企業がITを活用する局面では90年代から、BI(Business Intelligence)の発想が重視され、欧米では早くから取り入れられている。しかし、日本では、それほど導入が進んでいるとは言い難い状況だ。このような中、BIの有力ベンダーの一つである米Business Objectsを創設した、ベルナルド・リオトー会長兼最高戦略責任者が来日した。氏は、BIが次の段階へと移行しつつあると指摘。そのうえで、自身が予測するBIの未来像について明かした。以下、その内容について簡単にご報告したい。

米Business Objects 会長兼最高戦略責任者 ベルナルド・リオトー氏

リオトー会長は、1990年にビジネスオブジェクツを創設、2005年9月までCEOを務め、現在は会長兼最高戦略責任者として、ジョン・シュワルツCEOや同社の経営委員会に対して助言を行っている。

BIはそもそも、企業内の各所に散在している、多数の情報を収集/蓄積し、さまざまな分析/加工が行えるようにして、ビジネスに活用しようという手法のことだが、同社は、インターネットの発展に伴って生まれた、新しい考え方に基づくBIを「BI 2.0」と呼んでいる。

リオトー会長は「インターネットが、一般の消費者にもたらしたのは、さまざまな技術へのアクセスだ。Google、あるいはiPodなどのようなツールで簡単にアクセスできるようになった。しかし、このような簡便さは、エンタープライズ領域のビジネスユーザーは未だ享受できていないのではないか。ユーザーが、BIの技術にシンプルにアクセスできるようにしなければならない」と話す。

では、従来のBI、すなわち「BI 1.0」ははどのようなものだったのか。リオトー会長の見解はこうだ。

BIとは、一部の層が使う複雑なものと認識されてきた。1.0では、レポーティングなどが中心で、テキストと数字による表現が多く、わずかに図表があるといった程度であり、パソコンのデスクトップ上からしか利用できなかった。また、BIは巨大なアプリケーションという位置づけで、いわば、マイクロソフトのExcelやWordと同じような印象だった。

「複雑でなく、簡素化して、より多くの人々がBIを使えるようにするのが、BI2.0だ」とリオトー会長は強調している。BIは最近では「ビジュアル化が進み、グラフィカルなインタフェースにより、誰もが簡単に使えて、さまざまなデータを見やすくなっている」(リオトー会長)。また、携帯情報端末、スマートフォンなど、モバイルの環境ですべての機能を使うことも可能だ。

ネットワークの点では、1.0では「ユーザーは社内のデータしか使うことができなかった」(同)。SAPのERP、Oracleのデータベースなどが多用されていたわけだが「外部のエクストラネットワークとのやり取りができる段階は、BI 1.5と言える。これが2.0では、Webサービスを活用し、ユーザーがより大きなメリットを得られるようになっている。統合化された環境下で、非構造化データなども扱える」(同)

リオトー会長は「これまでのBIは、さまざまな機能が分断されているが、将来は、単一のプラットファーム上にまとまることになる。2.0では、より普遍的でまとまった環境になり、デスクトップ上には常時起動していて、リアルタイムで利用できる」と語る。BIは集約されるだけではないという。「従来のプラットフォームは、クライアント/サーバー型で、サーバー、ソフト、端末のすべてが社内に存在していたが、2.0では、クライアント/サーバー型に加え、SaaS(Software as a Service)型や、委託形式のサービスとも組み合わせて使うことができる。また、これまでのBIは一つの大きなアーキテクチャーだったが、2.0ではSOAベースになり、インテリジェントなWebサービスとして機能する」(同)ことになる。

さらに、同社(米国)ではインフォメーションオンデマンドというソリューションを展開している。「Web経由で使用することにより、ユーザーは他のユーザーが作成したコンテンツにもアクセスできる。このようなイニシアティブは、アップルのiTunesに似ているかもしれない。ただ、対象となるのは、企業で使われる情報であり、ユーザーはそれらのデータのかたまりを購入するのではなく、必要な部分だけ購入して使う」(同)というような仕組みになる。オンデマンド型はすでに一部が提供されている。

リオトー会長は「ITが将来的に価値をもたらせるかどうかは、ビジネスの最適化が焦点になる。これまでの企業のIT投資は、主として自動化に重点が置かれていた。だが、今後は、これに加え、最適化の観点が必要になる。営業の効率化、システムのコスト抑制など、効率化はトランザクションが機軸ではなく、情報が中心になる」と主張する。

だが、国内では、経営者/IT部門の管理者の多くは、BIについての関心があまり高くない。これについてリオトー会長は「BIに対する購買意欲という点では、日本と世界の他地域との間でたしかに差がある。欧米の企業では、CIO(Chief Information Officer)がITに求める要素のトップにBIが挙げられる。しかし、日本では、BIへの見解が依然、狭義のままで、経営層の意識が薄い。BIと言っても、レポート作成などに留まっているケースが多い。グローバルでは、パフォーマンス管理、分析、ダッシュボードなど、BIの他のメリットが認識されている。日本でも、そういった側面を理解してもらえるよう、きちんと説明しなけらばならない」と述べ、BIの新たな思想を、日本で浸透させることに力を注いでいく意向を示した。