「日本ではメジャーでデビューすると、いくらキャリアを積んだとしても、『あの』という言葉が付いて回るんです、宿命として。あのツイストの世良、あの『あんたのバラード』の世良でしょ、っていうね。俺の30年というキャリアの中で、ツイストはたった3年半しかやっていないんですよ。でも結局、『あの』とか『あれ』と闘っていかないといけない。だから30代に入った頃には面倒くさくなって、もう新曲しかやらないって思った時期もある」

世良は1981年のツイスト解散後、数多くのテレビドラマや映画に出演し、俳優としても活躍の場を広げた。1998年の今村昌平監督作品『カンゾー先生』では、第22回日本アカデミー賞助演男優賞を受賞している。しかし、ソロボーカリストとしての活動も忘れず、1990年からはアコースティックサウンドを中心としたライブを開始。これが好評で、アコースティックギター1本でのロックライブや、アコースティックユニットの結成などにつながる。

「10数年前ぐらいかな。ツイスト時代の曲も自分が作ったものであることには代わりないし、自分のライブというものを客観的に見たときにそういう曲を歌いたいと思ったら、使えばいいじゃないか。人に押し付けられて作ったものではないんだから。そう気がついたんですね」

そして、2001年に自主レーベル「spicule(スパイキュール)」を立ち上げ、GUILD9を結成することになる。ツイスト時代の歌へのかたくなな思いを、最終的に吹っ切れるようになった要因の1つが、GUILD9のギタリスト、野村義男の言葉だった。

「彼が言うには、自分のバンドやセッションで『銃爪』をやるときはコピーであり、世良さんをカバーしていた。でも、GUILD9で『銃爪』をやるときには僕は本物ですよね、って。そう、この時点で俺と演奏する『銃爪』はまぎれもない本物の『銃爪』。21のときに歌っていたのと同じであるし、同時にまったく違うもの。もちろん、初めて聴いて『これが世良か』と言う人もいれば、昔の思い出に引きずり戻される人もいる。そういうことを自分ですべて背負って初めて、音楽のキャリアを積んでいくことになる。だから人の曲だろうが自分の曲だろうが、自分がやれば自分の音になるわけだし、それが分かったんですね」