中国の宇宙ベンチャー「北京藍箭空間科技(LandSpace、藍箭航天)」は2023年7月12日、独自に開発した「朱雀二号」ロケットの打ち上げに成功した。

昨年12月14日の初打ち上げは失敗に終わっており、2回目にして初の成功となった。

朱雀二号は液化メタンと液体水素を推進剤に使うロケットで、この組み合わせのロケットが衛星の打ち上げに成功したのは世界初であり、歴史的な快挙となった。

この世界初が、中国の、それも民間企業によって成し遂げられたことは、今後の世界の宇宙開発を占ううえで重要であり、時代の転換点となるかもしれない。

  • 朱雀二号の打ち上げの様子

    朱雀二号の打ち上げの様子 (C) LandSpace

藍箭航天と「朱雀二号」

北京藍箭空間科技(藍箭航天)は北京に拠点を置く企業で、2015年に清華大学発のベンチャーとして設立された。国や民間のベンチャー・キャピタル、ファンドから投資を受けるなどし、着実に研究開発を続けている。また、北京に研究開発センターを、甘粛省北西部にある酒泉衛星発射センターにも自前の施設を構えるなど、雨後の筍のように出てきている中国のロケット・ベンチャーの中でも、頭ひとつ抜き出た存在である。

同社はまず、「朱雀一号」と呼ばれる小型の固体ロケットを開発した。朱雀一号は地球低軌道に約300kgの打ち上げ能力をもつとされた。

同機は中距離弾道ミサイル「東風26」をもとにして開発されたとみられる。中国の宇宙ベンチャーが、軍払下げの弾道ミサイルを転用してロケットを開発、運用することは珍しくなく、藍箭航天のほかにも、「零壹空間(OneSpace)」、「星際栄耀(i-Space)」といった企業でもみられる。

朱雀一号は2018年10月27日に最初の打ち上げを行うも失敗に終わる。一方で、同社は並行して新型ロケット「朱雀二号」の開発も進めており、朱雀一号はこの1回の打ち上げだけで運用を終え、その後は朱雀二号の開発に注力した。

朱雀二号は全長49.5m、直径3.35mの2段式ロケットで、第1段には推力80tf級の「天鵲12」エンジンを4基装備し、第2段には真空用に改修した天鵲12エンジン1基と、天鵲11バーニア・エンジン(飛行の方向を変えるための小型エンジン)を4基装備している。

打ち上げ能力は、高度500kmの太陽同期軌道に1.8tで、これは朱雀一号よりも格段に大きく、さらに中国が国として運用している主力ロケットのひとつ「長征二号」にも匹敵する中型のロケットである。

そして、朱雀二号の最大の特徴が、天鵲12にも11にも、推進剤に液化メタンと液体酸素を使っているところにある。メタンは、ロケットの性能を比較的高くできるうえに、コストが安いため経済性にも優れ、産出地の点から入手性にも優れている。

さらに、燃焼時にススが出ず、取り扱いも簡単なため、再使用しやすいエンジンやロケットにでき、また打ち上げ前後での地上での作業の手間やコストも削減できるという利点もある。こうしたことから、次世代のロケット燃料として注目されており、世界中でメタン・ロケットエンジンの開発が活発になっている。

  • 天鵲12エンジンの燃焼試験の様子

    天鵲12エンジンの燃焼試験の様子 (C) LandSpace

朱雀二号は2022年12月14日に初めて打ち上げられたものの、第2段のトラブルにより失敗に終わった。同社はその後、原因究明と対策を行ったうえで、2号機の開発、製造を進めた。

そして日本時間の7月12日10時ちょうど(北京時間9時ちょうど)、朱雀二号の2号機が、酒泉衛星発射センターから打ち上げられた。

離昇から764秒後、第2段エンジンが無事に燃焼を終え、高度約430km×460km、軌道傾斜角97.28度の軌道に、ダミー衛星を投入することに成功した。

打ち上げ成功後、同社は「計画どおり飛行ミッションを完了し、打ち上げは無事終了しました。完全な成功でした」と述べている。

「今後も『朱雀』ロケット・シリーズを主力製品として、ロケットの性能をさらに向上させ、低コスト、高性能、大容量のロケット製品を市場に提供できるよう、不断の努力を続けていきます。藍箭航天は商業宇宙分野において先駆者かつリーダーとなり、我が国の宇宙開発にとって重要な相乗効果をもたらし、強力な補完者となるでしょう」。

  • 朱雀二号の打ち上げの様子

    朱雀二号の打ち上げの様子。メタン燃料特有の青い炎が見える (C) LandSpace