【特集】
2004年のEPF(Embedded Processor Forum)2004直後、AMDはGeode NXという新たな組み込みマーケット向けソリューションを発表した。実はこれに関してCOMPUTEX TAIPEI 2004でセッションはあったのだが、既に他誌でレポートを書いてしまった上、それほど新しい情報もなかったためにレポートをスルーしてしまったのだが、このGeode NXが単にEmbedded向けという枠を越えて、(丁度VIAのEdenプラットフォームがそうであるように)、リテールマーケットに本格的に乗り出そうとしている。そこで、このあたりをもう少し詳しく確認してみよう、というのが本稿の趣旨である。
まずGeode NXという製品についてもう少し説明しておこう。ちょっとコチラの記事と重複するところもあるが、ご容赦いただきたい。
ここ数年、AMDは大きく3つの組織から構成されてきた。まずはCPUを作るCPG(Computation Products Group)、組み込み機器系のPCSG(Personal Connectivity Solutions Group)、及びフラッシュメモリの製造を行うMemory Groupだが、現在Memory Groupは富士通と合弁のSpansionに完全に移管されており、従ってAMDはCPGとPCSGから成立することになる。
このPSCGであるが、元々中核であったのは同社のEPD(Embedded Products Group)である。80186互換CPUやAMD ELAN、AMD K6-2-E/AMD K6-III-Eなどを組み込み向けマーケットに販売するのがメインのビジネスで、かつてはAm29000なんていうRISCプロセッサも扱っていた。これに加え、NPD(Network Products Division)とCSD(Connectivity Solutions Division)というネットワーク/無線LAN製品を開発していた部隊をも統合した。無線LANを扱っていたCSDは比較的新しい開発部隊だが、NPDの方はというとこれは歴史が長い。実際AMDは10/100BASE-T関連製品の製品化をかなり早くから行っており、かつては定評ある製品として広く利用されていた。話を戻すと、これらの部隊を統合した上、更にMIPS32コアを利用したSoCを製造・販売しているファブレスメーカーであるAlchemy Semiconductorを買収してPCSという事業部が発足したのが2002年4月のこと。この時点で低消費電力の製品を手に入れた事でラインナップを充実させ、更に2003年8月にはNational SemiconductorからGeodeを開発しているIA事業部を買収した(名前はこの時点でPCSからPCSGとなった)(Photo01)。
さて、PCSの時代はいまいち製品に一貫性が無かったAMDだが、Geodeの買収により、ローエンドからハイエンドまでをフルにx86プロセッサでカバーするラインナップが揃った(この時点でAlchemyのMIPS32コアは、事実上ウルトラローエンドに押しやられる格好になった)訳で、このあたりからAMDの上層部はしきりに"x86 Everywhere"なる単語を連発するようになった。つまり従来はARMやMIPS/PowerPCなど、非x86で実装されてきたマーケットをx86プロセッサで置き換えようという訳だ。
ところが、このマーケットは既に先駆者がいる。それがVIAである。もっと厳密に言えば、もともとEmbeddedのマーケットにはx86が広く利用されてきていた。Geodeやその前身であるMedia GXは広く利用されてきたし、台湾のファブレスCPUメーカーであるRiSE Technologyのx86互換コアは、その後SiSやSTMicroelectronicsに採用されてそれぞれIA向けSoCとして登場した。またTransmetaもCrusoeをEmbedded向けに出しているし、AMDやIntelもやはり製品をラインナップしている。にも関わらず、それほど広く普及するに至らなかった理由は、一つは消費電力が大きいことと、もう一つは中途半端なことだ。中途半端、というのはサイズやポジショニングである。安く上げようとすれば、PCのパーツを組み合わせて出来合いのOSをいれてアプリケーションを動かせば完了だが、PCパーツは組み込み用には大きすぎたり、コストが合わないことが多い。では専用のボードを起こしてやれば……というと、それなら別にx86である必要はないわけで、もっと安価に同程度の能力を持ったCPUが手に入る。x86の既存のインフラを使う事で、安価に開発や生産が可能というのは完全にお題目で、実情と合ってなかったわけだ。
ではVIAは何をやったかというと、Mini-ITXという極小のプラットフォームを策定し、非常に廉価な(店頭売り価格でも、最下位の533MHz品は1万円を切るほどである。組み込み機器の量産を前提に大量に購入する場合、40ドル前後という信じられない値段が出たこともあるそうだ)製品を投入したことだ。しかもATXとパーツや寸法に互換性があるため、既存のプラットフォームを生かしながら、コストダウンに十分貢献することが可能になった。これによる効果は恐ろしいほどのものがあり、実際VIA TechnologyではEdenプラットフォームの売上は、今では全体の数割に達する勢いである。0から立ち上げたマーケットとしては、信じられないほどの大きさを見せている事がお判りいただけようか?
