第2回では、内部統制が本当の意味で現場にまで浸透し、永続的な運用を行うことができるようにするため、人材活用の観点で経営者が行うべきことについて述べた。第3回と第4回では2回にわたり、内部統制を社員に浸透させるための方法について述べていきたい。

前編となる今回は、内部統制を浸透させる上でのヒントをつかむため、内部統制の意義を再確認し、誰のためにやるべきものなのかについて考える。後編となる次回では、内部統制を運営するための事務局から、現場における内部統制推進者、幹部社員、一般社員、内部統制維持のための必要部門の担当者まで、それぞれにおける内部統制浸透の方法の具体例について述べたい。

社会の企業を見る目は厳しくなる一方

内部統制における文書化や整備状況の評価、その定着作業、不備の改善など、内部統制実施のための日々の作業に没頭する中、今まで現場対応に追われてきた身として改めて冷静になって考えてみると、「なぜ内部統制を構築するのか」、「誰のためにやっているのか」、という前提部分の再確認をすることこそ、社員への浸透のために必要な方法を考えるヒントとなると思い至った。そうすることで、内部統制運用のために必要となる人材の育成や人材活用の方法も見えてくる、と直観したのだ。

それでは、内部統制を構築する意義とは何だろうか? J-SOXの基本となる金融商品取引法は、内部統制の目的を「財務報告の信頼性の確保」と定めており、同法における条文や規定は、その目的に沿った必要事項を法的に表現した内容となっている。

同法の対象となる日本の主要企業は、法律により内部統制の整備を求められ、既に取り組みを始めている。現在はまさに統制評価に向けた最終局面にあり、今後さらに取り組みが進めば、内部統制の実効性確保は、社会からますます高いレベルで求められることになるだろう。

なぜなら、法律で内部統制の整備、監査、開示が求められたことにより、企業の外から見れば、内部統制は今後、一定のレベルで整備されていて当然なもの、と受け止められるはずだからだ。社員が考えるより厳しい目が、常に企業活動のさまざまな場面で向けられていくことを知る必要がある。

そういった状況下で何か不祥事や事故が起きれば、企業に対する批判や責任追及はこれまで以上に強いものになることが予想される。内部統制を構築しなければならない者にとっては、その責任は企業の浮沈を左右するほどに、大変重くなっているのである。

従って、実効性ある内部統制の構築は、企業にとって当面の課題でもあるが、同時に、長期的・持続的に取り組むべき課題でもあるといえる。

当たり前のことを当たり前にやることが目的

その意味では、内部統制は現状とかけ離れた目的の達成を求めているのではなく、むしろ、企業にとってはいわば当たり前のことが当たり前のように行われ、企業が決めた統制が担保されることを求めているにすぎない。このことが、内部統制を構築する意義として重要となる。

忘れてならないのは、内部統制は「整備・評価にあたり目的達成を支える手段」であり、目的を実現するためのツールである。企業が実効性のある内部統制の整備を図る上では、今後、内部統制の持つこの特質をしっかり理解しておくことが極めて重要と考えられる。

その上で、内部統制の整備・評価に当たり、何のためにやっているのかを再度現場に説明し理解を得た上で、統制を確実に実施してくれる人材を徐々に増やし、そのプロセスが当たり前となるまで根気強く人材を育成することが、目的達成のための近道である。

そして目的のために取ろうとしている手段、すなわち内部統制が、目的達成を図る上で道理にあっているものかどうか、常に見直し問い直すことも求められる。この地道な見直し作業の積み重ねが、結果としては企業が改革を実現するための貴重な能力となる。

戦略的で長期的な取組みとしてとらえることが必要

ところで、会社はそもそも誰のものであろうか? 立場が違うと回答もさまざまだと思うが、資本主義の理論だと、「株主のもの」ということになる。しかし、内部統制を構築してきた立場の者としては、会社はやはり、「顧客を含む多くの利害関係者のもの」であり、「そこで働く人々のためのもの」であると考える。

こう考えると、内部統制システムもやはり、経営者を含むさまざまな会社関係者のために構築すべきものということになる。つまり内部統制構築は、社会のため、株主のため、顧客のため、社員のため、経営者のため、なのである。

もちろんJ-SOXの趣旨は、財務報告の信頼性を担保することであり、株主に企業価値を認めてもらうことが目的である。だが、制度上外部監査を受けなければならないため、監査法人を満足させるための内部統制になってしまう傾向がある。

内部統制対応が必要な上場企業やそのグループ企業においては、法律対応のための短期的なプロジェクトとしてではなく、企業価値をさらに向上させるための戦略的で長期的な取組みとしてとらえ、内部統制活動を推進していくことが必要である。

現場レベルの社員まで内部統制の意義や実施される統制が浸透して初めて、内部統制が完全に機能する。そのため、内部統制を支える人材の育成や活用をし、人材の裾野を広げる努力が不可避である。と同時に、社員自ら、内部統制の必要性を理解することも必要である。

組織の自己目的化をチェック・防止するツールとして有効

上記の目的を達成するために気を付けなければならないこととして、企業の中にはさまざまな機能を持つ組織があり、ともすればその存在そのものを自己の利益やメリットのために動かし、放置すれば好き勝手に新しい組織や業務プロセス、ルールを作る傾向が挙げられる。

その結果、各組織で行っていることが会社全体としての目的の達成にならなかったり、組織にとっては部分最適であっても、会社全体では最適でなかったりすることが生じる。ただし、そうしたズレが新しいビジネスのために本当に必要であったり、従来のやり方から必然的に進化した事業展開になったりしたために生じたものであれば問題はない。

だが、組織の活動の中には、単に形を整えただけだったり、良さそうな部分を真似して持ってきただけで目的のない無機質なプロセスになったり、何か新しいことをやらなければ評価されないので仕方なく取り組んだりといった、後ろ向きであまり効果の期待できない取り組みになりがちだ。

こうした組織の傾向に対し、内部統制はこれらの取り組みを識別・選別し、より効果の期待できる取り組みとできるかを判断するツールとして活用できる。

しかし内部統制は、それをやれば経営が自然とよくなるといったたぐいのツールではない。組織全体の人材を効率的に活用し、良い結果を出させるようにするためのモニタリング的な判断ツールとして、内部統制を使いこなせるようになって初めて「目的達成のための手段を選ぶ」ツールとなり得る。

「内部統制を社員に浸透させるための方法」の後編となる次回では、内部統制・運用の中心となる事務局、現場の内部統制推進者、幹部社員、一般社員、内部統制を維持するために必要な部門の担当者それぞれに必要な、浸透方法の具体例について述べていきたい。