1. 変調って何?

製品に組み込む無線モジュールの機種選定をする場合、エンジニアは複数のベンダーから無線モジュールを取り寄せて、単に価格が安いだけではなく、価格・性能比を評価しなければなりませんが、比較評価の重要な項目に変調精度の評価があります。無線モジュールの仕様書の変調方式の項目を見てみると、DSSS、FHSS、CCK、OFDM、DBPSK、DQPSK、16QAMなど、様々な表記があり、さらにDSSS/CCKとか、OFDM-64QAMのように組み合わされてさらに意味不明になってくると、無線モジュールの変調精度の比較評価はベンダー任せにしてしまいがちなのですが、この作業を人任せにすると、安かろう悪かろうの駄物を選定してしまう結果になりかねません。また、製品出荷後のフィールド・トラブル時の原因切り分けや、品質保証も他人任せになってしまいます。

数年前までは変調精度の評価には数百万円する高価なシグナルアナライザが必要でしたが、最近は40万円代のUSBスペアナに付属する15万円程の解析ソフトで、安価に評価ができるようになってきました。

今回は、無線通信の変調の知識と、無線組込み機器の変調方式、変調精度の評価方法の基礎をお伝えます。

IEEE 802.11(無線LAN)規格で使用される変調方式

そもそも無線通信は何故変調がかかっているのでしょうか?長距離伝送する時にノイズの影響を受けないように変調をかける目的と、他にもう一つ、周波数の有効利用という理由があります。たとえばAM/FMラジオはアナログ無線ですが、人間が耳で聞き取れる可聴域(20Hz~20kHz)の音波を、そのままの周波数で電波に変換すると広い周波数帯域を占有してしまいますし、複数のチャネル(放送局)が同時送信すると混信してしまいます。なので、たとえば関東地方ですと、NHK第一は594kHz、ニッポン放送は1242kHzといった具合に、放送チャネル別にキャリア(搬送波)周波数が割り当てられていて、この正弦波(サイン波)のキャリア周波数に9kHzの変調帯域幅制限をかけることで、より多くのチャネル(放送局)が同時に音声信号を送信することができるのです。キャリア周波数の振幅を変化させるのが、AM変調(Amplitude Modulation)、キャリア周波数の周波数を変化させるのがFM変調(Frequency Modulation)です。この他にキャリア周波数の位相を変化させるPM変調(Phase Modulation)という変調方式もあります。

AM変調はキャリアの振幅値を変化させ、FM変調はキャリアの周波数を変化させて音声信号を伝送する

2. デジタル無線の変調方式は?

無線組込み機器の通信はアナログ無線ではなくデジタル無線が一般的ですが、デジタル無線も基本は「振幅」か「周波数」か「位相」のどれかを変化させます。デジタル通信なので1か0かの2値で送受信しますが、キャリア周波数の振幅を変化させるとASK(Amplitude Shift Keying)、周波数を変化させるとFSK(Frequency Shift Keying)、位相を変化させるとPSK(Phase Shift Keying)と言いますが、振幅と位相の両方を変化させるQAM(Quadrature Amplitude Modulation)という変調方式もあります。

デジタル通信では、シンボル・レートのタイミングで1か0かを判定する。ASKでは振幅値が大きいか、小さいかで1,0を判定し、FSKでは周波数が高いか、低いか、PSKでは位相の角度で、1,0を判定する

比較的安価なのはASKの無線モジュールですが、振幅変調はノイズの影響を受けやすくなります。FSKやPSKの無線モジュールは振幅値が変化しないのでノイズに強く電力効率も良いですし、PSKは加えて周波数も一定値なのでチャンネル数を増やしたいときなどの周波数効率も良く、無線組込み機器には有利な変調方式として標準的に多用されています。

3. 一次変調、二次変調って?

ASK, FSK, PSKの3種類が一次変調の基本形ですが、これにさらに二次変調をかけて周波数拡散することで、通信の秘匿性を向上したり、外乱ノイズの耐性を向上したり、同じ帯域幅でチャネル数を増やしたり、伝送速度を速くしたりすることができます。無線組込み機器で使用される二次変調には次のようなものがあります。

FHSS(周波数ホッピング拡散)
Bluetooth(2.4GHz帯)で使用されます。
Bluetoothの一次変調はGFSK、π(pi、以下同)/4-DQPSK、8DPSKです。2402MHzから2480MHzの間で1MHz帯域幅の79本のキャリア周波数を1600回/秒の速さでホッピングさせて切り替えるので、電子レンジ等の外乱ノイズや干渉信号への耐性があり、AFH(Adaptive Frequency Hopping)機能で無線LAN等の他の通信を避けながら通信することもできます。

