3月5日、神奈川県海老名市のリコーテクノロジーセンターは、異様な緊張感に包まれていた。なぜなら、この場でギネス世界記録への挑戦が行われていたからだ。

1分間に最も多くロボットが縄跳びを跳んだ回数というギネス世界記録に挑んだのは、リコーが開発した大縄跳びマシン「PENTA-X」。

  • PENTA-X

    PENTA-X。ちなみに名前の由来はペンギンのペンを含んでいることや、PENTAがギリシャ語で5を意味すること、ペンギンの配置がX状であること、そして同社のカメラブランド「PENTAX」にちなんでいるという

PENTA-Xはこの日、1分間に170回の記録を出し、リコーからは3月18日に「1分間に最も多くロボットが縄跳びを跳んだ回数」としてギネス世界記録に認定されたことが発表された。ちなみにこれまでの1分間に最も多くロボットが縄跳びを跳んだ回数としてギネス世界記録に登録されていた回数は106回だ。

PENTA-Xが「1分間に最も多くロボットが縄跳びを跳んだ回数 」のギネス世界記録に挑戦している様子(出典:リコー)

このギネス世界記録への挑戦は、NHK BSプレミアムで1月29日に放送された番組「魔改造の夜」に同社が出演し、番組で制作した「ペンギンちゃん大縄跳び」マシンを改良して臨んだものだ。魔改造の夜は、子供のおもちゃや一般的に使われている家電製品を、エンジニアがその技術力を用いて改造し、改造した製品の“パワー”を競う番組。リコーが出演した回では、イワヤが販売を行っているペンギンちゃんのおもちゃを各チームが魔改造して、大縄跳びの回数を競った。

リコーチームは、番組収録前の練習時には100回以上の跳躍を記録していたものの、本番の記録では17回とチームにとって到底納得がいかない結果となってしまった。

このままでは終われないという想いからチームは再集結し、ギネス世界記録を目指す挑戦が始まった。チームメンバーのリコーテクノロジーズ プロダクト事業本部の緑川瑠樹氏は「技術者としてなぜうまくいかなかったのか調べたいという想いがあったのかもしれません。改善点などを洗い出し、性能面の改善を行っていきました」という。

PENTA-Xの魔改造の夜出演時のつくりは以下図のようになっている。

  • PENTA-Xの特徴

    PENTA-Xの特徴(提供:リコー)

縄が通過したことを知らせるセンサには、同社のプリンタにも使用されている光電センサを使用。ジャンプ力を生み出すためにはスコッチヨーク機構を採用。足には衝撃を吸収するためにBB弾を入れている。

そして、魔改造の夜の反省を踏まえ、主に5つの箇所を変更した。縄を検知するセンサの配置を変え、独立していた足を1つにすることで縄の引っ掛かりを低減し、足の材質も変更することで、衝撃の吸収率を上げた。また、着地時の衝撃がノイズとして入ってしまい、モータに悪影響を与えるため、ノイズ低減のための回路を新設したという。緑川氏によれば、この回路の新設が1番苦労した点だという。

加えて、縄が通過してから60msのタイミングで飛ぶように設定していたものを、縄を感知した瞬間に飛ぶように変更し、より速いスパンで回数を飛べるように改良した。

  • 魔改造の夜からの改善点

    魔改造の夜からの改善点(提供:リコー)

また、番組収録時には、ギリギリまで開発を行っていたため、縄の回し手の練習時間が十分に取れなかったことも反省点だったといい、マシンの改良だけでなく、縄跳びの回し手の練習も力を入れて行ったという。

改良したPENTA-Xは見事に1分間に170回という記録で「1分間に最も多くロボットが縄跳びを跳んだ回数」としてギネス世界記録に認定された。

緑川氏は「今日の挑戦の出来としては100点満点で90点くらい。練習時には205回を記録したこともあったので、最高値ではなかったですね」と挑戦を振り返った。

  • 緑川瑠樹氏

    ギネス世界記録挑戦チームメンバーのリコーテクノロジーズ プロダクト事業本部の緑川瑠樹氏

PENTA-Xの開発チームはメンバーの勧誘や、同社が主催する新規事業創出プログラム「TRIBUS」の社内コミュニティからの有志のメンバーで構成されている。

ギネス世界記録への挑戦もTRIBUSの運営部門が、技術者の挑戦を後押しするために実施したという。

緑川氏は「今回のギネス世界記録への挑戦も、横とのつながりがあったからこそと思っています。あの人がこういう技術を知っているや、こういう開発はあの人が得意という人材情報が社内のつながりでわかったからこそ、できたと思っています。また、TRIBUSという後押しする舞台がいたのもかなり大きかったです」と社内のつながりがキーポイントになったとした。

今回の挑戦を通じて得たものや今後の抱負について緑川氏は「PENTA-Xの開発では、自由な発想を取り入れられるのが大きかったです。普段の開発は、法律などしばるものが多かったのですが、今回は好きなことができました。そして、今回、短時間でものを作り上げるという経験ができたのが大きかったですね。そして、さまざまな人のノウハウや社内リソースを知れたのもいい経験でした。今回の経験を各々が次につなげていけたらと思っています」という。

リコーでは、TRIBUSなど社内の部署を飛び越えた挑戦を歓迎するカルチャーがあるように感じた。そのカルチャーが今回のギネス世界記録への成功を後押ししたのではないだろうか。

今回の挑戦で培った社内のつながりや経験がどのように活かされていくのか。今後の取り組みに注目だ。