【コラム】

愉しみを数ボルト

1 ニキシー管って何だ?

 
  • <<
  • <

1/16

先日、ちょっと面白い物を手に入れた。すでに絶滅したデバイス「ニキシー管」だ。ずいぶん前から一部に人気があったようで「何を今さらニキシー管なんて」という読者もいようかとは思うが、点灯する様子をしげしげと眺めていると、これがなかかなかいいのである。あまりにもいい感じなので、こいつをネタに、たまには真面目に工作をしてみようじゃないかという気になりだした。

ニキシー管は表示デバイスの一種で、文字を表示する素子である。文字の表示といえば、液晶やLEDが定番。カーステレオや、ビデオデッキの少し古い型、そして古めの電卓などでは、青白く(あるいは白、緑色などもある)光る蛍光表示管(VFD)という表示デバイスも利用されている。

ニキシー管というのは、これら今をときめく花形表示デバイスより前、だいたい1960年代くらいに盛んに使われていた、いわば絶滅電子デバイスだ。実物を見たことがある人もいるだろうし、これが初見という人もいるだろう。

これが手に入れたニキシー管を側面から見た様子。ニキシー管としては、かなり小型だ。側面に印刷されているのは……なんと旧ソヴィエト連邦のCCCPマークなのだ

正面から見た中の構造。数字の形をした電極が積み重なっているのが見える。実にローテクなデバイスだ。

点灯している様子。手書き風の文字が、現代の機器の味気ない7セグメント方式の数字表示にはない風情をかもしだしている(ようないないような……)

ニキシー管は、ガラス管の内部に表示する文字(普通は数字)の形をした電極があり、その電極が放電により光ることで文字を表示する。数字表示用なら中に0~9まで、数字の形に曲げられた電極があって、それが光るわけだ(だから10個の電極を収めるために少し縦長)。

こういう仕組みだから、ご想像通り自由に文字を表示することはできない。数字用なら数字だけ。その他に英文字や記号を表示するニキシー管も当時は使われていたようだが、主として数字の表示に使われることが多かったらしい。

ニキシー管を直接的に絶滅に追い込んだのは7セグメントLEDで、7個のLEDで数字を表示する(おそらく読者も見たことがあるだろう)あれである。7セグLED以降、数字の表示は、液晶でも何でも7セグ方式が一般的になった。

7セグの数字は別に視認性が悪いわけではないし、7個のLEDや液晶のセグメントをオンオフすることで0~9の数字が表示できるのだから合理的ではある(ニキシー管は0~9まで10個の電極をオンオフしなければならない)。また、7セグで数字以外の一部の文字(b、d、Pなど)を表示させられるのも、それなりに便利なこともある。

しかし……なにかこう、情緒というものが感じられない。いかにも「機械が表示してますよ」的な数字になってしまうのが寂しい。

その点、ニキシー管の電極は針金細工だから、表示される文字の形は極めて手書き文字に近い。そんな手書きっぽい文字が放電でフワリと光るのだから、情緒たっぷり(?)なのである。昨今の機器にはない温かさを感じさせる表示……これがニキシー管の人気の秘密なのだろう(と、現物を手に入れた筆者は納得したのだった)。

絶滅デバイス、ニキシー管をPCに組み込んだら面白そうだ。あるいは時計や温度計を作ってみるとか(実のところ数字しか表示できないので作れる物は限られているのだが)。当然いまどきニキシー管を使う機器などない。したがって、ニキシー管の情緒を楽しみたいならニキシー管を使った機器を自分で作るしかない。「やってみるか」という気になった。

この連載の目指すモノ

連載ののっけからニキシー管でやってみるか、では何がなにやらわからないと思うので、この連載で何をやっていこうとしてるのか、どのように進行するのかを、ここで説明しておきたいと思う。