DSSS(直接拡散)
無線LAN(802.11b)(2.4GHz帯)、ZigBee(920MHz、2.4GHz帯)で使用されます。
802.11bの一次変調はBPSK、QPSK、ZigBeeはO-QPSK(2.4GHz帯)、GFSK(920MHz)です。一次変調信号にPN(疑似乱数)系列を乗算して周波数を拡散させるので、外乱ノイズの耐性が向上します。また、逆拡散しないと簡単には復調できないので通信の秘匿性も向上します。DSSS/CCKという変調方式もありますが、CCKはPNのビット数を利用して伝送量を増やすという技術です。

OFDM(直交周波数分割多重変調)
無線LAN(802.11a/g/ac)(2.4GHz帯、5GHz帯)で使用されます。一次変調はBPSK、QPSK、16QAM、64QAM、256QAM等です。OFDMはサブキャリア周波数を50~1000本使うマルチキャリア方式で並列伝送しますが一本のサブキャリア各々に一次変調がかかっています。802.11a/gのサブキャリア周波数は同期用のパイロットを除いて48本ですが、5.6GHz帯の802.11acは900本以上のサブキャリア周波数を使って最速6.9Gbpsの高速伝送をします。

4. モジュール選定評価の基準は?

無線組込み機器用の無線モジュールの多くがFSKかPSKで通信しています。Bluetoothも無線LAN(Wi-Fi)もZigBeeも基本的に一次変調はPSKを使いますので汎用的なPSKの評価方法をお伝えします。PSKには、BPSK、QPSK、O-QPSK、8PSK、π/4-DQPSKなど色々な種類がありますが、PSKの頭に付いているB、Q、8はシンボル数で、BPSKのBはBinaryの2、QPSKのQはQuadratureの4です。他に、O(オフセット)、D(差動)、π/4(シフト)などありますが、これらは電力効率を改善する為の工夫です。シンボル数というのは位相が360°一回転する間の位相ポジションの数で、たとえばQPSKは、45°、135°、225°、315°の4種類の位相ポジションがあり、1個のシンボルをサンプリングするだけで00、01、10、11いずれかの2ビットのデジタル信号を伝送できます。

QQPSK(左側),8PSK(右側)変調のイメージ。一つのシンボルで、2~3ビットの伝送ができる。

同様に8PSKでは、000、001、010、011、100、101、110、111の8種類になり、1シンボルで3ビットの伝送ができるので伝送効率が良くなります。ちなみにQAMは位相と振幅の両方を変化させて、たとえば16QAMでは16種類のシンボルを使って、1シンボルで4ビットの伝送ができるので、さらに伝送効率が向上しますが、その分、隣り合うシンボルの位置が密集して狭くなってくるので、無線モジュールの変調精度が悪いと、位相ポジションがずれて重なってしまい通信エラー(ビットエラー)が発生します。

振幅値と位相の両方を変化させると、1点のシンボル位置で多値の伝送をすることができる。16QAM変調は1点のシンボルで4ビットを伝送することができる

左側:信号品質の劣化した16QAM変調のコンスタレーション表示 右側:シンボルクロックのTimingを補正した正常なコンスタレーション

このシンボルの位置のずれ具合をEVM(Error Vector Magnitude)と言いますが、一般的な測定方法は、無線モジュールの空中線電力(アンテナ送信出力)をシグナルアナライザに入力してコンスタレーションを表示させ、EVM値を測定して無線モジュールの変調精度の良し悪しを定量的に評価します。

信号品質が劣化すると理想のシンボル位置からのずれ(EVM値)が大きくなり、1,0のビット判定エラーが出やすくなる

EVM値は %又はdB(デシベル)で表記されますが、次の式で換算できます。

EVM(dB) = 20log(EVM(%)/100), EVM(%) = 100 x 10EVM(dB)/20

たとえばZigBeeの802.15.4規格では、「送信側のEVMが35%未満であること」、という規格値があり、無線LAN(802.11)の場合はEVM規格値が -5dB(BPSK)~-32dB(256QAM)の範囲で、変調方式別に値が規定されています。比較の為に換算すると35% = -9dB、-5dB = 56%、 -32dB = 2.5%となります。%値が小さいほどズレが少ないことを意味します。

無線LAN(802.11ac)のトランスミッタ(送信機)の技術要件と、変調方式別のEVMの規制値 (出典:テクトロニクス社 WiFi入門書)

無線LAN(802.11g)のコンスタレーションとEVM測定値

著者紹介

中塚修司(なかつか・しゅうじ)
テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア