体を動かす時に心の中で感じる体は1つだと考えられてきたが、複数であることが実験で分かった、と東北大学の研究者が発表した。右手を隠して、目と左手で同時に見たり指したりすると位置がずれることから発見した。運動機能障害の診断技術の開発や、リハビリテーションの改善につながるという。

東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授(心理物理学)は、複数の運動を行う時に心で感じる体を計測する手法を開発し、実験した。20代の健常な大学生12人の被験者に、視線を計測できるヘッドマウントディスプレーを装着してもらい、自分の右手を隠し、ここだと感じる右手の指先や関節の位置を目で見たり、左手で指したりしてもらった。この方法で、目と左手の運動に対し心で感じている右手の形を計測した。

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    「心の中の身体」を調べる実験の概要(東北大学提供)

その結果、同じ位置を指したつもりでも、ずれが生じることが分かった。目より左手で指す方が、右手の形は現実のものより歪んでいた。例えば、左手で指すと右手の指が現実より30%ほど圧縮されて捉えられたのに対し、目では15%ほどだった。心の中の体が、運動の種類ごとに脳内で別々に表現されていることが明らかになった。

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    実験結果。目と左手が同時に右手の同じ場所を指したつもりでも、ずれが生じた(東北大学提供)

人が心の中で体を感じ取っていることは1911年に提唱されたが、目と手など、同時に複数の運動をしている時のことは未解明だった。心の中の体は脳内に1つだけ存在し、あらゆる運動に対し共通に用いられると考えられてきた。今回の成果は、この解釈に修正を迫るものになった。

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    体を動かす時、心の中には複数の体がある。研究の概念図(東北大学提供)

高齢化に伴い、運動機能障害や運動麻痺の患者が増加している。高齢者などは、足をしっかり上げているつもりでもつまずいて転倒してしまう、といったことがある。松宮教授によると、30代後半から筋力が徐々に低下するが気づかず、心の中の体は若いままでギャップが大きくなるために起こる。心の中の体を回復すればリハビリの効果を持続できるとの概念が、2006年に提唱されたという。

松宮教授によると、従来のリハビリはほぼ理学療法士の経験則に依存しており、いったん機能が向上しても、また動かなくなってしまうことが多い。心で感じる手足に異常が生じ、回復していないためという。ただ、心の中の体の異常は患者の主観的な印象で、病態が目に見えない。

松宮教授は「今回の成果は、心の中の体の異常を可視化する方法の開発につながる。また理学療法士は患者とのコミュニケーションから、心で感じる体を物理的な体にうまく誘導しているのでは。今回の成果を踏まえた情報技術によって心の中の体を可視化できれば、リハビリの改善にもつながりそうだ」と述べている。

成果は科学誌「米国科学アカデミー紀要」の電子版に17日掲載され、東北大学が18日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費補助金、日立製作所産学連携研究の支援を受けた。

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