インターネット技術の総合展示会「Interop Tokyo 2007」が13日、千葉市美浜区の幕張メッセで始まった。「"THE Internet"~ビジネスを加速させる為の課題の解決策がここにある~」がテーマ。そのオープニングを告げる基調講演を、元米マイクロソフト副社長で現在は慶應義塾大学デジタルメディアコンテンツ統合研究機構教授の古川享氏が行った。「IP Network 新時代」と題した講演の内容をレポートする。

IP化が仕事の流れも変える

古川氏はまず、最新のデジタル・IP技術が様々な分野でどのように生かされているのか、具体的な製品名を挙げながら紹介した。

古川氏自身が昨年体験したU2やエリック・クラプトンのコンサートでは、最新のデジタルミキシングコンソール「DiGiCo D5」を使い、音声をすべてリアルタイムにデジタル化、それをスピーカー出力やライブ録音に用い、コンソールとパワーアンプもイーサネット接続・IP制御していた。また、24ビット96KHzサンプリングの"HDオーディオ品質"を実現したオンキヨーの音楽配信サービス「e-onkyo music」とHDオーディオ専用PCに触れ、「IP経由の音質はすでにCDを超えている」と強調した。

「IP化の是非を論じる時代は終わった」と語る古川氏

一方、古川氏は「パケットの遅延や欠損が許されない放送の世界でもIPの適用領域が広がっている」と指摘。一例として、NHKが東京の本局と地方局の間を結ぶ伝送回線のバックアップにIP回線を採用していることを挙げた。東京・新潟間で専用線の光ファイバが寸断された2004年の新潟中越地震の時は、押さえのIP回線により映像を中継し続けたエピソードを紹介し、「実際には2コマ落ちていたが、NHK側さえ気付かなかった」という裏話を披露した。また、最近では、一部番組で公衆無線LANを使った生中継を行っている事実に触れ、放送業界のIPに対する認識が変化していると述べた。

加えて、「映像制作の現場でもデジタル・IP技術の浸透は目覚ましい」と、2005年末に公開された映画「男たちの大和」のフルデジタル制作のプロセスを説明。デジタルビデオカメラで撮影データを編集ラボに非圧縮でIP伝送すると同時に、撮影現場で映像を確認し、粗編集を行う。その編集シーケンス自体を編集ラボと共有するというスタイルがとられていたという。

「IP化の流れは、映像制作の仕事の流れも変え始めている。すでにHDTVの4倍の解像度を持つ"4Kコンテンツ"をリアルタイムかつ長距離でIP配信する技術も実証されている。この技術を使えば、今は大がかりな機材を現地に持ち込んでいる海外中継も、カメラから直接、映像をリアルタイム・非圧縮で日本に送り込み、日本でカメラをスイッチしたり、編集することができる」(古川氏)

ブレークスルーは玩具ロボット

続いて古川氏は、家庭用機器の局面からIP化の流れを説明。「Apple TV」に代表されるようなPCとテレビを結ぶコンバーター(メディアプレーヤ)や「GyaOプラス」のようなIP放送用セットトップボックスが今後普及するだろうと予測した。また、「DLNA(Digital Living Network Alliance)」の動向も注目に値するとし、会場内でデモを披露した。200MHzクラスのCPUを搭載したDLNAサーバ役の組み込みボードから、DLNAクライアント機能を実装した薄型テレビ2台へ、著作権保護(DTCP-IP)のかかったHD映像を2本同時にIP配信するというもので、DLNAがかなり高い実用水準に達していることがうかがえた。

講演の中で特に興味深かったのは、IP化の流れを可能にしたブレークスルーはIPスタックの軽量化であり、それを最初に実現したのは、タカラ(当時)とNTT西日本が共同開発したIP制御可能な玩具ロボット(ADSLサービスの販促品として2001年に登場)だったという逸話。その軽量スタックにより、低速CPUでも数十MbpsのIPスループットを実現し、それが情報家電など組み込み機器へ広がり、現在のIP化につながっていると指摘した。

古川氏の講演内容は、全般的にタイトル通り新時代到来を感じさせものだったが、一方で同氏らしい海外と比較した上での国内関係業界への苦言も随所に聞かれた。

英BBC放送がマルチデバイス、マルチチャネルを通じてコンテンツを配信することを宣言し、動画共有サイト「You Tube」上にチャンネルを開設したり、米通信最大手ベライゾンがIP放送を自ら手掛けている例を引き合いにだし、「日本は世界一の高速IP網を実現しているのに対し、ビジネスモデル構築では欧米の後塵を拝している」と強調。「IP化を議論する時代は終わり、もはや、その上でどういうオープンなビジネスを生み出すかが議論の的。それが欧米の標準」として、商慣習や法令にしばられ、IP化が遅れたり、IPを使いながらも閉鎖的なサービスが多い日本国内特有の問題点を鋭く指摘していた。