標準装備の仮想化ソフトウェア「Hyper-V」

Windows 8に移行した場合に困るのが、古いアプリケーションや未対応デバイスの扱いである。デバイスドライバが提供されない周辺機器や、Windows 8の互換モードでは対応できないアプリケーションが存在するのは事実であり、下位互換性が100パーセント保持されているわけではない。そこで頼りになるのか仮想化ソフトウェアだが、ご存じのとおりWindows 7には、イメージ化したWindows XP Service Pack 3とWindows Virtual PCをセットにした「Windows XP Mode」が上位エディションに限り用意されていた。

しかし、Windows 8にWindows Virtual PCは用意されず、新たに「Hyper-V」という仮想化ソフトウェアを備えている。PC上に仮想マシンを作成し、ゲストOSをインストールするという基本的な使用目的に変わりはないが、実装した仮想化技術が異なっているのだ。Windows Virtual PCはホスト型と呼ばれる設計を用いており、あくまでもホストOSとなるWindows 7やWindows 8上で仮想化ソフトウェアを実行している。

一方のハイパーバイザ型は、ハードウェア上で直接起動するので「ネイティブ」や「ベアメタル」という呼称が用いられることも。こちらの場合はホスト型のようにホストOSへ割り当てるハードウェアリソースが軽減されるため、仮想マシン(およびゲストOS)のパフォーマンス向上が見込めるという利点を備えている。

ホストOS型とハイパーバイザ型の違い

一見すれば良いことずくめの話だが、Windows 8でHyper-Vを使用する場合、目の前のWindows 8も一つの仮想マシンとして動作するようになるため、わずかながらパフォーマンスが低下してしまう。また、Hyper-Vを使用できるのは64ビット版Windows 8 Pro/Enterpriseに限られ、PCのプロセッサもIntel-VTに代表されるハードウェア仮想化支援機能が必要。Intel EPTやAMD RVIなどゲストマシンのページング処理を高速化するSLAT(Second Level Address Translation)をサポートするプロセッサが欠かせない。

お使いのコンピュータによっては使用できない機能となるため、Hyper-Vを試してみたい方は事前に確認してほしい。OSのバージョンを確認するには、コントロールパネルなどから「システム」を起動し、「システムの種類」の説明を確認。こちらに「64ビット~」と記載されていれば、64ビット版Windows 8を使用中ということになる。

「システム」を起動し、「システムの種類」が「64ビット~」と記載されていれば、お使いのWindows 8は64ビット版である

プロセッサを確認するには、Sysinternalのツール「Coreinfo」をインストールし、「coreinfo -v」と実行することでチェック可能だ。また、OpenLibSys.org(ひよひよ氏)の「VirtualChecker 3.0」を使用すれば、一目で仮想化機能の状態を確認できる。

回復キーの保存先は従来のファイルや印刷以外に、Microsoftアカウントが新たに加わったSysinternalsのツール「Coreinfo」でプロセッサの機能を確認できる。「VMX」「EPT」に「*(アスタリスク)」が付いていれば、Hyper-Vは使用可能

「CrystalDiskMark」などで有名なひよひよ氏の「VirtualChecker 3.0」。画面はCore 2 Quadのマシンで実行しているため、SLATが未サポートとなる

Hyper-V上で作成する仮想マシンにWindows OSをはじめとする各種OSをインストールすることは可能だが、ポイントとなるのは、仮想マシンのポテンシャルを引き出す「統合サービス」。Windows XPをゲストOSとして選択した場合、多くのシステムコンポーネントが入れ替わり、ゲストOSが最適な状態で稼働するようになる。実機が備えるデバイスの専用ドライバをインストールするようなものだ。

Microsoftは、以前から統合サービスを、「Linux Integration Services」というソフトウェアをオープンソースベースで公開しているため、CentOS 5.2以降やRed Hat Enterprise Linux 5.2以降、そしてSUSE Linux Enterprise Server 10 Service Pack 4以降はサポート対象OSとして明示されている。また、同コードはLinuxカーネルにも取り込まれるようになったため、Linuxディストリビューションによって手順や操作内容は異なるものの、多くの場面で困ることはないだろう。

Hyper-VにWindows XPをインストールした状態。OS自体は問題なく動作している

こちらはUbuntu 12.04 LTSをインストールした状態。モジュールとしてLinux Integration Servicesが実装されているため、特段の作業を必要としない

問題は冒頭で述べた後方互換性である。Windows Virtual PCにはUSBパススルーという機能が備わっており、ホストマシンに接続したUSBデバイスをゲストOS上で使用可能にすることが可能だった。しかし、Windows 8 Proで使用するHyper-Vは、RemoteFXという複数の技術から成り立つ仮想化支援機能が用意されているものの、USBデバイスをリダイレクトするRemoteFX USBは未サポートなのである。

