Leonis&Co.とトランスコスモスという会社で新しい消費行動の研究をしている伊藤圭史と申します。本連載は私の「新しいものを生み出すこと」への好奇心を満たすことを目的として、未だ存在しない新しい考え方や事業に挑戦する人に話を聞いていく企画です。

第一回は株式会社ALEの岡島さんです。「人工的に流れ星を作る」という想像しがたい事業を引っ張る女性起業家にお話を伺うところから、この連載を始めたいと思います。

岡島礼奈(おかじま・れな)

株式会社ALE(エール)代表取締役

東京大学 理学部天文学科卒。その後、東京大学大学院 理学系研究科に進み、天文学専攻にて博士号取得(理学博士・天文学)。卒業後、ゴールドマン・サックス証券、ビジネスコンサルティング会社を経て、2011年9月にALE設立。


伊藤:流れ星を売るとお聞きしましたが、どのような事業を展開されているんですか?

岡島:流れ星を人工的に作って、販売する事業を立ち上げています。人工衛星から流れ星のもととなる粒(ペレット)を発射して大気圏に突入させることで、好きな時間・好きな場所に好きな色の流星群を降らせるんです。

伊藤:流星群ですか?

岡島:はい、もう空からワーッ!っと来るような。それを、イベントやシティプロモーションの演出として使っていただくことを想定しています。例えば、東京オリンピックの開会式で使ってもらえないかな、と思ったりしています。まだ、お話をもらってるわけではないのですが(笑)。

(下の動画がALEの作り出す流れ星のイメージ)


伊藤:想像するだけで、もうゾクゾクしちゃいますね。ビジネスモデルとしては花火に近いイメージですが、違いはなんですか?

岡島:一番は距離です。花火は約10キロなのに対して、200キロ圏内で見ることができます。

伊藤:200キロってどれくらいですか?

岡島:関東一帯がすっぽり収まるくらいです。そこに住んでいる3300万人を巻き込んだエンターテインメントを作りたいと思っています。飛行機や船を出したり、店でイベントをやったり、そこに住む人々が思い思いにショーを楽しんでもらえるイメージです。今は、宇宙は一部の研究者や富豪にしか関係ないですが、私たちが肉眼で見せてあげることで、もっと身近に感じてもらえるんじゃないかと思っています。それをきっかけに、科学に興味を持ってくれたら嬉しいなって思っています。

伊藤:確かに、お子さんがお父さんと「あれって、どうやってできてるの?」っていう会話が生まれそうですね。

岡島:そうそう。「どうして、ああいう色が出るの?」っていう質問になって、炎色反応の話題になったりとか・・・

伊藤:それはいいですね。(よくわかっていない)宇宙でエンタメをすることで、宇宙や科学を身近にしていくわけですね。

岡島:そうです。まずは流れ星から始めるんですけど、ALEは「空をキャンバスに宇宙をエンターテインメントする会社」になりたいと思っています。科学技術を使ってエンタメを作って、科学技術の発展に寄与できたらいいなって。

世界で初めて宇宙で遊ぶ

伊藤:近年、宇宙関連のベンチャーの話を聞く機会が増えてきたのですが、業界としてはどういうフェーズにあるのですか?

岡島:宇宙は元々、冷戦時に米ソが軍事技術として研究したところから始まるんですが、2000年代に民間に開放されて徐々に広がってきている状況です。

伊藤:少し勉強してみたんですけど、インターネットの歴史に似ていますね。軍事から始まって民間に開放されて。それで言うと、今はまだ打ち上げ技術の低コスト化とか、リモートセンシングといった、かなり基礎的な事業が立ち上がる時期。ALEはかなり特殊な存在ですよね。

岡島:そうなんです。宇宙でエンターテインメントやっている会社って、世界でもALE以外にないんですよ! 本当に世界で唯一の存在。この事業の話を海外ですると「日本的だね」って言われるんです。

伊藤:どういうことですか?

岡島:「日本人は凄い技術力を使って、突拍子のないことをやりたがるよね」って言われるんです。

伊藤:なるほど。ニコ動の「才能の無駄遣いwww」ってやつですね。そういう意味では、人工流れ星も日本のサブカルに位置づけられるのかもしれないですね。

岡島:今の民間宇宙ビジネスにおいて盛んなのはロケットを飛ばすか、宇宙/地球観測するか、あとは旅行ですよね。私たちが先んじて遊ぶことで、今までにない宇宙の使い方をしようっていう人が生まれてきてくれるんじゃないかな、と期待しています。

伊藤:インターネットでも基礎通信技術とECとか当たり前な事業が生まれたあと、SNSのような使い方が発展していきましたよね。そのフェーズをALEが世界の先頭切って開拓していくわけですね。かっこいいですね!

共感が異なる専門/タイプの人を巻き込んでいった

伊藤:この事業って奇想天外すぎて、自分で立ち上げるシミュレーションをしてもイメージが沸かないんですが、どうやって始まったんですか?

岡島:私の専門は、実は宇宙工学じゃなくて天文学なので、最初に流れ星を作りたいって思ったとき、やり方が全然わからなかったんです。だから、とりあえず小型人工衛星の会社に突撃しました。そこで事業構想に共感してくれた担当の方が紹介してくださった大学の先生が学生たちと研究を始めてくれて、技術がどんどん進みました。2014年に流れ星が明るく光るということがわかったとき、「これは事業化しなきゃ」と決心しました。

そのあとは、自分で事業をやっている旧友と話をしていたらJoinしてくれることになったり、アーティストの方が演出を担当すると名乗り出てくれたりと、みんなが面白がって協力してくれる人が増えていったんです。

伊藤:今、どれくらいの人がいるんですか?

