自ら会社を立ち上げ、これまでに8社のベンチャーキャピタルと事業会社2社の合計10社から、総額3億円を超える資金を調達してきた伊藤一彦氏。自社の経営だけではなく、中小企業診断士として企業支援やベンチャーキャピタルの資金調達にまつわる執筆もされています。

本連載では、現役経営者である伊藤氏が、これまでの経験をもとに、ベンチャーキャピタルからの資金調達についてリアルな現実を語ります。

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ベンチャーキャピタルのことを理解し、投資を受けるということの意味を十分に考えたうえで、投資を受ける覚悟ができたならば、いよいよ投資を受けるための行動をスタートすることになる。

1.知り合う

まずは、ベンチャーキャピタルと知り合わなければ何もはじまらない。そして、この知り合い方も、とても重要な成功のポイントなのである。

まだ一度も投資を受けたことが無かった時、私はベンチャーキャピタルと知り合うためにインターネットで検索し、連絡先を調べてアポイントを取って訪問していった。しかし、5社中1社も2回目の面談にすら進むことができなかった。

そこで、次に挑戦したのはビジネスプランを第三者機関に認めてもらい、ベンチャーキャピタルの目に留まるようにすることだった。いくつか応募した中で運よく大阪市の外郭団体が運営しているビジネスプランコンテストにて最優秀賞を獲得することができた。その後、金融機関向けにプレゼンテーションの機会があり、そこで知り合ったベンチャーキャピタルから出資を受けることができた。また最近ではベンチャー企業が大勢の方々の前でビジネスプランを発表するピッチイベントというものがある。当社もいくつかのピッチイベントに登壇し、そこで知り合ったベンチャーキャピタルからの投資を受けることに成功した。これらの方法は有効であるといえる。

そして、最も効果的な知り合い方は、やはり、「紹介」であった。すでにベンチャーキャピタルから投資を受けたことがある社長から紹介してもらうのである。または、取引のある銀行などの金融機関からも系列のベンチャーキャピタルを紹介してもらえることもある。さらにいうと、初回の投資を受けることができると投資をしてくれたベンチャーキャピタルからも、知り合いのベンチャーキャピタルを紹介してもらえるようになる。複数のベンチャーキャピタルで連携して出資することも多く、業界の横のつながりは強いのである。いずれにせよ、紹介で知り合ったときには、かなり高い確率で投資審査まで進むことができた。

2.理解してもらう

続いて、ベンチャーキャピタルと出会い最初に求められるのはビジネスプランである。過去の決算書ではなく、未来に向かった事業計画書が大切になる。事業計画書については、ここでは詳しく述べることはしないが、少なくとも、5W2H(いつ?どこで?誰が?何を?なぜ?いくらで?どのようにして?)は網羅された内容にしておきたい。

事業計画書にそってビジネスプランを説明すると、たくさんの数の質問がベンチャーキャピタルから返ってくる。ありとあらゆる角度からやってくる膨大な質問を書面で回答していくのである。この質問に関する回答が大切なのである。

この質問に関する対応は、とても膨大な作業量であり、回答するのに苦労する内容の質問も多い。ただし、一つ一つ丁寧に考えて回答を作成していくことで、ビジネスプランに足りていなかったところを補っていくことができる。さらに質問に対する回答をふまえて事業計画書を加筆修正していくことでより深く、より分かりやすいものにブラッシュアップしていけるのだ。

ベンチャーキャピタルの担当者は、経営者に代わって、上層部の方々にビジネスプランを説明し、大きな金額の投資をする承認を取ってこなければならない。しかも、業界も多種多様であり、全く初めての業界に関する事業についても自らの言葉で説明できるように理解を深める必要がある。そのため、通常、質問は一度で完了することは少なく、回答についてのさらなる深ぼりを求められることや追加の質問が繰り返しおこなわれていくことが多い。

また、みなさんの会社に投資をしても大丈夫なのかを判断するためにたくさんの書類の提出を求められる。過去の決算書はもちろんのこと、定款や登記簿謄本など。それらに並行して、ベンチャーキャピタルの役員との面談や、取引先への側面調査などが進んでいく。全て完了した段階で、いよいよ投資審査会に進むことになる。投資審査会はベンチャーキャピタルの担当者が経営者に代わって説明する場合が多いが、経営者自らプレゼンテーションの機会を与えられる場合もある。なお、投資審査会も複数回となる場合も多い。

3.あきらめない

これだけのステップを乗り越えて、投資審査会まで進んでもNGとなる場合もある。ベンチャーキャピタルの担当者とともに相当な工数と時間を費やしており、心が折れそうになる。いや、ポッキリと折れてしまうことだろう。実際に当社でも投資審査会でNGとなったことがあった。ベンチャーキャピタルの担当者も投資OKになると見込んでいるからこそ投資審査会に進めるのである。こちらも期待してしまうのは当然であろう。これまでの苦労を考えると心がポッキリと折れてしまうのは仕方が無い。

しかし、ここであきらめる必要は全く無い。投資審査会まで進んでいるということは十分に見込みがあるということである。ベンチャーキャピタルによって判断基準は異なる。実際に当社では、なぜか最初の1社の投資審査では毎回NGになっていた。

ここであきらめずに1社だけでもベンチャーキャピタルから投資OKの判断を受けることができると流れは一気に変わる。他のベンチャーキャピタルも紹介してもらって多額の投資を集めることができる機会が突然やってくる。まずは、最初の1社の投資OKを受けることができるまで、あきらめずに努力し続けることが大切なのである。もし投資NGになっても、その理由をしっかりと聞いて、ビジネスプランをブラッシュアップして、さらに事業をがんばって実績を積み重ねていけば、必ず、道は開ける。

伊藤一彦

1974年大阪生まれ。1998年大阪市立大学を卒業後、日本電気(NEC)入社。ベンチャー企業を経て、2002年営業創造を設立。2012年スマイル・プラスをグループに迎える。2016年にグループ全社を統合し、BCC株式会社代表取締役社長に就任。経営の傍ら中小企業診断士として公的機関での中小企業支援をおこなう。著書「【新訂3版】バランス・スコアカードの創り方(同友館、共著)」「ベンチャーキャピタルからの資金調達〈第3版〉(中央経済社、共著)」