これまで見てきたように、Webアクセシビリティは、今や障がい者への特別対応を表すものではなく、多くのユーザーにとってメリットがあるものです。また、取り組む理由としても、マルチデバイス対応や、グローバル進出に向けた対応など、様々な内容を含んでいることがわかります。

執筆者紹介:

サイボウズ株式会社 小林大輔
同社プログラマーとして、Webサービス「kintone」の開発を行う傍ら、社内外に向けて「Webアクセシビリティ」に関する啓発活動を行っている。

取り組む理由を「翻訳」しよう

このような中で、組織がWebアクセシビリティに取り組むときに必要なことは、対応の理由を組織の言葉に「翻訳」することです。組織が達成したい理想とWebアクセシビリティとの関係を考え、理想の達成のためにWebアクセシビリティが果たす役割を示すことで、はじめて組織として取り組む理由を理解できると考えています。

■例1:サイボウズ
サイボウズは、グループウェアの開発を通して「チームワークあふれる社会」の実現を目指しています。サイボウズでは、Webアクセシビリティを、「ユーザーがチームにアクセスする能力」だと定義しています。チームワークあふれる社会を目指すため、Webアクセシビリティを確保することは、チームに参加したいと願うユーザーの意志を尊重することだと捉えています。

■例2:ヤフー
ヤフーは、世の中の課題をITで解決する「課題解決エンジン」でありたいと考えています。年齢、障がいの有無、利用している機器や環境等に関係なく、すべてのユーザの課題を解決するために、Webアクセシビリティに取り組むことが必要だと考えています。

ユーザーが本当にアクセスしたいものを考えよう

Webアクセシビリティに取り組む理由を、組織の言葉に「翻訳」するために、大切な問いかけがあります。それは「ユーザーは、わたしたちのサービスにアクセスすることで、何にアクセスしているのか」というものです。

ユーザーにとって、サービスへアクセスすることは、目的を達成するための手段にすぎません。本当にアクセスしたい対象はその先にあります。サイボウズの例であれば、チームにアクセスすることを目的に、ヤフーの例であれば、自らが抱えている課題の解決策にアクセスすることを目的に、ユーザーはサービスを使っています。

「本当にアクセスしたいもの」はサービスごとに異なり、それはサービスの目的や価値を表すものです。みなさんのユーザーが本当にアクセスしたいものを考えることが、Webアクセシビリティに対して組織から共感を得るために何より大切なことだと、筆者は考えています。

今回で連載は終了となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。