高度にインターネットが発達した現代では、知りたい情報をすぐに検索して調べることができる。一方で、本を読むことで得られる想像力やインスピレーションも重要だ。"本でしか得られない情報"もあるだろう。そこで本連載では、経営者たちが愛読する書籍を紹介するとともに、その選書の背景やビジネスへの影響を探る。

第8回に登場いただくのは、インフラからアプリケーションまで広くAIサービスを手掛けるトゥモロー・ネットの代表取締役社長 CEOを務める李昌珍氏。李氏はサザンオールスターズのボーカルである桑田佳祐氏のエッセイ『ポップス歌手の耐えられない軽さ』(文藝春秋)を選んだ。

同書はコロナ禍の2020年1月から約1年半の間、『週刊文春』にて連載していたエッセイに加筆修正したもの。計66篇で構成され、音楽はもちろんのこと、プロレスやボウリングの話題などが語り口調の軽快な文体でつづられている。ザ・ビートルズやエリック・クラプトンから沢田研二、尾崎紀世彦、坂本冬美まで、興味深い話題が続く。サザンオールスターズファンのみならず、洋楽でも邦楽でも音楽ファンならば一読の価値ありだ。

  • トゥモロー・ネット 代表取締役社長 CEO 李昌珍氏

    トゥモロー・ネット 代表取締役社長 CEO 李昌珍氏

犬の散歩の休憩で読書 - 本を読んでストレス解消に

--普段の読書の様子や頻度について教えてください

李氏:最近は電子書籍を読むことも増えましたが、元々は紙の本を読むのが好きです。紙の本を本棚に並べたときの満足感があり、コレクションとしても楽しんでいます。仕事の中で問題に感じている内容の本を少しずつ読み進めますので、ITや会計、システムに関連する本を多く読むでしょうか。

他には、Amazonのランキングなどで気になった本を購入します。最近ですと、2024年のノーベル文学賞を受賞した韓江(ハン・ガン)氏の作品を読みました。世の中で話題になっている本は、会話のきっかけにもなるので、読んでみるようにしています。

私は大型犬を2匹飼っていまして、散歩が日課です。その散歩の後半に休憩がてら喫茶店に寄るのですが、そこで30分ほど本を読むことが多いです。

--以前から本を読むのが好きなのでしょうか

李氏:どちらかと言うと、「本を読まなければ」という気持ちが強いです。それは、自分の知識が足りていない・満たされていないという焦りが原因となっているような気がします。

もう一つのモチベーションは、本を読むことが仕事のストレス解消にもつながっていると感じることです。経営者の方が書いた本を読むことで、仕事の悩みに立ち向かうために勇気付けられます。1冊を通して全部読むというよりも、私の悩みに当てはまりそうな部分をいくつか抜き出して読みます。

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桑田佳祐氏のエピソードから学んだ組織運営とは?

--『ポップス歌手の耐えられない軽さ』を読もうと思ったきっかけを教えてください

李氏:私が中学生のときに、兄の友人の影響でサザンオールスターズの曲を初めて聞きました。たしか『いとしのエリー』だったと思いますが、時代の先駆けとなる斬新な曲だと感じたのを覚えています。

それ以来、サザンオールスターズのコンサートにいくほど熱中していて、特に楽曲を手掛ける桑田さんがとても好きです。桑田さんの考えや生きざまを知りたいと思い、この本を読むことにしました。

--印象に残っているエピソードを教えてください

李氏:「ジョンの"大発明"あの伝説バンド」というエッセイを紹介しましょう。この話は、桑田さんが「サザンオールスターズ」だけでなく「桑田佳祐 & The Pin Boys」や「KUWATA BAND」、「嘉門雄三 & VICTOR WHEELS」などさまざまな名義で活動しているルーツにまつわるものです。

桑田さんの活動は、ザ・ビートルズのジョン・レノンとその奥さんのオノ・ヨーコさんを中心とした「プラスティック・オノ・バンド」の影響を受けてのものだそうです。このバンドはこの2人以外のメンバーがその都度入れ替わっており、エリック・クラプトンやジョージ・ハリスン、フィル・スペクターなどがライブやレコーディングのたびに参加していました。

桑田さんはバンドという型にはまらない「プラスティック・オノ・バンド」の影響から、「KUWATA BAND」をはじめ多様なスタイルで活動しています。これは私たちのビジネスにも使える考え方だと思いました。会社の組織運営も型にとらわれてしまいがちですが、桑田さんの柔軟な発想を見習いたいと思い、印象に残っています。

  • トゥモロー・ネット 代表取締役社長 CEO 李昌珍氏

桑田佳祐氏の生きざまはビジネスにもつながる

--この本を読んで、ビジネスに生かせるポイントはありますか

李氏:企業の経営には正解がありません。何が正解なのかが分からない中でも運営していく必要があります。桑田さんはミュージシャンでありアーティストですが、音楽にも正解はないと思います。だからこそ、桑田さんの考え方やプロデュースから学べることがあると思っています。

先ほどの「型にとらわれない」の例もそうですが、力を抜いて一歩引いて俯瞰して状況を見てみることも大切だと学びました。

--李社長の考え方に影響はありましたか

李氏:私は私生活も含めて、普段はふざけたり自由に楽しんだりすることが苦手です。どうしても肩に力が入ってしまいます。そこで、桑田さんのライブやパフォーマンスに通じる考え方をこの本から学んで、パワーを分けてもらっています。