米宇宙企業スペースXは2022年1月24日、開発中の巨大ロケット「スターシップ」の打ち上げに向けた、「ウェット・ドレス・リハーサル」を完了したと明らかにした。

試験では、1段目のスーパー・ヘヴィと2段目のスターシップの両方に、推進剤の液化メタンと液体水素を充填。エンジンには点火されなかったものの、打ち上げカウントダウンのシーケンスの確認や、発射台の性能の検証などを行ったという。

今後、スーパー・ヘヴィの地上燃焼試験などを経て、軌道への試験飛行に向けた準備が進むことになる。

  • 発射台で推進剤を満載したスターシップ/スーパー・ヘヴィ

    発射台で推進剤を満載したスターシップ/スーパー・ヘヴィ。極低温の推進剤が入ったことで、銀色の機体が霜で白くなっている (C) SpaceX

スターシップ

スターシップ(Starship)は、スペースXが開発中の次世代ロケットである。機体は2段式で、1段目のブースターをスーパー・ヘヴィ、宇宙船や衛星搭載部を兼ねた2段目をスターシップと呼び、両方を総称してスターシップとも呼ばれる。

最大の特徴は機体の大きさにあり、全長120m、直径9mもの巨体を誇る。これにより、スターシップには最大100人の乗員乗客、もしくは100t以上の衛星や物資を搭載し、地球を回る軌道へ飛行できる。また、軌道上で推進剤の補給を受けることで、そのまま月や火星へ飛んでいくこともできるなど、従来のロケットをはるかに超える打ち上げ能力をもつ。

くわえて、スターシップもスーパー・ヘヴィも機体を完全に再使用でき、何回も飛行することで、従来のロケットより桁違いに安いコストで打ち上げることを目指している。マスク氏はかつて、「1回あたりの打ち上げコストは約100万ドルを目指す」と発言しており、実現すれば現行のロケットの約100分の1のコストになり、ロケット業界にとってゲーム・チェンジャーとなる。

これを実現するため、機体の素材にステンレスを採用したり、効率のよさと再使用のしやすさから燃料には液化メタンを使用したりなど、数々の工夫が取り入れられている。

スペースXは現在、テキサス州ボカ・チカを拠点にスターシップの開発や試験を実施。これまでに、スターシップの試作機による高度約10kmまでの飛行と着陸試験に成功しているほか、スーパー・ヘヴィも地上での試験が続いている。

また、米国連邦航空局(FAA)によるボカ・チカの環境への影響評価も行われ、スペースXは数十の環境負荷軽減策を取ることを求められた。

  • 飛翔するスターシップ/スーパー・ヘヴィの想像図

    飛翔するスターシップ/スーパー・ヘヴィの想像図 (C) SpaceX

スターシップの“ウェット・ドレス・リハーサル”

こうした中、スペースXは日本時間1月24日(現地時間23日)、スターシップとスーパー・ヘヴィの「ウェット・ドレス・リハーサル(wet dress rehearsal)」を実施した。

ウェット・ドレス・リハーサルとは、実際の打ち上げと同じ状況をシミュレーションし、ロケットのすべてのシステムが正常に機能するかを確かめる試験のこと。ドレス・リハーサルという言葉自体に「舞台稽古」という意味があり、ロケットの場合は液体(液化メタンや液体酸素といった推進剤など)が充填されることから、wetという単語が付けられている。

スペースXは、これまでにスターシップやスーパー・ヘヴィの試験機を複数製造しているが、今回の試験に使われたのは、かねてより地上で試験を行っていたスターシップの「SN24」と、スーパー・ヘヴィの「BN7」の2機。試験では、両者あわせて約4600tもの液化メタンと液体酸素が充填され、銀色の機体は霜で白くなった。

推進剤の充填以外にも、ロケットの健全性や、発射台や発射塔をはじめとする地上システムも試験された。

スペースXは試験の詳細を明らかにしなかったが、試験後に「ウェット・ドレス・リハーサルは完了しました」と発表している。

なお、今回はエンジンの点火は行われなかったものの、スターシップSN24は昨年9月に6基あるエンジンすべてを地上で燃焼させる試験を実施。スーパー・ヘヴィBN7も11月、33基あるエンジンのうち 14基の燃焼試験を行っている。

また、スペースXはこの翌日の25日、スーパー・ヘヴィの完全な地上燃焼試験を行うため、いったんスターシップを取り外すと発表している。

スーパー・ヘヴィには33基のロケットエンジンが装着されているが、これまでそのすべてを同時に点火し、燃焼させたことはない。そのため、この試験は打ち上げに向けたもうひとつのマイルストーンとなる。

こうした試験が無事に完了すれば、スターシップにとって初の軌道への打ち上げが見えてくる。打ち上げのためには、FAAによるライセンス付与が求められるほか、地上の施設・設備の準備も必要となる。

また、すでにSN24の次の機体であるSN25やさらに新しい機体、またスーパー・ヘヴィもBN9やBN10といった新しい機体が建造されており、実際にどの機体が初飛行に臨むことになるのかにも注目が集まっている。

スペースXでは将来的に、スターシップを現在運用中の「ファルコン9」、「ファルコン・ヘヴィ」の後継機として、多種多様な衛星の打ち上げや有人飛行に使うことを計画。すでに、携帯電話による衛星通信を目指す米国のASTスペースモバイル(AST SpaceMobile)や、日本の大手衛星通信会社スカパーJSATから、スターシップを使った商業打ち上げ(企業などから受注してビジネスとして行うロケットの打ち上げ)契約を獲得している。

また、米国航空宇宙局(NASA)が中心となって進める国際有人月探査計画「アルテミス」の月着陸船としても使われることが決まっている。2023年以降には、実業家の前澤友作氏らを乗せた月への旅行も計画されている。

さらに、スペースXでは月や火星に人口100万人以上の自立した都市を築くことも目指している。

  • 2021年に飛行試験を行ったスターシップSN10

    2021年に飛行試験を行ったスターシップSN10 (C) SpaceX

参考文献

SpaceX(@SpaceX)さん / Twitter
SpaceX - Starship