Windows Virtual PCには、USBパススルー機能が備わっていた

そもそもRemoteFXの各機能を使用するには、「リモートデスクトップ接続」でゲストOSに接続しなければならないが、RemoteFXを含むVDI enhancementsをサポートしているのは、Windows 8 Enterpriseのみ。具体的にどのUSBデバイスがRemoteFX USBでリダイレクションされるかは、MSDNの記事にまとめられているが、いずれにせよWindows Virtual PCのように古いデバイスを使用するのが主目的な場合、Hyper-Vはニーズを満たさないのである。

Windows 8 Proの「リモートデスクトップ接続」。ホストOSに接続したUSBデバイスが列挙されない

Windows 8 Enterpriseでは、グループポリシーを変更することで「その他のサポートされているRemoteFX USBデバイス」が選択可能になる

このように下位互換性目的の場合、Hyper-VではなくVMware Playerなど無償使用可能な仮想化ソフトウェアを選択するのが現時点でベストである。アプリケーションの導入を制限している企業も少なくないので、事前にシステム管理者への確認を忘れずに。下位互換環境を保持してほしい。

Windows 8を持ち運べる「Windows To Go」

普段から使用する環境を持ち運べれば、ノート型PCを持ち運ぶ必要はない。このような観点から生まれたのが、USBメモリなどのUSBストレージデバイスからWindows 8を起動可能にする「Winodws To Go」だ。Windows 8 Enterprise限定の機能で、Windows 8およびWindows 8 Proでは使用できない。同様の試みはサードウェアベンダーのソフトウェアでも見かけるが、Microsoft謹製の機能に安心感を覚える方も少なくないだろう。

セキュリティ面も考慮されており、BitLockerによる暗号化が選択できるため、USBデバイスを紛失した場合の情報漏えいも抑制できる。興味深いのはリムーバブルデバイスを対象としたキャッシュシステムだ。何らかの理由でUSBデバイスが取り外されても、一分間以内に再接続すればWindows 8は元通りに動作する。

実行にはWindows 8のインストールメディア(正しくは「\sources\install.wim 」)や32GB(ギガバイト)以上のUSBストレージ。今回は外付けUSB-HDDをUSB 3.0ポートに接続してみたが、「Windows 8のパフォーマンスに影響する」という警告メッセージが発せられた。このようにUSBデバイスであれば何でも良いわけでなく、MicrosoftもWindows To Goに対応するUSBメモリはKingstonの「DataTraveler Workspace」など、執筆時点で三種類しか認めていなかった

Windows To Goに使用するUSBデバイスは最低でも32GB以上でなければならない

古いHDDを使用しているせいか、USB 3.0経由で接続したUSB外付けHDDも警告メッセージが発せられた

最近ではセキュリティ強化に伴い、BYOD(Bring Your Own Device)が持てはやされる流れも出てきたが、それでも情報漏えいに過敏な企業は、いまだに私物PCの持ち込みを禁止しているケースも少なくない。Windows To GoによるWindows 8の環境が私物PCの対象となるかは、システム管理者次第だが、手軽なUSBデバイスで自身の環境を持ち運べるのは大きなメリットではないだろうか。

ただし、Windows 8 Enterpriseはソフトウェアアシュアランスのボリュームライセンス契約ユーザー向けエディションであるため、個人が購入するのは基本的に難しい。そのため、Windows To Goの利便性を享受するには、部署や会社全体でWindows 8の購入契約を見直す必要があるので注意してほしい。

最後に

この他にもWindows 8をビジネスシーンで使用することを踏まえると、ローカルリソースに依存することなく、SkyDriveやMicrosoft Office 365のMicrosoft Office Web Appsなどオンライン上で作業するシーンが増えていくことは明白だ。Microsoftアカウントやオンラインストレージとの連動を強化したWindows 8も、その傾向を強め、居場所や環境を問わないシームレスな作業を前提した機能が増えている。

Internet Explorer 10上で動作するMicrosoft Office Web Apps。ネットワーク帯域が十分であれば、安定したパフォーマンスで編集できる

確かにUI(ユーザーインタフェース)の刷新は、以前のWindows OSユーザーからすれば若干の混乱を招き、新OSへの移行を妨げているのは事実だ。しかし、数多くの機能やWindows Server 2012と連動した作業環境は、大幅に向上している。もちろん以前と同じ作業スタイルを保持するのであれば、Windows 7でも構わないが、BYODなどさまざまな場面で使用するPCのリプレースを模索している方や、より効率性を高めたい方は、Windows 8を選択肢の一つとして加えてほしい。