---------------------------------------------------------------------------
ドラマにありがちなシチュエーション、バラエティで一瞬だけ静まる瞬間、
わずかに取り乱すニュースキャスター……テレビが繰り広げるワンシーン。
敢えて人名も番組名も出さず、ある一瞬だけにフォーカスする異色のテレビ論。
その視点からは、仕事でも人生の様々なシーンでも役立つ(かもしれない)
「ものの見方」が見えてくる。
ライター・武田砂鉄さんが
執拗にワンシーンを追い求める連載です。
---------------------------------------------------------------------------

保守的な休日を声高らかに宣言する「右傾化」

「休みの日には何をしているんですか?」という問いに対して、テレビに出ている人の答えは2パターンに限られる。「こう見えて意外にも、朝から外に出て行動するタイプなんです」か、「こう見えて意外にも、全く家から出ずにボーッと過ごしています」だ。つまり、プライベートの過ごし方は、革新派か保守派かのいずれかであり、中道はありえない。昨今は特に、家から全く出ないぐうたらな休日を「こう見えて意外にも」の枕詞を使ってアピールしてくる傾向が強い。保守的な休日を声高らかに宣言する「右傾化」が甚だしいのだ。

「自分は他のみんなと何も変わらない」アピールには段階がある。「こう見えて意外にも電車とか普通に乗りますよ」は最上級だ。なぜならこれは、自分は相応の立場であるという前提を自ら発する言い回しでもあるから使い方が難しい。映画の主演を務める男性アイドルが舞台挨拶で「実は僕……今日ここまで電車で来ました」と漏らすと、客席から黄色い声が飛んでいた。これが正しい「意外にも電車とか」の使い方であり、売れ始めの俳優にはなかなか使えない。

「帽子かぶるくらいですけど」「えー、そんなわけないでしょう」

頭に何人か思い浮かべることが容易だろうが、頼まれてもいないのにサーフィン、山登り、キャンプの「アウトドア3種盛り」をテーブルに出してくる休日エンジョイ系芸能人は、たちまち視聴者にストレスを与える。こちらはそちらの余暇にそんなに興味がないのだが、飯ごうで炊いたご飯は格別だ、と報告してくる声が押し並べてデカい。それに比べると「休日には外に出ずに何もしません」という報告は静かでありがたいのだが、「外に出ない私」アピールがあまりにも連鎖すると、飯ごうで炊いたご飯に近いノイズが発生しそうになる。

人気急上昇中のタレントに次々質問していくトーク番組では、3つか4つめくらいで、「でもこれだけ人気だと、街で声かけられて大変でしょう」と必ず聞く。ここでの返答は120%、「いえいえ、全然そんなことないです。誰にも気付かれないですよ」である。そこに対する答えは80%の確率で「え、本当? ばっちり変装してたりするわけ?」であり、そこに対しては120%の確率で「いえ、帽子かぶるくらいですけど、全然気付かれないですよ」と繰り返される。再び80%の確率で「えー、そんなわけないでしょう」が投じられて1セットが完成する。

自宅に引きこもる人はロンドンにお気に入りのショップを持ちにくい

最たるキラーフレーズは「未だに雑誌の人とかスカウトの人に声かけられることもありますからね」だ。これを放てば、他の出演者やスタジオの客を驚かせることができる。この話法はなかなか上手く出来ていて、自分はそんなには有名ではないという恐縮を先立たせながらも、自分はやっぱりその手の人から声をかけられる存在ではあるという担保を同居させている。竹下通りや表参道でスカウト目的に歩き回っている女性が未だにいるのか知らないけれど、その辺りは悠々と飛び越えているわけである。

休みの日には自宅に引きこもっている人が、もう何度も行っているというロンドンのお気に入りのショップを紹介していた。リアルに家に引きこもる職種のこちらは、ロンドンにお気に入りのショップを持たない。愛用のスポーツカーから顔を出しながら「普通に電車とか乗りますよ」と答えたら茶番だが、自宅に引きこもる人がロンドンにお気に入りのショップを持っているというのも、これまた茶番ではないのか。

「プライベートでは全く気付かれません」は共同作業

特別な人々は堂々と特別であると言うべきだと思うのだが、みなさんと変わらない、と申し出るのが好きである。その申し出が機能していること自体、特別である証拠なのだが、テレビの前の人々はその申し出を丁寧に引き受けて、「プライベートでは全く気付かれません」に対する「意外!」を撒き散らしてきた。トーク番組の意外性のなさは、その「意外!」の連呼が呼び込んでいることにそろそろさすがに気付かなければならない。禅問答のようだが、本当はそんなはずはないと気付いているのに、気付いていない素振りを見せることが積み重なって、「気付かれません」宣言を補強しているのだ。「プライベートでは全く気付かれません」は、あくまでも共同作業の結果として流通し続けていることを肝に銘じたい。

<著者プロフィール>
武田砂鉄
ライター/編集。1982年生まれ。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「beatleg」「TRASH-UP!!」「LITERA」で連載を持ち、雑誌「AERA」「SPA!」「週刊金曜日」「beatleg」「STRANGE DAYS」等で執筆中。近著に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

イラスト: 川崎タカオ