現在の消費者は価格合理性に対するセンスが圧倒的に鋭いのだ。ブランドイメージやデザインがいかに優れていても、価格が合理性を失ってしまえば、商品の魅力も色褪せてしまう。ソニー製品はその優れた性能とデザインで、かつては価格が他社製品より少々高くても売れていたわけだが、いまではこうした「神話」も影を潜め始めている。

最近、中国の家電業界で、ある喩えがまことしやかに語られた。曰く、ソニーは豪華なオープンカーを運転して高速道路をゆっくり走る貴族で、Samsung電子はオンボロ車を運転して狂奔する平民、だというのだ。いまの中国ではそれこそ至る所でSamsung電子の広告を見ることができるが、ソニーとなると、大体売店のカウンターでお目にかかれる程度。Samsung電子並みといえば、専用のデジタル会館を1棟所有する以外、ソニーには目立った宣伝活動がないようにすら感じる。

ソニー神話の陰りは、むしろ中国の若い世代に顕著なようである。ソニーブランドは、もはや唯一心を打たれる製品でないのだ。Samsung電子以外にも、中国企業の巨頭Lenovo、Haierなどがソニーを目標に定め、猛追を始めている。ブランドとしても、いまや「Made in China」は無視できない勢力となってきている。

ソニーも、危機の存在を明確に意識し始めているようだ。中国を「ハイテク電子製品市場」として認識する点では一歩遅れをとったが、ここ数年のソニーの中国事業を見る限り、この古参ブランドも俄然ピッチを上げ始めている。しかし、ソニーがいまから中国市場におけるペースを上げたとしても、多くの若い消費者は既にSamsung電子に奪われている。今後、最終的に中国で失った市場を奪回できるかどうかは、この巨大な多国籍グループの決心と実行力にかかっている。