愛知県名古屋市に新たに設立される多目的アリーナ「IGアリーナ」の運営にはNTTドコモが大きく関わっており、アリーナ内のネットワークにもミリ波やIOWNなど、新しい技術の導入が積極的に進められています。オープン前のアリーナの様子から、その中身を確認してみましょう。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。
アリーナ運営に注力するNTTドコモ、その狙いは
アリーナ施設の充実が審査基準となる「アリーナ構想」を掲げるBリーグの影響もあって、ここ最近は全国でアリーナの建設ラッシュが起きています。その代表的な存在の1つとなるのが「IGアリーナ」です。
これは愛知県名古屋市に建設された新しい多目的アリーナで、その命名権をイギリスの金融企業、IGグループが取得したことからIGアリーナという名称となっています。そのIGアリーナが通信とどう関係しているのかといいますと、実はIGアリーナを運営する愛知国際アリーナにNTTドコモが参画しているのです。
NTTドコモは2024年に現在の代表取締役社長である前田義晃氏が就任して以降、スタジアムやアリーナの運営やイベントの興行をはじめとしたエンタテインメント関連ビジネスを強化。IGアリーナだけでなく東京の国立競技場の運営会社、そして兵庫県神戸市にある「GLION ARENA KOBE」の運営会社にも参画しています。
それゆえNTTドコモが大きく関わっているIGアリーナでは、同社のサービス利用者に向けた特典もいくつか用意されており、その1つが「d CARD GATE」です。これはNTTドコモが命名権を獲得したゲートで、対象のイベントでは優先入場レーンを利用できる仕組みが設けられるようです。
そしてもう1つが「d CARD LOUNGE」です。これはアリーナ内に設けられたプレミアムラウンジなのですが、こちらも対象イベントでは「dカード GOLD」以上の有料会員カード利用者だけが、このラウンジを利用できるチケットの抽選に参加できるとのことです。
NTTドコモは競合他社と同様、携帯電話事業の市場・飽和を受け、その顧客基盤を活用し周辺サービスの利用につなげる経済圏ビジネスに力を入れています。
それだけにIGアリーナでは、各種イベントの興行にdカード利用者を優先する仕組みを設けることにより、dカード、さらに言えば有料のdカード GOLD以上の利用につなげ経済圏ビジネスを広げたい狙いがあるものと考えられます。
ミリ波やIOWNはアリーナ内でどう活用するのか
しかしIGアリーナは、やはりNTTドコモが運営に大きく関わっているだけあって、ネットワークに関してもいくつか大きな取り組みがなされています。
もちろんIGアリーナ内は携帯4社のネットワークが整備されており、それらはインフラシェアリングを手がけるJTOWERの設備を経由してアリーナ内のさまざまな場所をカバーする形が取られています。ですがNTTドコモ、ひいてはNTTグループが独自に進めている施策もいくつかあり、その1つがミリ波です。
実際、アリーナの天井にはWi-Fi 7対応のアクセスポイント、そしてNTTドコモのミリ波のアンテナが設置されていることから、ミリ波対応端末を持ってNTTドコモのネットワークに接続すれば、ミリ波での高速通信が可能になるとのこと。
かねてから言われているように、ミリ波は障害物に弱く遠くに飛びにくい弱点があるため広域のカバーには向いていませんが、アリーナやスタジアムのように限られた場所に多くの人が訪れるようなシーンでのトラフィック対策には効果を発揮しやすいのです。
IGアリーナのメインアリーナは座先数が約1万5000席、最大で1万7000人を収容できることから、イベントによっては多くの人が一斉にスマートフォンを利用して一時的にトラフィックが高まることも想定されます。
それだけに、NTTドコモの回線とミリ波対応端末を持っている人であれば、イベント中も混雑の影響を受けることなく快適な通信ができますし、それが4Gやサブ6などに集中するトラフィックの分散にもつながると考えらえます。
ちなみにミリ波のアンテナは、先に触れたd CARD LOUNGEや、1階のエントランス付近にあるイベントスペースにも設置されていることから、こちらの方がミリ波の効果を直接体感しやすいといえるでしょう。
それゆえ今後NTTドコモは、イベントスペースを5Gの活用やその高度化、6Gに向けたさまざまな実証の場としても活用していきたい考えも示していました。
もう1つ、IGアリーナに導入されているのがNTTグループが力を入れている「IOWN」です。IGアリーナは開業当初からIOWNが導入される世界初のアリーナとなり、IOWN 1.0の低遅延を生かして2つの場所が1つになったような演出を、初年度から進めていきたい考えを示していました。
ただ現在のIOWNは1.0ですが、2026年頃には光電融合技術を本格導入する次のバージョン「IOWN 2.0」へ移行する予定であることから、IGアリーナでもその移行ができなければ先進性が失われてしまう可能性があります。
NTTドコモ側の説明によると、IGアリーナではIOWN 2.0へ移行することを織り込み済みで設計がなされているそうで、IOWNの進化に合わせて対応が進められる環境は整っているようです。
IGアリーナは2025年5月24日、映画音楽で有名なハンス・ジマー氏の公演を皮切りとして、今後大相撲の名古屋場所やホームアリーナとするBリーグの「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」による試合など、さまざまなイベントが実施され注目を集めると考えられます。
それと同時にNTTグループのネットワーク技術のイベント活用や、快適な通信環境の実現に向けた取り組みも今後期待される所ではないでしょうか。