今回のテーマは「ローカルとインターネット」

Webアプリケーションの利点は何だろうか。まずブラウザだけで動くというのが大きい。専用アプリケーションをインストールする必要なく、データを操作できる。また、それにともなってプラットフォームの依存性が低いことが利点だ。Windows、MacOS、LinuxなどのOSではなく、Internet ExplorerやFirefoxなどのブラウザ依存になるが、こちらは共通ライブラリやブラウザのバージョンが上がるにつれて徐々に互換性が高まっている。

ほかにも、インターネット上にデータを保存するので、どこでもデータの閲覧、編集ができるようになったというのもいい。同時に複数人で編集できるという利点もある。これにより、オフィスと自宅、さらにインターネットカフェでの利用や、遠隔地の人たちを交えたコラボレートがのぞめるようになる。

逆に不便な点はなんだろう。いくつか細かい点はあるだろうが、大きな問題は二つだと思う。一つはインターネット接続が必須である点。もう一つはブラウザならではの操作性の悪さだ。インターネット接続に関してはGoogle Gearsをはじめとするオフラインでも操作できるようにするソフトウェアがあるが、まだ一般的ではない。後者についてはAjaxやJavaScriptを活用することで通常のサイトに比べれば操作性はよくなるが、それでもローカルアプリケーションに比べると面倒に感じることは多い。この問題が、ローカルからWebアプリケーションへシフトする際にネックになるケースは多いと思う。

今回はオンラインドキュメントサービスの紹介と、上記に挙げた問題点を解決しうるソフトウェアの紹介だ。うまく利用すれば、ローカルとインターネットをつなぎ、これからのコンピュータ活用の形が見えてくるかもしれない。

今回紹介するOSS・Webアプリ
Googleドキュメント』 ワープロ/表計算/プレゼンが揃ったWebオフィスアプリ
Zoho』 Googleドキュメントにない機能も備えた高機能Webオフィスアプリ
Zoho Plug-In for MS Office』 「Zoho Writer/Sheet」と同期するMS Officeツールバー
DocSyncer』 ローカルドキュメントをGoogleドキュメントにアップロードする常駐ソフト



Google製のドキュメント作成アプリケーション

名称 Googleドキュメント
URL https://docs.google.com/

恐らく使ったことがある人も多いはずだ。『Googleドキュメント』は文書(ワードプロセッサ)、スプレッシード(表計算)、そしてプレゼンテーションの3つのWebアプリケーションを提供している。Ajaxを使った操作性は非常に良く、ほとんどローカルアプリケーションと変わらない。作成したドキュメントはメールアドレスを使って簡単に共有することができる。

「Googleドキュメント」トップページ。文書、スプレッシード、プレゼンテーションそれぞれ作成、管理できる

「Googleドキュメント」のプレゼンテーション。PPTファイルのインポートも可能

職場でもっとも使われているであろう表計算ソフトウェアは、グラフなどを使った簡易的なものであればスプレッシードで十分こなせる。文書も同様だ。だが、個々人で使う分にはGoogleドキュメントの便利さは半分程度しか享受できない。やはり他の人と共有したり公開したりするところに面白さがある。例えば、今まではドキュメントを作成してメールで送って確認を求めるといった作業も、共有機能を利用することによって、問題点の指摘や編集を直接行ってもらうことができる。生産性が大幅に高まるのは間違いない。

更新履歴を残す機能もあるので、間違った編集をしてもすぐに元にもどすことができる。同様にある時点での状態どうしの差分を見ることもできる。一つのドキュメントを複数人で同時に編集する可能性があるので、こうした履歴機能も便利だ。

筆者自身、人に渡すような文書はGoogleドキュメント上で作成し、連絡するようにしている。一度使うと手放せなくWebアプリケーションだ。




オフラインモードにも対応したWebドキュメント作成サービス

名称 Zoho
URL http://www.zoho.jp/

『Zoho』は知名度こそGoogleには及ばないものの、機能と利便性は非常に高いWebアプリケーションを提供している。Googleドキュメントと比較すると、「Zoho Writer(ワードプロセッサ)」「Zoho Sheet(表計算)」「Zoho Show(プレゼンテーション)」とそれぞれに対応するサービスを提供している。他にも「Zoho Notebook」「Zoho Business」「Zoho Wiki」「Zoho Mail」など多数のWebアプリケーションがある。

「Zoho Writer(ワードプロセッサ)」。多機能かつ優れた操作性がウリだ

「Zoho Show(プレゼンテーション)」。多数のシンボルがあるなど、Googleドキュメントに決して劣らない

プレゼンテーション機能のZoho ShowでWeb APIが提供されていたり、Zoho WriterはGoogle Gearsに対応してオフラインモードが利用可能、Zoho SheetはGoogleドキュメント以上にグラフの細かな指定ができたりするなど、Googleドキュメントにはない機能も多数実装されている。特にオフラインモードは最初に挙げた問題点の一つである、インターネット接続の必須性を超えることができるので要注目だ。