当面の目標はニキシー管で実用オモチャを作ることである。次のようなモノを予定している。

USB接続のPC用ニキシー管表示パネル

USBでPCに接続して任意の数字が表示できるパネルを自作してみる。5インチベイあたりに収容すると格好がいいに違いない。表示させる数字は何でもいいのだが、たとえば筐体内温度とか、CPUの動作クロックの表示(SpeedStepやCool'n Quiet対応のPCでなら表示がパラパラ変わって楽しめるだろう)あたりを試すつもりだ。

ニキシー時計

定番といえば定番だがニキシー管を使ったスタンドアロンの時計を作ってみる。付加機能として温度計やアラームなんかも考えてはいるが、今のところ、時計に実装する機能は未定である。

これらのオモチャを作るために、連載では組み込み用マイコンの使い方からプログラミング、そして簡単な電子回路の設計など、自作に必要なキーポイントに説明を加えていくつもりだ。ちょっと敷居は高いかもしれないが、昨今の「パソコンの自作」にいまひとつもの足らなさを感じている人、基板の組み合わせに終始するではなく一歩先に進みたいと考える人が楽しめる連載にしたいと考えている(のだが、どうなることやら……)。

ニキシー管を点灯させるには - 昇圧型DC-DCコンバーター

いずれにしても、まずはニキシー管を点灯させてやらなければお話にならない。点灯のさせかたから検討していくことにしよう。

筆者が入手したニキシー管はロシア製ミニニキシー「IN-17」というタイプ(実際にはИН-17という型番。IN-17は英字表記)。

やや余談めいた話になるが、ロシアは絶滅デバイスの宝庫だ。ソヴィエト時代、半導体技術の発展が西側より後れたため、西側では廃れたデバイスがソヴィエト崩壊頃まで製造されていた。たとえば、真空管はいまでもロシアで主としてオーディオやギターアンプ向けに製造が続いている(意外に人気があり産業として定着したようだ)。

そんなロシアでも、流石にニキシー管の需要はなくなっていると見えて、現在は製造は行われていないらしい。筆者が入手したIN-17の製造年月日はまちまちで、中にはソヴィエト連邦時代のものも含まれていた(これを製造した国営工場の労働者は当時、給料をもらってなかったんだろうなあ、とか思いを馳せられるのもニキシー管の楽しいところかもしれない)。

さて、説明したように、ニキシー管は放電管だから、点灯のためには相応の高電圧が必要になる(そんな使いにくさも絶滅した要因だろう)。IN-17の場合、150~170V程度の高電圧が必要だ。これが最初の難問である。

PCにニキシー管を組み込むとすると、PCの内部で取れる電圧は5Vか12V(HDD等に使われるポピュラーな4Pコネクタに来ている電圧)。とても170Vには足らない。低電圧を高電圧に変える「昇圧型DC-DCコンバーター」が必要だ。DC-DCコンバーターは売り物もあり、それを買ってきた方が手っ取り早いのだが、それじゃ勉強にならないので、DC-DCコンバーターを自力で設計してみることにする。

ご存じのようにAC(交流)なら簡単に、トランス1個で昇圧できる。DC(直流)を昇圧するのはACよりも面倒だが、かといって不可能というほど面倒じゃあない。すぐに思いつくのは次の2つの方法だ。

1.トランス昇圧を使う

トランスは巻き線比率に応じてACの電圧を上げ下げできる。そこで、適当な周波数で発信する回路を作り、その出力をトランスで昇圧、整流 - 平滑して高いDC電圧を得る手がある。

DC12Vを使うとすると、普通の方法では頑張っても発振回路の出力はピークからピークで12Vを超えられない。普通の方法では電源電圧を超える振幅を得るのは無理だからである。大ざっぱに見積もって、実際には10Vもいけば良い方だろう。ACとしての波高値は、その半分だから5Vと見積もり、これを170Vまで引き上げるのだから、巻き線比率1:34程度のトランスを使えばだいたい良さそうだ、と分かる。

