本連載ではこれまで、仮想デスクトップの計画や設計、構築の落とし穴について述べてきた。最後にまとめとして、技術的な側面と使われ方の側面において、今後のデスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化について展望したい。今回は技術的な側面についてフォーカスする。なお、本稿の内容は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属している会社のロードマップや見解を示すものではない。

継続的なバージョンアップ

Windows 10のリリースに伴って、Windowsの今後のバージョンアップ形態が変更になり、数年ごとの大きな「メジャー」バージョンアップを提供するモデルから、継続的に機能追加を行うモデルに変更されている(参考:https://technet.microsoft.com/ja-jp/library/mt574263(v=vs.85).aspx)。

企業向けPCには「Current Branch for Business」を使用することが推奨されており、最長で8カ月ごとにアップデートすることが推奨されている。これまで「塩漬け」のポリシーで運用してきた場合は、運用ルールの大幅な変更が必要になる。

「Long-Term Servicing Branch」を使うことで、機能拡張のないバージョンを長期的に利用することも可能だが、先述のページにあえて「組織全体のすべてのPCまたは大半のPCで、Long-Term Servicing Branchを使用するシナリオはほとんどないことに注意してください」という注意書きがあることからもわかるように、基本的には逃れられない流れと考えたほうがよい。

頻繁なアップデートに対応するには、必要なテストをあらかじめ定義しておき、テストを自動化するなど、仕組みを改善することが必要になる。また、FAT PCと異なり、仮想デスクトップでは複数利用できる環境にすることが容易であるため、通常利用の仮想デスクトップとテスト用の仮想デスクトップを用意し、本展開前に次のブランチを先行利用してもらう、というやり方も考えられる。

GPUの利用シーンの拡大

第8回で触れたように、仮想デスクトップやアプリケーションにおいてGPUの利用は増加する傾向にある。これは、サーバ側だけではなく、接続元の端末についても同様だ。

特に、現在画面転送のコーデックとして使用されることの多いH.264のエンコード・デコードなどはGPUの得意な分野でもあるため、各社のプロトコルは端末のGPUも利用する方向で拡張が行われていく傾向にある。

例えば、iPadやAndroidのタブレットについてはもとよりGPUが搭載され、活用されているし、Raspberry Piなどの低価格のマシンにおいてもGPUを搭載している。今後はGPUがあることを前提にしたディスプレイプロトコルの強化など、GPUを活用する方向での機能拡張が行われるだろう。

認証の多様化

仮想デスクトップやアプリケーションに限った話ではないが、SAMLなどを用いて、会社の認証情報と各種SaaSの認証情報などを連携してシングルサインオンを利用することが増えてきている。これは、自社で開発したアプリケーションに加えて、SaaSなどの外部サービスを利用が増加しているという流れに伴っている。

また、クライアント証明書を用いた2要素認証なども一般的になってきており、今後はFIDO準拠デバイスによるパスワードレス認証なども普及する見込みだ。

これらの背景を踏まえて、仮想デスクトップやアプリケーションのインフラとして、認証の機能が強化されるだろう。現在でも、各社が認証を一元化するような仕組みやSAMLなどを使った認証連携の仕組みを提供しているが、iPad/iPhoneに搭載されているTouch IDなどの生体認証やNFCなどの非接触型ICカードを用いた認証連携なども今後、機能拡張が考えられる領域だ。

IoT機器との連携

「IoT」というキーワードは現状バズワードとして扱われているが、ビーコンやセンサーなどの仕組みを仮想デスクトップや仮想アプリケーションと連携するような仕組みも考えられる。

例えば、会議室への入室をビーコンが検知して、仮想デスクトップの画面を会議室に表示するような仕組みなどである。また、NFCと位置情報を併せて認証を行うことで、物理的に特定の場所にいない限りログインできないような、よりセキュリティを強固にするような仕組みも考えられる。

これらの要素は仮想デスクトップや仮想アプリケーションの製品自体の改良というよりは、オフィス向けのIoT機器として登場する可能性がある。

次回は、使われ方の側面からデスクトップ仮想化の今後を展望してみたい。

峰田 健一(みねた けんいち)

シトリックス・システムズ・ジャパン(株)
コンサルティングサービス部 プリンシパルコンサルタント

サーバ仮想化分野のエンジニアを経て、シトリックス・システムズ・ジャパンに入社。
主に大規模顧客のデスクトップ・アプリケーション仮想化のコンサルティングに従事している。