【コラム】

愉しみを数ボルト

2 パワーMOS-FETを使おう

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ニキシー管を点灯させるには150~170Vくらいの高電圧が要る。12Vから高電圧を得るにはコイルに流す電流をオン・オフすれば良い。そういう用途(DC-DCコンバーター用)のICを使えば簡単……だが耐圧が足らないぞ、どうしよう?

というのが前回のストーリー。今回のお題はパワーMOS-FETである。

高耐圧のパワーMOS-FETを使う

DC-DCコンバーター用IC、NJM2360(≒モトローラ/オン・セミコンダクターMC34063A)に内蔵されているスイッチング用トランジスタは耐圧が40Vしかないので、150~170V程度がほしい今回の用途には使えない……わけではない。内蔵スイッチングトランジスタに、もっと耐圧が高いスイッチング素子 -- パワートランジスタやパワーMOS-FETを外付けして、そいつでスイッチングさせてやればいいのだ。高耐圧のパワートランジスタより現在はパワーMOS-FETの方が入手が容易なので、パワーMOS-FETを使うことにしよう。

MOS-FETは、現在のCPUやらLSIやらの内部で使われる、とてもポピュラーなトランジスタの一種だ。CPUやらLSIやらでは中に入っているから単体のMOS-FETがどんなものなのか知らない人もいるかもしれないが、3つの端子 -- ドレイン、ゲート、ソースという端子を持つ電子デバイスである。

図1 これがMOS-FETの回路記号(N-チャンネル)

MOS-FETはゲートに電圧をかけるとドレイン-ソース間に電流が流れる素子である。ゲート電圧でもってドレイン-ソースの間をオン・オフできるスイッチと考えればいい。

ところで、電子工作に入門したばかりの頃は、この「電圧」というのが簡単なようで誤解しやすいポイントになるようだ。電圧は「点間の電位差」のことで「絶対的な電圧」は存在しないことに注意しよう。

回路図などにはグランド(GND≒アース)記号が出てくる。これを文字通り大地(グランド、アース)と解釈すると、誤解の元になりやすい。一般に電子回路のグランドは「回路中の電位を決める基準のひとつ」みたいなもので、大地とつながっているわけではないし、神様が決めた絶対的な基準でもない。

話は飛ぶが、電力会社が供給している電気は、文字通り大地をゼロボルト基準に使って送電している。だから、大地に立った状態でホット側(交流だからホット側、コールド側という言い方をする)を触るとビビビと感電してしまう。これが、もし仮に大地基準でなければ仮にホット側だけに触れても感電することはない。

※ご注意: 家庭のコンセントは一般に、2口の端子のうち長い側がコールド側とされていますが、場合によってはホット側、コールド側が逆に配線されていることもありますので、むやみに直接触れないようご注意ください。

普通、コンセントの電圧はトランスで降圧して電子回路で使う。トランスは2つのコイルが磁気的に結合しているだけで、電気的には1次側コイル(コンセント側)と2次側コイル(電子回路側)はつながっていない。したがって、2次側より後ろの回路は大地基準の電圧ではないから、2次側より後ろなら、ホット側あるいは直流のプラス側だけに触れても感電することはないわけだ。

さて、話を元に戻すと、MOS-FETのゲート電圧はソース電圧を基準にした電圧だ。ゲート-ソースの間の電圧でもってドレイン-ソースの間の電流がオン・オフするのである。

パワーMOS-FET 2SK3530

図2 2SK3530のVgs - Id特性

図2は2SK3530というパワーMOS-FET(ドレイン-ソース間耐圧800V)のゲート電圧(VGS)に対するドレイン電流(ID)の変化を表すグラフだ。横軸がVGS、縦軸がIDである。

グラフを一瞥すれば分かるように、VGSが約4.8Vを超えるとIDが流れ出し、あとはVGSに比例して(というほど直線ではないが)IDが大きくなる特性を持っている。

またまた話は飛ぶが、この4.8Vというのが電流の流れ出す閾値=スレッショルド(Vth)という奴で、CPU関連で一時期、とても話題になったアレである。一般に高耐圧のパワーMOS-FETほどVthは高い電圧になり、この耐圧800VのMOS-FETでは5V近くのゲート電圧を与えなければオンにならないわけだ。

ちなみに、この5Vはデジタル回路の一般的なオンの電圧だから(今回のDC-DCコンバーターでは専用ICを使うので余り関係ないが)5Vでオンできるかどうかは割と重要なポイントになっている。2SK3530はスペック的に微妙(というのは、スレッショルドはVDS(ドレイン-ソース間電圧)や温度条件で上下するので)だが、まあ何とかデジタル回路に直結して高電圧(もしくはある程度の大電流)をオン・オフできないことはなさそうな特性を持つFETといって良さそうだ。

ゲート容量と戦う

要するに、このパワーMOS-FETのゲートを0V~5Vくらい -- 今回はドドンとオン・オフさせればいいので6Vとか7Vとかくらい -- で振幅させてやれば、高電圧が出力できるDC-DCコンバーターができあがる、というわけである。

図3 DC-DCコンバーター回路図(クリックでPDFファイルをダウンロードできます)

筆者がアレコレ無い知恵絞ってたどり着いたのが図3のような回路だ。回路図中MC34063Aとなっているのが前回に紹介したICで、そのピンアサインを参照しつつ眺めてもらえば、だいたい分かるだろうと思う。

