「バーサーカー」が出来るまで

――先程、吉川さんと滝沢さんのお仕事はかなり違うと伺いましたが、滝沢さんは『Fate/Zero』では具体的にどんな事をされているのでしょうか?
滝沢:僕はバーサーカーの3DCGを作っています。ファーストシーズンに出てくるバーサーカーはほとんどやらせていただいていまして、セカンドシーズンも今まさに担当しています。バーサーカーは制作的な物量がものすごく多くて、テスト段階から含めると、去年の5月から第5話が終わるまでは、毎日ほぼバーサーカーしか触っていなかったですね。

――バーサーカーの制作というのは、具体的にはどの様に進められたのですか?
滝沢:ufotableは作画とCGに垣根が無いというか、最終的に良い画面にするために最良の手段を選ぶ会社なんです。バーサーカーも作画かCGのどちらでアプローチするかずっと検証していたんですが、全身甲冑を着ていてロボットっぽいあの感じを全話高いレベルで表現するために、最終的にCGでアプローチすることになりました。

それが決まってから、まず最初はバーサーカー自体の造形をCGモデルでおこします。そのCGモデルが、アニメでいう所のキャラクターデザインの様なものになりまして、そのモデルをアニメ用に加工していく作業以降を僕の方で担当しました。作業的に結構重かったのが、PC上でそのモデルを動かすための骨組み(リグ)を作る作業ですね。その骨組みがちゃんとしていないと、例えば第5話のような自然でダイナミックな良い動きが出来ないんです。それこそ頭のてっぺんから手足の先、鎧の細かい部分や、果ては頭や身体から出ている細長い造形物まで、キャラクターとして如何にうまく動かすかは試行錯誤の連続でした。さらにそこに体を覆う黒いモヤモヤをつけて完成なのですが、モヤモヤもどういう質感でどれくらいの量があると画面的に違和感無く見られるのかは、作っては変え、作っては変えの、トライアンドエラーの連続でした。

――そして更にそれを動かす作業もある?
滝沢:そうですね。例えば第5話のアーチャーと戦うシーンでは、まず原画マンから大まかな動きを指定したラフな原画が回ってきます。それに合わせてCGに動きを付け、モヤモヤを足し、宝具を画面に加え、更に背景と合わせて撮影処理を行って、という工程を経てようやく一つのシーンが出来上がります。何度レンダリング(書き出し作業)したか忘れるくらいやっていましたね(笑)。

――では続きまして吉川さん的に、ファーストシーズンで「ここを頑張りました!」という場面を伺わせてください。
吉川:作業的に大変だったのは、第4話と第11話ですね。第4話のランサーとセイバーが戦っているシーンでは、先程お話した風王結界を削るシーン以外にも、ひたすらランサーの槍をチカチカさせたり、セイバーが剣を振るスピードが速いので、どういう攻防かわかりやすいように剣の軌跡を入れたりしていました。

第11話では、アーチャーの甲冑を、王様が喋(しゃべ)っているのだから豪華にしようと思って気合を入れました。全カットの甲冑にブラシを入れてリッチな感じを出しつつ、アーチャーは金ピカじゃないといけないので、ケバケバしくならない程度にふわっと光輝かせて、みたいな事をしていたら、やってもやっても終わらず、かといって目指すゴールを決めた以上手を抜くわけにはいかないので、ひたすら作業を続けている最中、心の中で「まだ喋(しゃべ)るのか英雄王!」と思いながらやっていました。

『Fate/Zero』2ndシーズン、いよいよフィナーレへ!

