2024年は台湾やロシア、インドネシアやインド、米国など各国で選挙が行われる稀に見る選挙イヤーだ。世界は自由民主主義陣営が優勢であった時代から、権威主義国家やグローバルサウスの影響力が高まる多極化の時代へと変化しており、各国の新政権の行方で世界情勢が大きく変わる状態にある。

しかし、その中でも今年最大のポイントとなるのは11月の米大統領選挙だ。現任のバイデン大統領は以前、トランプ政権を米国民主主義への脅威、米国の歴史における極めて例外な現象と言及したが、仮にトランプが勝利するとなればそれも米国の1つの民主主義であり、例外とは言えなくなる。では、仮にトランプが勝利すれば、今日の世界情勢にはどのような影響が波及するのだろうか?。

今日の世界情勢に照らせば、トランプ勝利は極めて大きな変化を世界に迫ることになろう。まず、その標的になるのはウクライナ情勢だ。トランプは既に大統領に返り咲けば、最優先でウクライナへのあらゆる支援を停止すると発言しており、それは侵攻を継続するロシアに大きく利することになり、戦況は大きくロシア有利に傾きかねない。そして、それは同時に民主主義陣営が権威主義国家の行動を制御できなかったという結末をもたらし、中国や北朝鮮など他の権威主義国家の暴力的な行動を助長する恐れがある。

また、それによって民主主義陣営の分断も避けられない。バイデン政権が発足当初重視したのは欧州との関係改善であった。トランプ政権下のアメリカと欧州との間では大きな溝が生じた。トランプがウクライナ支援の停止を実行すれば、ウクライナだけでなく、ロシアの脅威に直面するバルト3国やフィンランド、スウェーデンやモルドバなど北欧、東欧諸国の対米不信は一気に強まることだろう。

また、経済的には米中貿易戦争も高い確率で加熱するだろう。近年はバイデン政権下でも、新疆ウイグルなど人権面や半導体など先端技術面から中国との間で貿易摩擦が拡大したが、トランプが返り咲けば米国の雇用や経済を断固として守り抜くとの強い保護主義のもと、中国製品の輸出入禁止を強化するなど大胆な制裁を発動するリスクが考えられ、その混乱は日本企業にも及ぶことだろう。

そして新たなトランプ政権が中国への経済的締め付けを強化するなか、日本への貿易上の圧力が強まる可能性もある。2022年10月に先端半導体分野で中国への輸出規制を強化したバイデン政権は昨年1月、中国に抜け道を与えない目的で、先端半導体の製造装置で高いシェアを誇る日本に対しても同調するよう呼び掛けた。日本は7月から先端半導体関連23品目を対象に中国への輸出規制を開始したが、それによって中国側の貿易上の対日不満も強まっているが、トランプ政権の再来となれば半導体に限らず、他の先端技術分野を巡っても対中規制が拡大され、日本にももっと大胆に同調圧力を仕掛けてくる可能性があろう。トランプの再来かどうか、これが今年最大の不安定リスクとなろう。