6月19日、総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」が中間取りまとめ案を発表し、通信と放送に関係する現行の各法律を「情報通信法(仮称)」に一本化するという指針を明らかにした。現行の9法を1つの法律にまとめるというスケールのみならず、「通信の秘密に関する行政府の関与を方針転換した」と総務省の担当者が語るように、これまで不可侵とみなされていた通信の秘密に一歩踏み込んだのが特徴だ。法案の中身と課題は何か。パブリックコメント締め切りが7月20日に迫る中、緊急レポートする。

ルーツは竹中平蔵氏

そもそもこの研究会が設置され、なぜこの時期に中間取りまとめを行ったのか。ルーツはあの竹中平蔵氏にさかのぼる。竹中氏が総務相を務めていた2006年1月、NHKやNTTの在り方についての議論を行う場として、「通信・放送の在り方に関する懇談会」が発足。同懇談会は同年6月6日に最終報告書を提出し、その中ではNHKやNTTに関する提言のほか、2010年までに通信・放送に関する法体系を全面的に見直すべきとの提言も盛り込んだ。政府・与党合意でこの報告書が了承された後、同懇談会で残された課題について議論する場として、竹中氏の総務相退任直前の同年8月30日、「通信・総合の総合的な法体系に関する研究会」が発足したのだ。

総務省で同研究会を担当する情報通信政策局通信・法制企画室室長の内藤茂雄氏は、研究会発足後1年未満のこの時期に中間取りまとめを行った狙いについてこう語る。「通信・放送は国民生活に直接の影響を及ぼす分野。年内の最終取りまとめを目指しているだけに、早めに枠組みを示して広く議論を募りたかった。その意味で今回の取りまとめ案は、理論というか、法律の枠組みが中心となっている。今後の議論では、今回示した法律の枠組みの中で、どのようなビジネスができるかなどについてヒアリングを進めていき、年内の最終取りまとめに生かしたい」。

「公然通信」も法の規制の対象に

まず、大枠を示したという今回の中間取りまとめ案だが、提言された「情報通信法(仮称)」の中には、大きく分けて3つの法体系が含まれている。

  1. コンテンツに関する法体系
  2. 伝送インフラに関する法体系
  3. プラットフォームに関する法体系

これまで、インフラや技術を中心に縦割りに体系化されていた法律を、サービスの中身を中心にしたレイヤーごとの法体系にしたのが最大の特徴といえる。つまり、「電波や通信上に流れているもの」(コンテンツ)、「コンテンツなどを流している人」(伝送インフラ)、「いろんなプレーヤーの間を媒介している人」(プラットフォーム)という枠組みごとに分けた結果、3つの法体系になるというわけだ。

今回の中間取りまとめ案では、現行の縦割りの法体系から「レイヤー構造」への転換を提言している(出典:総務省「通信・放送の総合的な法体系~中間とりまとめ(案)のポイント~」)

この中で、最も国民の関心が高いといえるのが、1の「コンテンツに関する法体系」ではないだろうか。そして、「従来踏み込めなかった『通信の秘密』に関する方針を役所として事実上転換した」(内藤室長)のも、この法体系においてである。

研究会が示したコンテンツの枠組みは以下の3つである。

  1. 特別メディアサービス
  2. 一般メディアサービス
  3. 公然通信

「通信の秘密」に踏み込んだのは、3の公然通信において有害・悪質なコンテンツを制限するために導入するとした「ゾーニング規制」。取りまとめ案では公然通信を、「メディアサービス」(後述)を除く「公然性を有する通信」と定義しており、同省によればホームページなども含まれるとしている。「ゾーニング規制」は「ホームページ上の悪質・有害な書き込みを削除するなどの取り組みについて、従来は民間にまかせきりだったが、役所が関与することで実効性のあるものにする」(内藤氏)という。内藤氏によれば、その際、中身を直接制限するのではなく、サイト自体を見られないようにするような何らかの技術的措置を講じるとしている。

この場合問題となるのは、やはり「有害・悪質なサイト」の判断基準であろう。これらを判断するためには、サイトのチェック機能を行政府が持つことになる。こうした判断をどうするのか。第三者機関に委託するのか、サイバーパトロールが常に巡回するようなことになるのか。サイトの内容によっては技術的制限を設けてアクセスをできなくするという事態も、ネット社会が大きく変容する可能性がある。内藤氏自ら「通信の秘密への方針を転換した」というように、そこまでする必要はあるのか、現行のプロバイダー責任制限法(※)では不十分なのか、検証する必要があるだろう。

(※:正式な法律名は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)

コンテンツに関する法体系では、現行の地上波放送の枠組みが「特別メディアサービス」として維持されるほか、「メディアサービス」を除くホームページなどの「公然性を有する通信」も規制の対象となっている(出典:総務省「通信・放送の総合的な法体系~中間とりまとめ(案)のポイント~」)

また、「公然通信」というのがあいまいな点も気にかかる。「コンテンツに関する法体系」に含まれない私信など特定の人間間における通信は「通信の秘密」を保護するとしているが、すでに会員数が数百万人にも達したSNSなどは、「公然性」を有しているとみなされ、結局規制の対象になる可能性もあるのではないか、という疑念は消えない。法制化に際しては、この「公然通信」に関する明確な定義を求めていく必要があるのではないだろうか。