この連載では、富士通の内部統制構築プロジェクトである「Project EAGLE」(以下、「EAGLE」)の立ち上げから運用までを、2年間にわたって行ってきた筆者が、同プロジェクト推進の過程で得た経験を基に、内部統制のための人材の活用をいかに行い、今後の運用をいかに効率よく永続的に行うべきかについて検討していく。なお、本稿は個人の意見であり、筆者の所属する会社の意見とは異なる場合があることを断っておきたい。

内部統制運用での人材活用の実態

内部統制に関する報告・監査制度の施行が間近に迫っている今、各企業では恐らく内部統制の整備に向け、最後の追い込みの段階に入っているはずだ。だがそうした中でも、今後の運用に向けての方向性や体制について検討がなかなかできていないケースもある。以下にその実態を探り、運用に向けての人材育成と活用の必要性についてみていくこととする。

今回の連載にあたり、内部統制への取組みについてあらためて深く考えてみると、目先の文書化や運用状況の評価、不備の改善などについて考えるあまり、人材活用や今後の人材計画の策定が十分に行われていないのが実態ではないだろうか。

また、内部統制の構築の過程で、「見える化」から、業務改善につながる「業務改革」までを行うためには、社内の業務プロセスを変えることになるため、それなりの覚悟と実際に改革が行える人材を育成する必要がある。

図1:EAGLEにおける内部統制構築の取り組みイメージ

冒頭に述べた状況のように、各企業においては、内部統制整備の遅れや業務プロセスの手直しの発生などの理由で、期日までに本当に作業が終わるか確信がなく、焦りがあると思う。だが、そのような状況であればあるほど、今後の内部統制の運用をいかに永続的かつ確実に実施できるかは、ITによる統制を除くと、マニュアルによって運用に当たる人的資源に依存することは明白である。

つまり、内部統制の実効性を担保しているのは、会社の業務1つ1つに実際に携わっている社員1人1人なのである。

また、一口に人材といっても、大組織になればなるほど簡単に会社を動かすことが難しいため、誰もがすぐ新しいマニュアルに対応できるわけではない。また、経営者から指名された人材でも、内部統制以外にも、会社の運営や業務に関する知識、会社を取り巻くさまざまなリスク、文書化から不備改善までのプロセスを経験することで、組織や人を動かすためのテクニックを身に着けなければ、内部統制の運用は非常に難しい。

内部統制運用における人材の重要性とは

あらためて言うまでもないが、完全な内部統制を構築すれば、後は自動的に統制が有効になるわけではない。2年目以降の対応ももちろん必要だし、同じことをやっているのだから不備が発生しないというわけでもない。

内部統制の円滑な運用のためには、社内外の環境やプロセスの変化によって新たに発生するリスクを発見し、的確な内部統制を構築できて初めて、継続的な運用が可能となる。

ある会社において、「内部統制の構築が完了したらプロジェクトに参加していた体制がなくなり、元いた職場に戻った」という話を聞いたが、これでは、うまくいくものもうまくいかない。

なぜなら、内部統制の活動は永続的に行っていくことが求められており、現段階での統制レベルで、将来的に全く問題がないという保証はないからである。つまり、内部統制の構築後も、社内外の状況を把握し、PDCAの観点で業務を常に見直していく必要がある。

そうした意味でも、末端の現場において内部統制の活動が定着するまでは、次の世代の人材が育つまでは簡単には体制を崩すことができないのである。

図2: 筆者が推奨する内部統制プロジェクトの推進体制

図2におけるプロジェクト推進体制の例では、(1)推進組織(PMO)、(2)実際の現場を支援する支援チーム、(3)グループ会社も含む現場、の3層を構成している。このうち、推進組織は専任とし、支援チームについても、永続的に内部統制を実施するためにある程度専任化した方がいい。その理由として、図2の図中にも示したが、この2層の人材においてはかなりの専門知識が必要であるのと、かなりの時間を現場への支援のために費やす必要があるという2つの要素が挙げられる。

現場による発見と理解が鍵

以下ではこれまでの経験から分かったことを率直に述べる。

よくあるケースだが、プロジェクトとして時間や人材に余裕がない時ほど、どうにかして内部統制を有効なものにできないか考えてしまいがちである。だが、冷静に本来の内部統制の目的を考えると、内部統制に必要となるコントロールは、推進プロジェクトのメンバーが考えることではなく、現場の人たちが本当に無理なく行える統制レベルを発見することが重要である。

図3:富士通における現場レベルでの内部統制構築実践例

この統制レベルを見つけるためには、目的を同一にする多くの人材とともに、いかに現場において対応できるかを考えた方がいい。そのほうが結果として、内部統制が現場に定着し、プロジェクトが意図する内部統制強化の理由を現場に正しく伝えることができる。

結局、「こうしなさい」、あるいは「これをしてはいけません」とプロジェクトのメンバーが言っても、なぜそうしなければならないのかを現場が理解しなければ、現場は自然とやらなくなってしまうのである。

従って、正しい内部統制を現場に理解してもらうためには、人材を育成するための研修を 目的別に、定期的に行うことが必要となる。

また、新しい業務を構築する場合に、これまでは単純に業務上実現したい機能のことだけを考えればよかったが、内部統制が業務に入り込んだ後は、記録、承認、保管といった職務分掌が有効に機能しているかが求められる。この要請に応じるためには、今までの業務知識やITのノウハウだけではなく、コンプライアンスや業務の効率化も含め、内部統制の機能が分かる人材が新たに求められるのである。

次稿では、効率的な人材活用のために経営者が行うべき意識改革について述べていきたい。