このマーケットは、当然VIA以外のメーカーにとっても魅力的である。従ってAMDがこのマーケットを狙うのは当然であるが、NSから入手したGeode GX1/GX2ではやや力不足であるのも明白である。EPIAシリーズは下は533MHzから上は1GHzまでラインナップされ、間もなく1.2GHzも登場する予定だから、GeodeやK6-2/III-Eではやや力不足である。そこでAthlon XPのコアを流用して製品を投入することになるわけだが、ここでブランディングの話がでてくる。AMDはAthlon/Duron/SempronというブランドをPC向けに、Opteronというブランドをサーバー向けに作り上げたので、コアがAthlon XPと同じとは言え、Embedded向けにもAthlonというブランドを使うのは混乱を招くと考えたようだ。結果としてGeodeのブランドをそのまま流用し、Geode NXという製品を作り上げたというわけである。
そういうわけで、当然ながらGeode NXの仮想敵はVIAのEdenプラットフォームということになる。実際、1GHz動作のGeode NXには1500というモデルナンバーがついているが、これは1GHzのVIA C3の1.5倍くらい高速に動作するというベンチマーク結果を元に付けられた番号という話をAMDが公言しているほどで、なかなかえげつないという気もする。
面白いのは、このGeode NXの開発キットがVIAのKM400Aチップセットを使っている事だ。Geode NX DB 1500 development boardと名づけられた、いわばリファレンスキットであるこのボード、Mini-ITXのフォームファクターながら2本のIDEポートと2つのSATAポートを持つ、割と重装備な構成(Photo02)である。チップセットはKM400AにVT8237を組み合わせたもので(Photo03)、AGPポートこそ装備しないが、そもそもMini-ITXでフルサイズのAGPポートを搭載すると他に拡張カードが使えなくなるから、これは妥当な構成だろう。CPUに関してはVIAと思いっきり競合しつつ、チップセットに関しては仲良くやっているわけで、ビジネスの奥深さを垣間見せてくれるともいえる。
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Photo02:これも当初から発表されていた開発キット。ちなみにキットの形で入手は出来るが、ボード単体での販売は無い。 |
Photo03:Power ManagementやGPIO(General Purpose I/O:汎用入出力)ポートが用意されているあたりが開発キットらしい。 |
さて、Geode NX 1500の発表は2004年5月であって、既に発表後半年以上も経っているから流石に新製品とは言えない。にもかかわらずこの時期にニュースになったのは、TyanがこのGeode NXに対応した新製品であるS2498AGN(Photo04)を発表したためである。単にSocket A対応マザーボードというよりも、明確にGeode NX対応マザーボードとして登場したこの製品、ハードウェア構成は限りなくDB 1500に近い。DB 1500同様にKM400AとVT8237を搭載し、IDEとSATAが2ポートづつといった構成。相違点としてはFlex ATXフォームファクターを採用し、PCIバスが2ポートあること、DIMMスロットを2本装備すること、10/100BASE-TのコントローラにRealTekのRTL8100Cを搭載することなどだ。このS2498AGNが来年第1四半期あたりから出荷を開始するタイミングで、Geode NXのリテール販売も本格的に始まるわけで、つまり現在のVIA EPIAシリーズの様な感覚でGeode NXを使った自作が出来るという訳だ。今回はこの目処が立った、ということで改めて発表会が開かれたという訳である。
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