今回のテーマは「ユーザテスト」

Webサイトの利便性は、実際にユーザに使ってみてもらうまではわからないことが多々ある。サイトのコンセプト、仕組み、ビジネスモデルなどすべてを知っているサービス提供側にとってみれば当たり前と思っていることが、ユーザにはなかなか理解されなかったり、まったく異なる解釈をされる場合がある。

一般的な商品に比べて、オンラインの場合はユーザと対面する機会が少ない。そのため、ユーザの心情を知るのはなかなか難しい。だが逆にデジタルだからこその利点もある。データを収集して解析したり、推測を立てたりすることもできるようになる。今回はそうしたユーザテストに関するWebアプリケーション、オープンソース・ソフトウェア(OSS)を紹介したい。Webサイトのユーザビリティ改善にきっと役立つはずだ。

今回紹介するOSS・Webアプリ
UserTesting.com』 テスターを使って利用者の心情をチェック!
userfly』 Webサイト上の動きをトラッキング&再現
Infomaki』 NY公立図書館製のユーザビリティテストシステム
simple mouse tracking』 マウスの動き、クリックを記録する



テスターを使って利用者の心情をチェック!

名称 UserTesting.com
URL http://www.usertesting.com/

UserTesting.com』はテスター数を絞り込み、その代わり仔細なレポートを介して利用者の心情をつかみ取ることができるテストサービスだ。UserTesting.comでは何らかのタスクを与え(例えば、旅行サイトで予約してほしい、商品を購入してほしいなど)、そのタスクをこなす様子を動画に収めつつ、サマリーのレポートも合わせて提供する。動画では実際に何を考えつつ操作を行っているか、言葉で説明しながら操作してくれる。

トップページ。低価格でユーザビリティテストが実施できる

1人のテスターで29ドルから、20人のテスターで561ドルとテスターの数も幅広く設定でき、かつ安いところが特徴だ。性別/ 年齢/ 年収/ ITリテラシーなども細かく指定可能。テストをシステム化すれば、無数のデータを収集できるだろうが、その中から意味のあるデータを吸い上げるには技術が必要だ。その一方、UserTesting.comであれば意味のあるテスト結果が得やすいのではないだろうか。

指定されたタスクを行っている様子の動画




Webサイト上の動きをトラッキング&再現

名称 userfly
URL http://userfly.com/

userfly』は指定されたスクリプトタグをWebサイトに埋め込むことで、訪問者がどのような操作を行うかトラッキングしてくれるWebサイトだ。対象サイト上で入力している様子や画面遷移を、逐次目の前で操作しているかのように再生することができる。Ajaxに対応し、キーボードの入力もそのままに再現してくれる。

トップページ。登録は無料で、測定したいデータ数によって料金が変わる(月10回の測定であれば無料)

userflyは単純化されたナビゲーションに向いていそうだ。例えば広告をクリックした後のランディングページでの操作で、どこを重点的に見、どのような操作で成果のページに至ったか(または諦めたか)が分かるようになる。そうしたデータがあれば改善につなげることができそうだ。

クリックした様子などをそのまま再生できる

目の前でマウスが動く様子が見られると、まるで誰かの操作を背後から覗き込んでいるかのような気分になる。そう思えば訪問者がどこで迷っているか、何を考えて操作をしているか、如実に分かってくるのではないだろうか。




NY公立図書館製のユーザビリティテストシステム

名称 Infomaki
URL https://sourceforge.net/projects/infomaki/

Infomaki』は、NYPL(ニューヨーク公立図書館)が開発したユーザビリティテストを行なうためのオープンソース・ソフトウェアで、Webサイトの訪問者に対して二つの質問が行えるようになってる。回答は任意であり、答えたくない場合はすぐにNYPLのWebサイトに飛ぶことができる。一つはアンケートに答えるもので、一つは画像を見てクリックで答えるというものだ。

画像をクリックした場所を投影して表示する

アンケートは質問や回答を自分であらかじめ設定するが、答える人が自分で回答を追加することもできる。画像を見て回答するものは、回答者のクリックした場所が画像に投影されて見られるようになっている。これにより、デザインの配置や、はじめに見た場所など訪問者がどこに注目しているかを知ることができるようになる。

アンケートフォーム

InfomakiはRuby on Railsで作られており、アンケートの作成や結果の閲覧もすべてWebブラウザ上で行なえる。利用者の声を聞き、サービスの改善に反映させる良い仕組みだ。




マウスの動き、クリックを記録する

名称 simple mouse tracking
URL http://smt.speedzinemedia.com/smt/

simple mouse tracking』はJavaScriptのタグを埋め込み、マウスの動きをトラッキングするソフトウェアだ。測定されたデータは管理ページで閲覧可能で、実際のマウス操作を再現することができる。Webサイト上にレイヤーを配置し、その上を線を描くようにしてマウスの軌跡が描かれていく。また、クリックした部分はマルが表示されるのでわかりやすい。

管理画面。行った操作やブラウザの種類などが測定できる

入力内容などはわからないが、Webサイトの場合はキーボードの入力ではなくマウス操作による移動のほうが割合が多い。また、目で読みながらもマウスで文字を反転させたり、マウスを動かしていたりする人も多い。そう考えるとユーザの思考が直感的に現れている様子が見えるようになるかもしれない。

マウスの軌跡。時間が経過するごとに描かれていく

なお、すべてのWebブラウザで動作するわけではないので注意しよう。初期設定ではランダムに対象者を指定してトラッキングを有効化している。

いかがでしたか?

ユーザテストはその目的によって、行なわれる方法がいくつかに分かれる。またテストによっては取れるデータ、取れないデータが存在する。そのため複数のテストを組み合わせたり、目的に応じて選択したりする必要がある。公開前のWebサイトか否かによっても大きく分かれるだろう。

不特定多数か、または特定の少人数か、マウスだけでよいのか入力データも必要なのか、よりヒューマニズムに即したデータが欲しいのか……要望に応じてテストツールを使い分けてみてほしい。いずれにせよ今回紹介したツールはWebサイト提供側とはまた違う、機械的でもない新しいユーザ視点によるテスト結果を見せてくれるはずだ。

著者プロフィール:MOONGIFT 中津川 篤司(なかつがわ あつし)

1978年生まれ。オープンソース紹介サイト「MOONGIFT」管理人。プログラマ、SE、ITマネージャを経て、オープンソースのビジネス活用を推進する。現在は独立し、Webサービスのコンサルティング、プロデュースを行う。