言うのは優しいが、1:34程度の巻き線比率のトランスを手に入れるのが意外に難しいかもしれない。たとえば、そこらで売っている(入手しやすい)AC100V入力-AC6.3V出力のトランスの巻き線比率は約15:1くらい。逆方向に使っても、ぜんぜん足らない。

ちなみに、ニキシー管には1本あたり約2mA程度の電流を流す。したがって、仮に4桁表示のボードを作るとすると8mA。電流としてわずかなものだ。この程度の電流/消費電力なら小型音声用トランスの流用も検討できそうだが、トランスを選んだり探したりするのが面倒などでこの案は没とする。

2.チョッパ型DC-DCコンバーター

特殊な部品は使わず、なおかつ簡単に170Vを手に入れるとすると、チョッパ型のDC-DCコンバーターが最適だろう。チョッパ型DC-DCコンバーターは昇圧、降圧の双方があり、降圧の方は、PCマザーボード上のレギュレーター(12VからCPUのコア電圧を作るものとか)などでも基本原理が使われている。ニキシー管のためにチョッパ型DC-DCコンバーターを設計すれば、マザーボードのレギュレーターの基本原理も学べるのだから一石二鳥である。

今回は昇圧型だから、先に昇圧の方法を簡単に説明してしまおう。

図1 チョッパ型DC-DCコンバーター(昇圧)

基本原理はコイル、電池(電源)、スイッチ、ダイオード、コンデンサで構成された実にシンプルなもの。図中の抵抗RLは、負荷(本稿の場合ならニキシー管)とその周辺回路の代用品で、電気を流す物くらいの意味だ。

図中のスイッチをオンにすると、赤い線のように電気が流れる。このとき、コイルには磁気が生じることは分かるだろう。言い換えるとコイルは磁気の形で流れた電気のエネルギーを溜め込むのだ。

コイル……磁気の力でエネルギーを蓄積できる不思議な(?)部品

そしてスイッチをオフにする。すると、コイルにためられた磁気は電気となってコイルから流れ出す。このときの電圧は、コイルのインダクタンス、コイルに流した電流の大きさ、電気を流した時間に比例する。要するに、コイルのインダクタンスや電気を流す時間(=スイッチをオンにしておく時間)を適切に調節すれば、理論的にはいくらでも高い電圧が得られる仕掛けだ。

コイルから出た電気はダイオードで整流され、コンデンサに貯まる。コンデンサはスイッチがオンの時にも負荷に電流を流す役割を持っている。こうして、スイッチのオン・オフを繰り返せば高電圧のDCが得られることになり、めでたくニキシー管が点灯するわけだ。

ただし、当然ながら、この回路図は原理を示しているだけで実際はこういう風にはならない。スイッチを手でオンオフさせるのは不可能だから、スイッチはトランジスタ(実際にはMOS-FETを使う)に置き換え、トランジスタに発振器の入力を与えて高速にオンオフさせる回路がいる。そのあたりの詳細は実際の回路を示してから説明することにしよう。

図2 チョッパ型DC-DCコンバーター(降圧)

せっかくなので、図2に降圧型DC-DCコンバーターの基本原理も示しておこう。スイッチやダイオードの位置が異なるだけで昇圧型と似ているが動作は少し違う。

スイッチをオンにすると、コイルを通って負荷RLに電気が流れる。その状態でオフにすると先の説明のように、コイルにためられた磁気が電気となって放出され、図の青い線のように流れる。コイルに発生する電圧は先の説明と同じくインダクタンスと流した時間、電流の大きさに比例するので、適当な電圧になったらスイッチをオフ、適当な電圧より低くなったらスイッチをオン……を繰り返してやる。これで目的の電圧を得ようとするのが降圧型DC-DCコンバーターの原理だ。電圧が一定レベルを維持する限りスイッチをオフにするので、この降圧方法はとても効率が高い。

