「ふつう」盛りでもボリューム満点な「武雄武北方(たけお)ちゃんぽん」

魚介類や野菜がたっぷりのったちゃんぽん。発祥は長崎だが、実は九州北部から中部にかけてご当地ちゃんぽんがいろいろある。それらはどんな味なのか、レポートしよう。

炭坑の町・佐賀県武雄(たけお)のこってり「武雄北方ちゃんぽん」

井手ちゃんぽんのちゃんぽん大盛り

かつて炭坑の町としてにぎわった佐賀県武雄市。炭坑全盛の頃は、栄養も摂れておなかもふくらむちゃんぽんが炭坑夫に人気で、市内各地に店が点在していた。しかし、炭坑が閉山した昭和40年代を境に、市内の主要道路である国道34号線沿いに続々移転。現在では、2~3km内に10店舗ほどが立ち並ぶ。

そんな歴史があるため、味はこってり。スープは乳白色をしたトンコツベースタイプだ。また、地理的に海に面していないため、魚介類を使わない店が多く、その代わり地元産の野菜がたっぷりのる。

人気の店は、60年の歴史がある「井手ちゃんぽん」だ。具がたっぷりの「武雄北方ちゃんぽん」の中でも、ここは特に量がハンパではなく、「ふつう」でも山盛り。大盛りとなると、ピラミッド状態となる。

そこで、せっかくならばと大盛りをいただいてみた。すると、とにかく具が減らず、しばらくは具の山と格闘することに。そうしてやっとたどり着いた麺。ツルッとすすると、ちゃんぽんらしい太くてモチッとした味わい。スープがまたコクがあって、麺や具とよくマッチしている。うん、これは人気が出るはずだ。

地元の商工会では、平成19年から国道沿いを「武雄・北方ちゃんぽん街道」と名付けて地域おこしに尽力。2012年11月にはここで、北海道や滋賀県、それに九州からは北九州、熊本、天草、長崎などのご当地ちゃんぽんが出店する「ちゃんぽんサミット&フェスティバル」が開かれる。これはちゃんぽん好きには見逃せないだろう。

●information
井手ちゃんぽん
佐賀県武雄市北方町志久1928

魚介系ダシの効いた長崎の「小浜ちゃんぽん」はすしと一緒に

長崎県・島原半島の西側、橘湾に面した小浜温泉。古くから長崎市方面からの湯治客でにぎわっていたことから、大正時代にはすでにちゃんぽんが昼食として食べられていたという。現在、ちゃんぽんを出す店は17店ほど。

海に近いことから魚介類が使われ、から付きエビや生たまごをのせるのが特徴という。それゆえ、スープは魚介類のダシがきいたうまみのあるもの。また、湯治客への出前が主だった名残ですし屋でもちゃんぽんを出すところがあり、すしとちゃんぽんのセットメニューがある店もある。

だったらすし屋でちゃんぽんをと、「蛇の目」という店でいただいた。オーダーして待つことしばし。おお、来た来た! 見るとお約束のエビと生たまごがのっている。

早速いただくと、あっさりめの味付けでおいしい。スープもまろやかで、そこへ生たまごが加わるため、さらにまろやかはアップ。でも、ダシのうまみが効いているからコクは深く、大満足であった。

エビがポイントの「小浜ちゃんぽん」

蛇の目のちゃんぽん。生たまごがのっている

●informationn
雲仙市 小浜温泉「小浜ちゃんぽんマップ」

蛇の目
長崎県雲仙市小浜町北本町852

あっさりとした味付けが特徴の熊本県天草と水俣のちゃんぽん

ところでいろいろ調べてみると、熊本の天草や水俣にもちゃんぽんがあり、水俣には「水俣チャンポン探求会」という団体があることも分かった。そこで同会を尋ねてみた。すると同会で活動し、水俣で一番古くからちゃんぽんを出しているという「喜楽食堂」の三代目・三牧賢治さんに行き着いた。三牧さんは水俣のちゃんぽんについて、次のような話をしてくれた。

小浜がある島原半島南部と熊本・天草は目と鼻の先。さらにその先の水俣は長崎の炭坑の坑内資材などに使う木材を海路へと積み出していた。こういう事情から、長崎・天草・水俣は古くからつながり、ちゃんぽんも天草から水俣に伝わった。また、味は小浜から天草、水俣と移り変わるに連れてあっさりとなる傾向にあるそうだ。

では、喜楽食堂のちゃんぽんもいただこう。三牧さんいわく、昔から野菜にカマボコが入る程度の質素な内容で、店では今もそれを守っているという。なるほど、運ばれてきたちゃんぽんはシンプル。キャベツとカマボコの彩りの対比が食欲をそそる。

ひと口いただくと、確かにあっさりした味わいで、これだったら2杯くらいいけそうだ。「天草も水俣も味や具にこれといった決まりはありません」と、その口ぶりもあっさりした三牧さん。だが、ブログやツイッターで常に水俣ちゃんぽんをアピールするなど、ちゃんぽんに対する思いは強い。

カニなどが入ったぜいたくな「天草ちゃんぽん」

どこか懐かしさを覚える「水俣ちゃんぽん」

●information
水俣チャンポン研究会のフェイスブック

細麺を蒸したモチモチ食感が楽しめる北九州「戸畑ちゃんぽん」

蒸し麺が独特の味わいを醸す「戸畑ちゃんぽん」

最後は北九州市の戸畑へ。こちらも調べてみたら、製鉄所があった関係で力仕事に携わる男たちの胃袋をちゃんぽんが満たしていたという。ただ、「戸畑ちゃんぽん」が他と大きく違うのは蒸し麺を使っていること。しかも細麺だ。

これが蒸し麺

これは地元の「田中製麺所」の初代が中華の蒸篭(せいろ)蒸しからヒントをもらい、研究を重ねて昭和14年(1939)に完成させたもの。以来、戸畑ちゃんぽんといえば蒸し麺といわれるほど切っても切れない仲になり、現在へと至る。

では、どんな味なのか。戸畑ちゃんぽんののぼりを立てる「寛太郎」で食べてみた。運ばれてきたものを見ると、具は普通のちゃんぽんと同じ。スープもトンコツ系の乳白色だ。ひとつ変わっているのは、ゲソ天が入っていることか。

とにかく、ひと口いただく。あ、モチモチッとしていてコシというか弾力がある。それに、麺が細いのでツルッと喉を通る。この歯ごたえは新鮮。しかも具やスープとよくマッチしていて、ちょっとあとを引きそう。武雄や小浜、水俣もいいけれど、戸畑もうまい。うーん、九州のちゃんぽん、奥深し。

●information
寛太郎
北九州市戸畑区浅生3-14-21

全国ご当地ちゃんぽん連絡協議会のフェイスブック