国産ドローンが放射線計測や点検業務などで活躍

前回から、日本科学未来館で開催された「ドローン:マネタイズの可能性」と呼ぶトークセッションの概要をお伝えしてきた。今回はその後編である(本文敬称略)。

イベント会場の入り口。2015年9月26日に撮影

出席者4名のプロフィールを説明するスライド

牧浦 ビジネス用途のドローンとして良く知られているのが自律制御システム研究所のドローンですが、これまでに何機くらいが販売されているのでしょうか。また企業さんや法人さんが購入されているのでしょうか。

野波 150機くらいでしょうか。購入されているのはほとんどが企業さんです。

牧浦 購入された方は、何をドローンに載せておられるのでしょうか。

野波 いろいろな用途があります。今、多いのは放射線の計測です。フクシマでの。それと同じくらい多いのが設備の点検ですね。工場や高速道路、トンネル、製鉄所、石油化学コンビナートなどです。

野波 面白い用途は船舶の内部点検です。船ってかなりの大きさがあるんですよ。10万トン級のタンカーの底に立ってみると、7階建て~8階建てのビルの高さに見えるんですね。そして真っ暗。不気味なくらいです。音がしなくて、そして寒いんですね。こういった場所で船の壁面を点検する。ですが7階建~8階建ての高さがあると、足場を組むのも容易ではありません。そこでドローンを使って点検をすると「こんな便利なものはほかにない」と言って喜ばれます。

安全保障の観点からは国産が望ましい分野

野波 それから警備用途ですね。セキュリティの問題から、海外製ではなく、国産のドローンが求められています。ドローンはソフトウェアによっていろいろなことができてしまう。ユーザーが知らないところでデータを吸い上げて送信するとか、時刻を決めてわざと墜落させるとか。安全保障に関わる分野では原則、国産でなければいけない。

牧浦 国産ですと、どういった形でセキュリティが担保されるのでしょうか。

野波 一番、重要なのは駆動系です。モーターやバッテリ。それからソフトウェアです。オートパイロットの部分。ここは絶対に国産でなければならない。センサー類は複雑なソフトウェアが入っている訳ではないので、問題はあまりないと思います。一番、重要なのは、自律制御をするオートパイロットのところだと思いますね。

ドローンが墜落しないための工夫

牧浦 玉川さんがお話した実験に使われたドローンは自律制御システム研究所の「MS-06LA」ということでした。おいくらくらいで購入されたのでしょうか。

玉川 300万円くらいしたと思います。

野波 300万円という価格は、一見すると高いようにも見えますが、例えば操縦者のトレーニングが含まれています。2名のドローン操縦者を育成する7日間と10日間のプログラムがあります。ラジコンの操作に関してはプロフェッショナルに近い高い技量を備えたトレーナーが、それこそ手取り足取りでドローンの操作方法を教えます。

野波 それからドローンはクルマと違って故障したら墜落します。墜落しないための、いろいろな工夫をしています。例えば、物体にある程度まで近づいたら警告が出るといった、見えづらい部分でケアをしていまして、どうしても高価になってしまう。

最も早く立ち上がる用途は橋やトンネルなどの点検

牧浦 ドローンのビジネス市場は、将来は非常に大きくなると言われています。直近の市場、2015年~2016年で、どのビジネスが最も早く立ち上がる、あるいはどういった事業が始めに黒字になるのでしょうか。スピーカーの皆さんにご意見を伺いたいと思います。最初は野波さんから、よろしくお願いします。

野波 まずは法律が改正されてドローンを使わざるを得ない分野、というのがあります。インフラの点検分野です。日本の道路インフラ、主に橋とトンネルなんですけれども、5年に1回の点検が義務付けられた橋が日本には70万箇所、同じように点検が義務付けられたトンネルが日本には1万箇所あります。この分野は「何がなんでも(ドローンを)導入したい。1000万円くらいしても導入したい」という勢いです。

野波 それから最近になって出てきたのが物流です。千葉市がドローンを利用した物流に積極的に取り組んでいまして。市川市の物流拠点と千葉市をドローンで往復させるプロジェクトを進めています。来年(2016年)の今頃には、ドローンが飛んでいると思いますね。

牧浦 僕も東京大学といっしょに輸送用のドローンを開発しています。難しいと感じたのは液体の輸送です。ドローンの軌道がずれると、そのままずれが大きくなってしまう。野波先生がおっしゃった物流のプロジェクトでは、最初は何を運ぶのでしょうか。

野波 アマゾンの試みでは、重さに関係なく、サイズを同じにしていますね。あれは良く考えている。それと液体を運ぶのは難しいので、まずは固体を運ぶことにしています。しかも1機で飛行するのではなく、10機くらいが編隊を組んで飛行したらどうだろうかと。1機だと見えにくいし、危なさもある。10機くらいが見えやすいかなと。

空中撮影に対するニーズが急増

牧浦 何か、ロマンを感じてしまいます。渡辺さんはいかがですか。

渡辺 一番早いのは野波先生がおっしゃっていたように土木系であったり、後は農業だと思います。別の分野ですと空撮(注:空中撮影)ですね。映画でも空撮がかなり使われていて。映画でもそうですが、新しい映像を作ると、それが当たり前になっていく。そこで空撮のニーズがすごく増えてきています。日本でも空撮をやっている方はいらっしゃるんですが、まだ数はそれほど多くない。

牧浦 渡辺さんの会社マイクロアドでは最近、「Catalyst(カタリスト)」というウエブメディアを始めていますよね。あれはドローンを多く取り上げるメディアなのでしょうか。

渡辺 Catalystは新しいテクノロジーのトピックスを紹介していくメディアなので、トピックスの1つにドローンがあるという位置付けです。

左から牧浦氏、玉川氏、渡辺氏、野波氏

ドローンのレース競技が熱い

牧浦 ドローンの国家戦略特区(近未来技術特区)に指定された秋田県仙北市では、ドローンのレース(競技会)をやれないだろうか、ドローンのコンペティション(品評会)ができないだろうか、といった検討を、僕や野波先生などを含めてしています。ドローンのレースでは米国で、アメリカンフットボールの競技場を借り切ったレース競技会「National Drone Racing Championships」が開催されてテレビネットワークでライブ放映されていたりするわけです。ドローンのレースはFPV(一人称視点)で操作する映像を視聴者が見られるので、非常にスリリングです。この「レースの事業化」というのは、考えられないのでしょうか。

渡辺 今おっしゃられたドローンレースの世界大会「National Drone Racing Championships」は、今年(2015年)に初めて開催されました。優勝者の賞金が2万5000ドルでした。来年(2016年)の開催がすでに決定していて、優勝者の賞金は10万ドル(約1200万円)に上がっています。そうしますと数年以内には、賞金が億円単位になってきて、お客さんも増えるでしょう。