第4回では、社内の内部統制事務局、現場の内部統制推進者、幹部社員、一般社員など、社内における立場別に、内部統制を浸透させるための方法について述べた。今回は、連結子会社や海外拠点における内部統制に必要な人材育成方法について述べていきたい。

内部統制対応のため、グループ全体での経営管理態勢の見直しが必要

内部統制の対象となる上場企業は、複数の会社からなる企業グループを構成しており、企業グループ単位でさまざまな活動を共同で行うことも少なくない。

昨今、財務報告における連結決算ばかりではなく、本格的なグループ経営が求められており、企業グループ全体でのガバナンスや意思決定プロセス、経営管理態勢などについて、全面的な見直しが必要になっている。

特に、金融商品取引法で要請される財務報告に係る内部統制への対応を進めるにあたって、経営管理態勢の推進上の課題に直面している企業グループが増えている。なぜなら、内部統制の基本的要素として、企業グループ全体において「リスク」を認識・評価し、その対応を図る「リスク管理」が求められているため、これまでの経営管理態勢の見直しが必至となっているからである。

グループ会社相互によるチェック機能として内部統制を活用

実際、多くの企業の担当者は、グループ経営や管理体制について本当に悩んでいる。こうした企業において見られる傾向として、親会社から子会社が把握できていないことが悩みの原因となっている。

親会社は子会社の概要を理解はしていても、実際の業務内容が理解できていないケースが多い。その原因として、親会社が入手している子会社の情報が、決算・財務などの部分的な情報に限定されていることが挙げられる。

特に、多くの企業グループでは、子会社の組織の運営方法、体制や業務の質について、親会社が業績の数値以外には関心がなく放置されてきたという実態があり、連結対象企業の業務プロセスと質を十分に管理できていないという状況が生じている。

最近、ある会社でグループ会社を巻き込み、何年にも渡り何百億円にのぼる循環取引を行っていたとの報道があった。このような企業グループでの違法行為を未然に防ぐためには、単に管理部門を強化するだけではなく、企業グループ内の組織と人材を活用することにより内部統制を機能させ、企業グループ間相互によるチェック機能を有効にする必要がある。

グループ間のチェック態勢が強化されることこそ、グループ会社を含めた内部統制を構築・運用していく意味があると考える。

グループ会社の整理・統合につながる可能性も

昨今の内部統制を巡る議論は、グループ経営の在り方について、より本質的な管理の強化を求めている。金融商品取引法で求められるものは、連結子会社を含めたグループとしての内部統制の整備と評価である。

内部統制の構築・運用がグループ経営に与える具体的な影響として、まず第一に挙げられるのが、グループ全体に渡って業務プロセス、組織運営状況の文書化が展開されることにより、これまでブラックボックスとなっていた各社の業務プロセスを理解することが可能となる点である。

第二は、内部統制の構築作業を通じて、管理リソースの不十分さゆえに自律的な管理が困難な子会社を整理や統合するきっかけが出てくることが挙げられる。

子会社任せの人材育成では駄目

連結子会社においては、今まであまり手をつけてこなかったグループ会社への指示系統や責任体系をまず整理し、グループ会社の特性に応じた管理体系を構築することが求められる。

業績管理ばかりではなく、強固な内部管理態勢を企業グループとして確立することが必要であり、そのための人材育成を共同で本気になってやらなければならない。

内部統制を親会社と同じレベルで構築し、継続的に実効するためには、今までのような子会社任せでは絶対にできない。親会社のDNAを分け与えるくらいの気持ちでないと親会社と同じような人材は育たない。一過性の活動にとどまってしまえば、親会社の負担ばかりが増すことにもなる。

以上の点は、既に人材育成に取り組んでいる企業の役員や担当者であれば理解できるのではないだろうか。

内部統制の作業上の留意点

連結対象企業における内部統制人材育成のためには、親会社でそれぞれの統制や業務プロセスを担当したチームが、子会社における同類の統制や業務プロセスの文書化/評価をサポートすることが望ましい。

例えば、親会社で販売プロセスを担当したチームが、各子会社のそれぞれの販売プロセスの文書化/評価などの作業を、子会社の販売部門のメンバーと共同で実施するなどである。

こうしたことを行っていけば、内部統制構築のノウハウをグループ間で蓄積することとなり、グループ企業全体での情報共有と作業効率の向上につながる。

さらに、各主要統制や業務プロセスにかかわるグループ内の情報の共有化やプロセスの標準化に対して、親会社の担当部門に責任意識が醸成されることにもつながると考えられる。

海外拠点との文化の違いで苦労するケースも

金融庁の実施基準では、海外子会社の内部統制に関して、「在外子会社等についても、評価範囲を決定する際の対象に含まれる」と定義されている。売上高による重要な事業拠点を選定し、海外子会社の内部統制を国内と同じように構築・評価することが必要となる。

実際の推進にあたって注意すべき点としては、海外拠点にも国内と同レベルの一貫した情報・指示が行き届くように配慮し、各種資料のフォーマットやスケジュール管理なども国内と統一し適用することがある。簡単なようだが、海外拠点ではそれぞれのやり方へのこだわりが強いため、苦労することが多い。

また、特に文書化のフェーズや、テスト開始のフェーズにおいては、Face-to-Faceで本社側の意向を伝える連携が重要である。本気で推進するためには出張者が数週間、海外拠点に張り付いて、支援・指導するぐらいでやる必要がある。国内の対応以上に時間と労力がかかると思って取り組むべきである。

支援を行う上で苦労することとしては、特に欧米系の海外子会社はJ-SOXで求めている種類の統制・証憑類の集積が文化的になじまない点がある。

例を挙げると、欧米系の会社では個人レベルに職務権限を委譲しており、重大なミス・不正をすれば即刻解雇されるということが一種の統制の役割を果たしていた。また、日本のようにいちいち担当者・承認者の押印の文化もない。

このため、当初は主旨を理解し協力してもらうことに苦労したが、じっくりと説明し、CFOレベルも巻き込んで説得を行うことで、J-SOXを満たしつつ現地でも実施可能な統制のあり方を現地チームと共同で考え、日本式の内部統制を導入することができた。

実際に海外子会社の内部統制構築を開始するとなると、本社のガバナンスを子会社にどのように適用させるかを考えることになる。実態は現地の日本人管理職、駐在員の力にかなり依存することが多いということも実感している。

次稿(最終回)では、内部統制を業務改善に生かすための人材教育について述べていきたい。