常温でビールを飲むとよくわかる

今回、色合いについてはアサヒビールの「アサヒ黒生」以外はすべて"輝くゴールデンイエロー"で大差ないので省かせてもらった。そして、ソムリエコメントを見た読者の中には、「オレンジだのグレープフルーツだの、桃なんて表現まで……。ビールに桃!? この人、おかしいんじゃないか!?」と疑問を抱いた方もいらっしゃるのではないかと思われる。

皆さんは、これらのスタンダードビールを飲むときは通常冷やして飲むだろう。今のような夏場であれば、特にである。だが今回のソムリエコメントは、常温のビールをテイスティングしたときのものである。それは、冷すことによって本来あるはずの味わいを感じ取りづらくなり、口の中も冷たくなって麻痺してしまうからだ。そして注ぎたてのものだと泡が蓋をすることで、香りが取りづらい。よって、しばらく経って泡が消えた状態にした。

そうすることによって様々な香りや風味がおもしろいようにあらわになり、このようなコメントになったのだ。正直、色も大差ないしアルコール度数もほとんど同じこれらを並べて何が違うんだろうと半信半疑で挑んだのだが、実際は全く違っていた。

皆さんも一度、グビグビと冷たいのを飲んだ後、最後の一口を残して温度が上がってから香りと味の変化を比べてみてはいかがだろう。意外な発見があるかもしれない。ただしこれらのビールを「常温で飲む=おいしい」とは一言も言っていないことはお断りしておく。

そして、そんなテイスティングから得られた味わいマトリックスが以下の通りである。

残念ながら軽やかでコクがあるビールは該当するものがなかった。そのあたりは皆さんも想像に難くないだろう。そのようなビールが存在するなら、ぜひ飲んでみたい。

最後に私事の話で恐縮だが、先日所用でアメリカのコロラド州に行った。コロラド州は知る人ぞ知る地ビール(マイクロブルワリー)処である。クアーズという大手も存在するが、小規模でいながら秀逸なブルワリーも多い。

アメリカにおける地ビールの1つのスタイルとして、とにかく華やかな香りのホップを大量に投入した"紅茶色の苦くてアルコール度数の高いビール"であるIPA(インディアン・ペール・エール)というものがある。IPA好きの私としては、日本では入手困難なこれらを片っ端から飲んでいた。最初こそ嬉々としてグビグビやっていたのだが、そのうち疲れてくるわ、口の中が苦すぎて味覚が麻痺するわで辟易してきた。それでも、「日本に帰ったら飲めないぞ」というもったいない根性だけで飲み続けた。こうなれば意地である。最後の最後、現地の空港まで意地を張り通し、帰国。

帰国後真っ先に手が伸びたのは日本の普通(←スイマセン、敢えてこう呼ばせてください)のビールであったことは言うまでもない。ホッとした~。