――では、いよいよ2ndシーズン放送もフィナーレへ向け動き出しましたが、現在放送された中で「ここ頑張りました!」という所はありますか?
滝沢:14話と15話のバーサーカーとアーチャーの空中戦はとにかく大変でしたね。F-15とアーチャーのヴィマーナはどちらもCGで、更にあの空中全体も実はCGで制作されたのですが、バーサーカーが乗っ取った後のF-15とヴィマーナがどちらも航空力学を無視した動きをし、しかもそれを画面全体として違和感無く見せないといけなかったので、撮影監督の寺尾さん含め、撮影部総出で頑張りました。バーサーカー担当的には5話以上にハードな話数でしたね。

そして今まさに大変なのが、第20話でも最後にチラッと出てきて、第21話以降で大活躍するセイバーのVMAXです。VMAXもCGなのですが、回りの風景の映り込みや光源の影響も反映させないとカッコ良くない。どうやったら最終的に良い画面になるか、ひたすらテストをやっている日々です。

吉川:16話のランサーとセイバーの最後の対決シーンですね。4話と同じように槍や剣の煌きや軌跡をひたすら入れていました。16話ではセイバーはエクスカリバーをずっと出した状態なので、剣を振った時に大きな光の反射を入れたり、地面にエクスカリバーの照り返しを入れたり……。全体的に青いシーンなので、エクスカリバーの黄金色と槍の赤を映えさせるのに試行錯誤しましたね。あと、19話のラストの切嗣が船に乗ってからナタリアの乗った飛行機を打ち落とす一連の場面は、段々と夜が明ける静けさを視聴者の方に感じてほしかったので、エフェクトが主張し過ぎないように気を付けました。霧がかかった青い夜から最終的に夜が明けた画面はとてもきれいに出来たと思います。

ufotableの「ものづくり」

――お二人が感じるufotableの魅力はどんな所でしょうか?
吉川:いろいろありますが、制作面でいえば、他のセクションの人たちと活発に喋(しゃべ)れることですね。他の制作会社に勤めている人の話を聞くと、撮影は別の会社に頼んでいるというケースも結構多いらしいのですが、ufotableは、作画さんが撮影部に来て「ここはもっとこうしたい」と話したり、逆にこちらから他の部署に行って「こういう画が欲しい」と伝えたりといったタイムリーなコミュニケーションが出来るので、それは物作りにおいて大きな魅力だと思います。

滝沢:あと、最終的な良い画面作りに対して柔軟な所です。正直、CGって、画作りという意味では作画とかぶっている所もあるので、ともすればアニメーターさんに嫌われる部分もあるんです。でも、ufotableはお互いの距離が近いので、作画・CG、両方を合わせて面白いものを作ろうという意識が強いと思います。みんな尊重し合っていて、お互いリスペクトがあるからなんですよね。それって、クリエイター同士の主張がある中、すごいことだと思います。

――そんなufotableの中で、お二人が近い未来(3年以内)に「こんな風になりたい」「こんな仕事がしてみたい」というものはありますか?
吉川:色んな作品に関わりたいです。ufotableってテレビアニメだけじゃなく、ゲームなどの仕事も多いので、ゲームムービー制作にも関わりたいですね。そして目指す人としては、やっぱり撮影監督の寺尾さんです。私が作業していて「なんかイマイチしまらないなぁ」と思っているシーンを相談すると、寺尾さんはささっとマウスを操ってカッコイイものに仕上げちゃうんです。あのセンスと技術の高さは本当にすごいですね。

滝沢:僕は『Fate/Zero』で3D監督を務めている宍戸幸次郎さんぐらい出来るようになりたいです。宍戸さんは、刻印虫や海魔キャスターなど、絵コンテを見て「こんな画作れないだろ……」というものを「まさにこれが見たかったんです!」というレベルで作れてしまう。それでいて仕事が早く、尊敬しています。

そして、個人的に目指す画作りとしては、ufotableにいるからこそ、作画さん・仕上げさん・背景さん・CGといった全ての要素を含めて、もっと面白くて、もっとハイブリッドでカッコイイ映像を作りたいです。そのために、もっと自分の技術を向上させたいですね。

――さらなるご活躍を期待しております! 本日はありがとうございました!