さて本題に戻る。例えば全部I pictureにしてしまうという無茶な事をやると、平均ビットレートが9Mbpsでは全然不足する。そこで、なるべくME(Motion Estimation:動き検索)の精度を上げることで、MC(Moton Conpensation:動き補正)の必要性を減らす事が必要になる。MEの精度を上げると、

・MCで補正すべき「画像の差」が減り、同じビットレートならより圧縮率を下げられる→画質が向上する
・MCに必要なデータ量を減らすことで、CBR(Constant Bit Rate)の場合(図3)に比べてVBR(Variable Bit Rate:可変ビットレート)の場合(図4)にはI-Pictureに割り当てるデータ量を増やすことが可能になる→これも画質が向上する

といった効果が期待できるからだ。

図3

図4

ただここで問題なのは、検索精度と画質は必ずしも比例するとは限らないことだ。例えばシーンチェンジでは、いかに検索精度を上げても動きベクトルが正しく取れる保証はない(というか、こうしたケースでは動きベクトルの考え方そのものの意味が無い)。であるから、ここではいきなりI pictureに近い状態になる。またアニメのベタ塗りのケースでは非常に検索が難しくなりがちで、しかもJPEG/MPEG系のDCT圧縮にアニメが向かないから、どうしても画質が荒れがちとなる。このために、余計にMEに手間がかかるというおまけもつく。そんなわけで、大きな枠で見るとビットレートが一定ならMEの精度が画質の鍵を握ることになるが、MEでどこまでも画質を改善できるとは限らない。そういう状況だから「フルサーチをすれば画質が上がる」とは単純に言えないものがある。