各Webアプリケーションの完成度は高く、操作性も良い。Googleドキュメント同様、こちらも見逃せないサービスだ。




ZohoとMicrosoft Officeをつなぐ

名称 Zoho Plug-In for MS Office
URL http://writer.zoho.com/public/help/zohoplugin/fullpage

Zohoに興味を持たれたなら、これを使わない手はないというソフトウェアがこちら。

『Zoho Plug-In for MS Office』はその名の通り、Zohoのサービス、Zoho WriterとZoho Sheetを「Microsoft Office」と連携させるソフトウェアだ。Zohoが提供しているソフトウェアなので、サービスの安全性は高いといえる。とはいえ、日本語の扱いについては若干の難があり、日本語のファイル名やZoho Sheetの連携はまだ完璧ではない。

「Zoho Plug-In for MS Office」のファイル選択ウィンドウ。Zoho上のファイルが一覧できる

Excelの画面。ツールバーにZoho用のメニューが追加されている。ここからファイルの選択、保存(失敗するが)が可能

インストールすると、Microsoft Word / Excelに専用ツールバーが追加される。これをクリックするとZoho上のデータにアクセスできるようになる。Open Zoho Writer(Sheet)をクリックすれば、Zohoのサイトにアクセスせずとも、Zoho上にあるファイルを一覧でき、Microsoft Officeで開くことができる。保存も同様にツールバーからSave in Zoho Writerを選べば良い。なお、Zoho Sheetでは保存やドキュメントの追加に失敗してしまった。

ドキュメントの編集には使い慣れたMicrosoft Officeを使い、コラボレーションはインターネット上でできるというのはとても便利だ。ローカルの良さ、Webアプリケーションの良さの両方を感じられることだろう。




ローカルオフィスドキュメントとGoogleドキュメントをつなぐ

名称 DocSyncer
URL https://www.docsyncer.com/

『DocSyncer』はMicrosoft Officeと連携するわけではない。ローカルPC上に常駐し、ローカルプロファイルにあるオフィスドキュメントをGoogleドキュメントにアップロードする。そして、ドキュメントを編集すると自動でアップロードし、Googleドキュメントと同期をとってくれる。個人的にはこのDocSyncerが最も便利に感じている。

対応しているファイル形式はMicrosoft Office系の.doc/.xlsをはじめ、最近の更新で.docx/.xlsx/.ppt/.pptx/.pps/.ppsxなどもサポート。また、 「OpenOffice.org」系の.odt/.ods、テキストファイル、RTF、HTMLそしてCSVファイルもアップロード対象として選択できるようになった。

「DocSyncer」の画面。ローカル上のファイルがアップロードされ、DocSyncer上に表示されている

バージョン一覧。ここから選択して過去のバージョンをダウンロードすることもできる

自動で同期してくれるというのは非常に便利だ。現状はβ版とあって、同期には時間がかかるが、ローカルで編集したドキュメントが常にバックアップされているような感覚で使えて良い。最新版ではDocSyncerのサイトからローカルアプリケーションでファイルを開くこともできる。オフィス文書の管理ツールとしての役割も担えそうだ。編集したファイルは以前のバージョンを取り出してダウンロードすることもできる。

ファイルを操作するアプリケーションを問わないというのが便利な点だ。編集ソフトウェアはOpenOffice.orgであっても、Microsoft Officeであってもかまわない。ファイルの更新を検知して自動でアップロードしてくれるので、外出先や自宅でも最新版を確認できるようになる。いちいちメールで送ったり、USBメモリに入れたりする必要もない。

残念なのはローカルからGoogleドキュメントへのアップロードが行えても、その逆の流れがない点だ。その点は今後に期待というところだろう。また、現状はベータ版であり、メールアドレスを登録して連絡を待つ形式になっている。気になる方は早々に登録しておくことをオススメする。

いかがでしたか?

今回紹介したソフトウェアの他にも、先日別記事でレビューした オープンソース・ソフトウェア「OOO2GD」によるOpenOffice.orgとGoogleドキュメントの連携という選択もある。いずれにせよ、インターネットとローカルとではそれぞれ利点、欠点が存在する。どちらかに傾倒するのではなく、うまく連携させたり、欠点を補う利用法を考えれば、現状以上の生産性が得られるはずだ。

著者プロフィール
MOONGIFT 中津川 篤司(なかつがわ あつし)
1978年生まれ。オープンソース紹介サイト「MOONGIFT」管理人。プログラマ、SE、ITマネージャを経て、オープンソースのビジネス活用を推進する。現在は独立し、Webサービスのコンサルティング、プロデュースを行う。