ちなみに、図中のダイオードは電気を逆流させずにグルグルと回す役割を持つので「フライホイールダイオード」などと呼ばれる。同じダイオードでも昇圧型のときとはちょっと役割が異なるのだ。

DC-DCコンバーター用のICを使おう

本物のチョッパ型DC-DCコンバーターは、スイッチ(=スイッチング用高耐圧MOS-FET)をオン・オフさせるための発振器、発振を止めたり再開させたりして電圧を適切に保つための基準電圧とコンパレーター(比較器)などで構成される。発振器やコンパレーターをディスクリートで(要するにトランジスタやFETで)設計するのも、そう難しくはないのだが、面倒なので専用ICを使ってしまおう。

筆者が使用したのは日本無線(JRC)のNJM2360というIC。DC-DCコンバーター制御では定番のモトローラ(現オン・セミコンダクター)のMC34063Aの互換品とでもいえるICだ。NJM2360の製品情報に機能ブロック図があるが、それに説明を加えておこう(図3)。

図3 NJM2360のブロック図

NJM2360は図のような8ピンのICで、内部にDC-DCコンバーターを構成するための回路が組み込まれている。COMPとVrefがコンパレーターと比較用の基準電圧で、5番ピンに与えられた電圧とVref(1.25V)を比較して、電圧制御とかかれたフリップフロップで基準電圧より高ければ発振を止め、基準電圧より低ければ発振を再開するようになっている。

発振器の発振周波数は3番ピンにつなぐタイミングコンデンサ(Ct)で変更でき、コイルのインダクタンスなどにあわせた発振周波数に設定できるようになっている。

7番ピンのSiとなっているピンは電流検出用で、スイッチオンのとき、電流が一定量(これは抵抗を噛ませて決める)を超えるとオフに落とす仕掛けである。

発振器の出力はフリップフロップを経て2つのダーリントン風接続のスイッチング用トランジスタのベースに接続され、1番ピン-2番ピンでスイッチングできる仕組みだ。

要するに、このICの中に発振器やらスイッチング用のトランジスタやらが詰め込まれているので、あとはコイルとコンデンサ、ダイオードを外付けしてやれば昇圧用DC-DCコンバーターが(だけでなく降圧も)できてしまうという楽なICなのである……といいたいところだが、実は今回の用途には、このICのままでは使えない。

というのは、内蔵されているスイッチングトランジスタの耐圧が40Vしかないからだ。必要な電圧は170Vくらいだから、内蔵トランジスタだけでは到底耐えられない。そこをどうやるか……は次回に説明するとして、今回は試作の様子だけ掲載しておこう。試作段階では約170Vの電圧がしっかりと得られている。次回はDC-DCコンバーターを完成させるまでを紹介したい。

DC-DCコンバーター試作機。DC12V入力でDC170Vの電圧が得られている

  • <<
  • <

1/16

インデックス

連載目次
第16回 USB接続の液晶ディスプレイを自作する(2)
第15回 USB接続の液晶ディスプレイを自作する(1)
第14回 USBニキシーボードに温度計機能をつける
第13回 USBニキシーボードを温度計に拡張する(2)
第12回 USBニキシーボードを温度計に拡張する(1)
第11回 ニキシー表示ボードからパソコンへのデータ送信
第10回 ニキシー5インチベイユニットを作ろう
第9回 ニキシー表示ボードのUSBデバイス化 - 基本ソフト編
第8回 ニキシー表示ボードのUSBデバイス化 - 回路/デバイス編
第7回 H8Tinyを使おう - マイコンプログラミング超入門
第6回 H8Tinyを使おう - プログラミング編
第5回 H8Tinyを使おう - 準備編
第4回 ニキシー管ドライブ回路を考える
第3回 写真で見る素人基板作り
第2回 パワーMOS-FETを使おう
第1回 ニキシー管って何だ?

もっと見る

人気記事

一覧

新着記事