この回路の出力電圧はICの5番ピンに戻す電圧を決めるR5とR6の比率で決まる。前回のブロック図で示したように、5番ピンと比較される基準電圧は1.25Vだから、出力電圧は次のようになる。

出力電圧=R5÷R6×1.25+1.25

回路図の定数だと、だいたい166Vくらいになるわけだ。R5とR6の比率を適当に変えれば任意の出力電圧に設定できる。ただし、R5とR6にだいたい1~1.5mAくらいの電流が流れる抵抗値を選択したほうがいいだろう。

ICの1番ピン/8番ピン-2番ピンの間が内蔵スイッチングトランジスタで、この定数でオン時だいたい7mA程度の電流が流れる。抵抗(R4)が1kΩだから、2番ピンの電圧は(オームの法則から)オン時7V程度になるわけだ。この電圧でもってパワーMOS-FETのゲートをオンさせてやればドドンと電流が流れるスイッチングができる仕掛けである。

一見して良く分からないのはICの2番ピンとゲートの間にあるトランジスタQ1だろう。実は、このトランジスタがキモになる(というほどでもないが…)。

CPUの解説やなんかでも触れられることもあるので、ご存じの読者も多いだろうが、MOS-FETのゲートはドレイン-ソース間とは絶縁されている。したがって、ゲートはコンデンサの一種(ゲート容量とか入力容量という)にもなり、こいつが実はやっかいだ。

パワーMOS-FETのような、高電圧、大電流に耐えるMOS-FETは特にゲート容量が大きく、1,000pF(ピコファラッド)以上、数千pFくらいのものもある。チョイスした2SK3530は、このクラスのFETとしては割とゲート容量が小さい方だが、それでも(今回の使用条件で)750pFくらいの容量はある。

ゲート=コンデンサだから、ゲートに電圧を与えても、コンデンサに電荷が貯まるまで「じわり」と実際の電圧は上昇する。もっとも、電圧を与える側の電流供給能力が大きければ、それだけ素早く電荷が蓄積されるから電圧も素早く上がる。今回の回路では駆動側に7mAも流しているのでオンはそこそこ早い。

問題は、どちらかというとオフ時だ。ゲート電圧を落としても、コンデンサから電荷が抜けるまで、ジワリと実際の電圧が落ちるのである。オン→オフの切り替えに時間がかかると言い換えてもいいが、これが困るのだ。コイルの電流のオン・オフがスパスパと素早く行われるほど効率よく高電圧が得られるからで、逆に素早く切り替えられないと、その分の電流は無駄になる。無駄になった電流は熱に変わって大気に放出されるわけで、何の役にも立たないばかりか地球環境によろしくない。

そこで登場するのがQ1である。このトランジスタはPNP型で、簡単に言うとN型とは逆の動きをすると考えてほしい。要するに、オンになったときオフに、オフになったときオンになるのだ。

するとどうなるか? ICの2番ピンが7Vくらいになる(=オンになる)とQ1はオフになりFETのゲートに電圧がかかる。ICの2番ピンが0Vになる(=オフになる)とQ1はオンになるので、ゲートに貯まった電荷はQ1を通って0V(GND)に流れ落ちる。このQ1のおかげでオフが素早く行えるわけで、電力の無駄を減らし、ひいては発熱を減らすという、有り難い働きをしてくれるわけだ。

ところで、またまた話は飛ぶが、このゲート容量はMOS-FETの宿命で、CPUのクロックとも結構、関係していたりする。「プロセスが微細になると高クロックで動作させられる」という(今は熱のせいでやや崩れ気味の)常識は、ゲートが小さくなればゲート容量が小さくなり、それだけ容易に素早くオン・オフできるから、というのが理由のひとつだ。CPUの解説記事を読んで納得するのも悪くはないが、MOS-FETに触れてみてゲート容量のやっかいさを実体験すると。CPUの解説もわかりやすくなるだろう。超ローテクな素人電子工作でも、最新CPU事情に通じるところがあるのだ、という良い例かもしれない?

DC-DCコンバーターはだいたい完成

前回掲載した写真は、図2を実際にブレッドボードという器具を使って組み立てて動作試験をしている様子で、だいたい計算通りの高電圧が得られていた。図3はFETのゲートをオシロスコープで見た様子だ。1目盛り2V(2V/div)なので、オン時6V強になっていた。

図3 実際に組み立てたDC-DCコンバーターのゲート電圧の振幅の様子

というわけで次回は、DC-DCコンバーター基板を作る工程を紹介するつもりだ。

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インデックス

連載目次
第16回 USB接続の液晶ディスプレイを自作する(2)
第15回 USB接続の液晶ディスプレイを自作する(1)
第14回 USBニキシーボードに温度計機能をつける
第13回 USBニキシーボードを温度計に拡張する(2)
第12回 USBニキシーボードを温度計に拡張する(1)
第11回 ニキシー表示ボードからパソコンへのデータ送信
第10回 ニキシー5インチベイユニットを作ろう
第9回 ニキシー表示ボードのUSBデバイス化 - 基本ソフト編
第8回 ニキシー表示ボードのUSBデバイス化 - 回路/デバイス編
第7回 H8Tinyを使おう - マイコンプログラミング超入門
第6回 H8Tinyを使おう - プログラミング編
第5回 H8Tinyを使おう - 準備編
第4回 ニキシー管ドライブ回路を考える
第3回 写真で見る素人基板作り
第2回 パワーMOS-FETを使おう
第1回 ニキシー管って何だ?

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