「エンターテインメントで大事なのは、飯とエッチと暴力」

――『天外III』と『ハルカ』で受け手の層は変えていますか?

「『天外III』はPC-FXというハードだったし、中高生から上で考えてた。当時は3DOが出て、もうすぐセガサターンやプレイステーションが来るらしいっていう時期でしょ。そうするとPC-FXを買う層はマニアの子たちで、女の子はほとんどいないだろうという想定だよね。『ハルカ』は女性が読んでも平気なようにするとか、『天外』にハマった人たちは30代ぐらいになってるだろうから、その人たちにも合わせよう、というのは考えてる」

桝田氏がアクションゲームの企画を小説化した『鬼切り夜鳥子』。ちなみに『ハルカ』の現代世界とリンクしているとか。第3巻は6月末発売予定

久保「アンケートハガキでも年齢は様々ですね。ライトノベルの『夜鳥子』から桝田さんのファンになった中学生もいれば、上は45歳の方までいらっしゃいますし。担当としては今回、桝田さんの好きなように書いていただいたので、エログロの要素はゲームや文庫にするよりも多めになってるかなと思います」

――エログロと言えばハルカの愛情表現がかなりストレートというか、一般向けのゲームにはそのまま出せないぐらいエッチな描写もありますね。

「イメージとしては中高生の男子が親に隠れて読む感じ(笑)。山田風太郎さんの忍者ものとか、菊池秀行さんのエイリアンシリーズとか好きなんだよ。『あららら? 文庫なのにこんなことまで書いてある!?』みたいな、あの感じは欲しかったんだよね」

――そういうシーンを書くのは大変ですか?

「恥ずかしくないか、ということなら答えは『全然』だね。ただ読者の期待に応えた上で、かつ後ろめたさを感じさせないさじ加減は大変。そういう意味では暴力シーンと同じだよね。食事のシーンにも力は入れてるよ。エンタテインメントで大事なのは、やっぱり飯とエッチ関係とそれなりの暴力だろうからさ」

「だったら小説でこういうこともできるんじゃないの?」

――ゲームのシナリオと小説で勝手の違う部分もあったかと思いますが。

「はじめはうまくいかないところもあったんだよ。一番最初の『夜鳥子』が書きあがった段階で、はせがわみやびさんとかライトノベル作家の知り合いが事務所に来てくれて、ああだこうだとボロカスに言ってくれて(笑)。『たった3行の間にカメラが4回も動いてる!』『言いたいことは1行で済ましちゃダメです!』とか言われて『なるほど』と思っちゃってさ。で、指摘されると結構悔しいじゃない?(笑)。『だったらこういうこともできるんじゃないの?』っていうのも自分のなかに出てきてさ。一番大きかったのはカメラで、小説ってカメラの位置から全部自分で決めなきゃいけない。あるいはゲームだと画面になにが映っているかはプレイヤーの動き次第なんだけど、小説だと見せたくないものは切り取れるとかさ。いろいろ試すうちにどんどん面白くなっちゃったんだよね」

――『俺の屍を越えてゆけ』『鬼切り夜鳥子』でおなじみの、佐嶋真実さんのイラストについては?

「佐嶋さんにはいつもはわりと厳密なオーダーをするんだけど、今回は読んで頭に浮かんだキャラクターをそのまま描いて、っていうオーダーで、名前のあるキャラクターはほとんどみんな描いてもらったかな。あとこれを『天外III』の出なかったシナリオだとわかって買う人も多いと思ったから、ゲームの設定みたいなイラストにしようというのは意識したね」

「RPGのレベル1のキャラクター」として考えられた主人公の張政。初稿では女性から「キモイ」と評され桝田氏らを心配させたが、それも杞憂だったとか

「いつも怒っているか泣いているか笑っていて、無鉄砲で口が悪く、おまけに声がでかい」と作中で紹介されるヒロインのハルカ。Tシャツのロゴはもしかして……?

『天外II』では大仏が動いたが、『ハルカ』では巨大な埴輪が動く!……というわけで張政たちが乗り込んで大活躍する「石人」

『俺の屍を越えてゆけ』でボスキャラとして登場した化け猫・お夏が、本作では味方として登場。桝田作品のキャラクターが脇役で顔を出すのも見どころのひとつ