2016年7月のWindows 10 バージョン1507(released in July 2015: Threshold 1)から、2015年11月のバージョン1511(November Update: Threshold 2)、2016年8月のバージョン1608(Anniversary Update: Redstone 1)と続き、ようやくバージョン1703となる「Creators Update」(開発コード名Redstone 2)が我々の前に姿を現した。本稿は既存の特集記事を補完する形で、最新のWindows 10に関する改善点や変更ポイントを余すことなく紹介する。

Windows 10 バージョン1703のバージョン情報。最終的にOSビルドは15063.14となった

本特集記事は、Windows 10リリース時に掲載した、以下の特集記事「~インストールから設定・活用まで~ すべてが分かるWindows 10大百科」の続編として、2017年4月公開のRedstone 2(Creators Update)での改善点、変更点を解説しています。
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【特集】~インストールから設定・活用まで~ すべてが分かるWindows 10大百科
http://news.mynavi.jp/special/2015/windows10/
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Windows 10の、OSそのもののより詳しい情報が必要な場合は、上記リンク先の特集記事もあわせてご覧いただくことをおすすめします。

誰のための「Creators Update」?

約20年前の日本マイクロソフト(当時はマイクロソフト)は、Windows 3.1をアピールするため、「笑ってお仕事」を連呼するTVCMを放送していた。今振り返れば滑稽にしか見えないものの、当時のPCは仕事に使うデバイスだからこそ、インパクトを重視したのだろう。現在のPCもビジネスに活用することに変わりはないものの、ネットサービスやモバイルデバイスの台頭に伴い、"猫も杓子もPC"という2000年代の風景は一変した。大手調査企業の発表によれば、2016年の国内PC出荷台数は1,056万台(前年比0.1%増)。ビジネス市場は637万台(前年比5.6%増)ながらも家庭市場は418万台(前年比7.3%減)と減少傾向にある。

この現状を打破する1つの結論としてMicrosoftは3回目となる大型アップデートに「Creators Update」と名付け、写真家や動画編集者といったクリエイター、コンソール機でもカジュアルゲームが中心となるスマートフォン/タブレットでも満足できないPCゲーマーを対象にした訴求戦略を打ちだした。Windows 10バージョン1703の変更点は順次紹介して行くが、いくつかかいつまんで紹介する。その1つはWindows Inkの強化。機能自体は前バージョンとなるバージョン1608で搭載しているものの、バージョン1703に至るまでAPI周りを強化し、既存のレタッチソフトでインク機能を容易に利用可能にした。また、標準アプリケーションである「フォト」にも同APIを組み込み、撮影した写真にコメントや落書きを指先やペンで描き込める機能も備えている。これらの機能はWordのペン編集などでも利用可能になる予定だ。

UWPアプリの「フォト」ではWindows Ink APIを利用した描画機能がサポートされている

もう1つは3D機能のサポート。こちらもWindows 10ファーストバージョンから、3Dプリンターのサポートや、3Dオブジェクトデータを作成するアプリケーション「3D Builder」などを備えていたが、バージョン1703では3Dオブジェクトデータを2D画像感覚で簡単に作成する「ペイント3D」、データを閲覧する「View 3D」といったUWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリを標準搭載している。当初は米国などでしか利用できなかった、3Dオブジェクトデータ作成者専用SNS「Remix 3D」も2017年3月上旬頃には日本からも利用可能になり、今後の展開は興味深い。

新たな標準アプリ「ペイント3D」。3Dオブジェクトデータをより簡単に作成できる

専用SNS「Remix 3D」からダウンロードしたデータをペイント3Dで開いた状態

ファイル形式は拡張子「.3mf」を持つ「3D Object」て保存し、「View 3D Preview」で閲覧できる

このようにWindows 10が3Dに対する親和性を高める理由の1つが、可能性の拡大である。残念ながら2016年10月にMicrosoftが開催した「Windows 10 Event」で披露した、Windows 10 Mobileデバイスを利用したオブジェクトの3Dスキャン機能は本稿執筆時点で確認できないものの、日本マイクロソフトの関係者は「子どもや甥っ子・姪っ子が描いたイラストや作った玩具を3Dスキャンし、データをそのままPCに取り込んで3Dオブジェクトデータ化し、ノートPCの中で動かしてあげれば喜ぶようなソリューションも実現できる」と説明していた。確かに以前は2Dデータが中心となってきたが、3Dがより身近になれば楽しみ方も様変わりするはずだ。Microsoftが目指す「みんなの3D」はバージョン1703で実現するはずである。ちなみに3DオブジェクトデータはOffice 365でもサポートし、PowerPointのプレゼンテーションに3Dオブジェクトデータを組み込むことも可能になると言う。

MicrosoftがWindows 10 Eventで披露したWindows 10 Mobileによる3Dスキャン機能のデモシーン

そしてもう1つの理由がVR(仮想現実)やMR(複合現実)のサポートである。既にMicrosoftはMRを「Microsoft HoloLens」で実現しているが、あくまでもHoloLensは単独のデバイスである。だが、UWPに属するデバイスでもあり、分かりやすく説明すればUWPアプリケーション「カレンダー」はHoloLensでも動作可能。だが、Windows 10を対象にした大半のUWPアプリケーションは2Dであるため、そのままHoloLensを通して目にすると、壁掛けカレンダーのように平べったく映ってしまう。そのため、Windows 10上で3Dオブジェクトデータの基本的な作成環境を整え、開発者やデザイナーのアプリケーションを支援するため、3Dとの親和性を高めているのではないかと推察する。

日本マイクロソフトの品川本社ロビーに飾られた「Microsoft HoloLens」

他方でMicrosoftはWindows 10を「VR/MRデバイスの完全なプラットフォーム」と位置付け、先のイベントでAcerやASUSなど大手デバイスベンダーと提携してVR&MRデバイスの提供を発表している。さらに2017年3月には、Game Developers ConferenceでAcer製ヘッドセットとMRアプリケーションの構築を可能にする開発キット公開した。Microsoftは次期Xbox Oneとなる「Project Scorpio」でもMRコンテンツの増加を見込んでいる。

GDC 2017で発表した「Acer Windows Mixed Reality Development Edition headset」

Windows 10側でもVR/MRデバイスを接続し、利用可能にするアプリケーション「複合現実ポータル」や「設定」にもVR/MR関連設定項目を追加し、準備は万全だ。執筆時点ではVR/MR用ヘッドセットの一般提供時期は明らかにされていないため、いつ頃その世界観を享受できるか分からないが、まずは開発者に提供してアプリケーションなどのコンテンツを充実させるところから始めるのだろう。

新たに加わるUWPアプリケーション「複合現実ポータル」。開発者向けにシミュレーション機能なども備える

駆け足でWindows 10 バージョン1703の特徴を見てきたが、Creators Updateは、これまでとはひと味違うPCの利用をうながす"クリエイター向けのアップデート"である。新機能に対して必ずしも万人が恩恵を受けるとは言いがたいものの、PC市場が抱える閉塞感を打開する鍵となる可能性は高い。それでは次ページからバージョン1703で加わった新機能や変更点を個別に紹介しよう。