岡島:常駐が6名で、あとは外部で協力してくれている人が30名くらいいます。

伊藤:すごいですね。雇ってもいないのに30人が動くって聞いたことないですよ。

岡島:そうですね。最初は本当にそんな感じで立ち上がっていきました。実はこの間、JAXAの実験設備を使って大気圏にペレットを突入させる模擬実験を行ったのですが、それは大学の先生が研究の一環としてJAXAと共同研究を行ってくれているおかげで、データを利用させてもらっています。ALEの強みは、色んな専門やタイプの人が支えてもらえていることだと思っています。すごく感謝しています。

伊藤:今後はどういう人を募集される予定ですか?

岡島:今は急拡大させなければならない時期なので、あらゆるポジションで人を募集しています。どこも足りてないんです(笑)。技術者やビジネスはもちろん、秘書みたいな細かいところに気がつく人も欲しいって思っています。

伊藤:6名からの急拡大のフェーズ、楽しそうですね!エンジニアというと、どういう人になるんですか?

岡島:人工衛星を作れる人ですね(笑)

伊藤:います?

岡島:なかなかいないですね(笑)。でも、弊社の技術のヘッドも、実は元々初期家庭用パソコンを作っていた人で、試行錯誤しながら、衛星に必要な技術は何かを学び、習得していってくれています。だから、宇宙に足を踏み入れたことなくても、好奇心があって、原理や理論が理解できるのであれば、意外と対応できるんだと思います。あとは壁だらけなので、そういうのを楽しめる人がいいと思っています。今まで宇宙業界じゃなくても興味があって、理論さえ理解できれば道は開けるということですね。

日本発で世界に誇れる企業を

伊藤:事業展開は、やはり海外から?

岡島:迷っているんです。どう思います?

伊藤:私は日本人であることを最大限活かしたいと考えているので、基本的には世界屈指の規模を持つ国内マーケットをターゲットにすることを意識しています。ただ、ALEの場合、日本はやはり新しいものの受け入れが遅いし、宇宙技術も発展している海外からスタートさせるほうが良いと直感的には思います。国と連携することが多いと思うのですが、苦労したりしませんか?

岡島:実はそこはうまくいっているんです。国との連携が得意なメンバーがついてくれいることもあるんですが、実は国の方々も本当はこういう新しいことが好きな人が多くて、意外と頑張ってくれたりするんです。最近は民間宇宙企業を応援するという国の方針もあるので、ちゃんと必要な説明をすればきちんと対応してもらえます。

好奇心で引っ張る企業経営

伊藤:最後に、岡島さんご自身のことをお伺いさせてください。岡島さんは学生時代、どんなタイプの人でしたか?

岡島:結構、浮いていたかな(笑)。あまり周りと話が合わなくて。

伊藤:わかります! 私も自分がやりたいことに忠実すぎて完全にマイウェイ状態に陥ってました(笑)

岡島:確かにマイウェイだったかも(笑)

伊藤:憧れの人とかいましたか?

岡島:小学生のころは今の事業関係ありませんが、ムツゴロウさんが大好きだったんです。そのあとは、アインシュタインやホーキングとか。相対性理論を漫画で読んだり、ホーキングの宇宙論読んでてかっこいいなあと思っていました。中二真っ盛りの時、読んでたんです。

伊藤:珍しいですね(笑)。それは話が合わなそう。ちなみに、何かを指針に生きてきたということはありますか?

岡島:基本は好奇心で動いていますね。人にどう見られたいというのは全然なくて、自分が楽しいことを、とにかくやりたいと思っています。経営者としてはどうなのかと思っちゃいますが(笑)。

伊藤:そういう経営者はすごくいいと思います。これから増えていくんじゃないかと思っているんですよ。ITが一巡して、改めて基礎技術が伸びていくときって、純粋な好奇心で熱中していける企業家が勝つ気がするんです。経営者としては、どういうタイプだと思いますか?

岡島:共感を呼び掛けていくタイプだと思います。自分が何もできないから人をコントロールしようと思ったことはないですね。なんかこれからはそっちのほうがいいと思うんですよね。人の働くモチベーションが変わってきているなかで、指示を出していく感じのマネジメントじゃ人は動かないと思うんです。

伊藤:それは、私もすごく感じています。昇進とかお金をモチベーションにして従わせていくスタイルって、もう時代遅れって感じがします。事業領域も含めて、岡島さんはすごく最先端の企業家ですね。

取材を終えて

宇宙ビジネスは今、間違いなく爆発前夜。まだ、誰も開拓したことないから勝ちパターンなんてどこにもない。こういう世界を切り開けるのは、好奇心と共感力で突き進む岡島さんのような企業家なのだろうと思いました。実は、このインタビューも楽しすぎて予定よりもかなり時間をオーバーしてしまいました。いや、もっと前から私は巻き込まれていたのかもしれない。最初に話を聞いた瞬間から頭から離れなかったのだから。いま、人工流れ星は基礎実験を終えて2017年の商用化に向けて一気に加速するフェーズにある。岡島さんの好奇心が光となって夜空に降り注ぐ日は遠くない。

執筆者紹介

伊藤 圭史

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Leonis & Co.共同代表
および トランスコスモス オムニチャネル推進室 室長

上智大学卒業後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現 : 日本IBM)に入社。2011年12月、オムニチャネルに特化したシステムとコンサルティングサービスを提供するLeonis & Co.を設立。通信社や大手百貨店、大手スーパー等、新しい流通の仕組みに挑戦する様々な企業の取り組みを支援。 また、世界初のスマートフォンに直接押印できる「電子スタンプ」の発明や、スマートフォンマーケティングシステム「OFFERs」の展開など、事業家としても新しい世界への挑戦を行っている。