欧式と和式の道具の違いを見る

さて、今回からは更に具体的なIT的釣法をご紹介していこう。まずはせっかくカープフィッシングを取り上げさせて頂いたので、もう少し詳しく解説させていだたこうと思う。

カープフィッシングの最大の特長は合理的なタックル(釣り道具)にあると、わたしは考えている。鯉の回遊コース、エサを摂る時間帯、エサとなるボイリーの種類、撒き餌の方法などなど、複合的な要素を総合してその日のポイントと釣り方を推理するのだ。

これが一般的なヨーロピアンスタイルのカープ仕掛け。鯉の体に傷をつけない沈下性のシリコンチューブと専用のオモリ、それにヘアリグという組み合わせだ

釣りをまったくしないという人に少し説明しておくと、現在の日本には釣りを「魚を捕獲するための趣味」とは別に、魚と遊ぶ感覚で楽しむ「ゲームフィッシング」という考え方がある。欧米からもたらされた、ブラックバスフィッシングやフライフィッシングなどがその代表で、魚を釣るためのメソッドをその日の状況に合わせて駆使し、釣れた魚は逃がしてあげるといった感じになる。ものすごく大雑把な説明だが、詳しく書こうとすると膨大な量になるのでここでは割愛させていただく。

つまり、カープフィッシングもこれまでの"鯉釣り"とは若干違い、魚を獲るまでの道程を楽しむ釣りに入るとわたしは考えている。エサとして使うボイリーの種類や、撒き餌の仕方、仕掛けなどなど、その日の状況に合わせて思考し、思惑通りの1本を手にする遊びなのだ。言い換えると、経験則から導き出される勘を選ぶか、状況から導き出されるメソッドを選ぶかという違いになる。結果的に釣れれば正解ではあるし、どちらを優先しても魚は釣れる。どちらが良い悪いという話ではなく、どっちが自分にとって楽しいか、という部分が大切なのだ。

そんな考え方の違いは道具にも現れる。カープフィッシングで使われるもっともポピュラーな仕掛けは「ヘアリグ」と呼ばれるタイプ。一つの針の下にボイリーをセットするためのラインが若干はみ出たように作られている。日本でも1本針は使われるが、鯉釣りといえば螺旋の周囲に複数の針が付いている「吸い込み仕掛け」もよく知られているだろう。 吸い込み仕掛けは螺旋を中心に練りエサの玉を作り、その中に針をひとつずつ仕込んでいく。投入された練りエサの玉に鯉が寄り、スパスパとエサを吸い込んでいるうちに針が口に入る、といったメカニズムだ。鯉の摂食行動を良く理解していないとひらめかない優れたシステムだ。

一方、ヘアリグのほうもボイリーもろともフックを吸い込ませるという考え方なので、形は違えど、鯉の生態を利用するところは同じといえる。両者の違いは単純に使われるエサの差でしかなく、それぞれに合ったエサを使った場合に最大限の効果を発揮するところは同じだ。

上が和式の吸い込み仕掛け、下がヨーロピアンスタイルのヘアリグ。国民の嗜好性と釣りに対する考え方の違いが良く出ている

ちなみにボイリーのヘアリグへのセット方法はこのようになる

ヨーロピアンスタイルの場合、鯉が吐き出したフックは必ず下あごに掛かる。ボイリーに重さがあることと、オモリをフックアップに利用する釣り方なのが大きな理由

「目立つor目立たない」は魚に聞かないと分からない

ヘアリグも吸い込み仕掛けも、基本的にはリールと竿を使ってオモリをつけて水中へ投入する。オモリ周辺の仕掛けに関しては両者とも違いはそう無いが、鯉の背びれのトゲにラインがこすれて切れないように工夫がなされている。ヘアリグの場合はセーフティーリグと呼ばれるものが使われ、ラインに沈下性のゴムチューブを通すか、リードコアと呼ばれる極細の編み込みラインを使用する。これは鯉の体を保護する役目も果たすため、なるべく活用していただきたいセッティングだ。

オモリに関してヨーロッパと日本で感覚が違うところが面白い。使われる形状はそれほど大きな違いはないのだが、カープフィッシングでは水中で目立たない色が好まれる傾向がある。鉛色むき出しのオモリになれていると、この辺りは少し驚いてしまうものも多く、究極は枯れ草をそのままオモリの周囲にコーティングしたタイプなども存在している。

左の二つがヨーロッパ式、右が和式。オモリは目立たないようにカラーリングやコーティングがされている(左はわたしのお手製)。一方和式はいわゆる鉛色を隠すことはしない

ヨーロッパ式のオモリで一番面白いと感じたのがコチラ。なんとオモリの回りに本物の枯れ草や土をコーティングしたタイプになる。鯉にとって目立たないかは別として、釣り場でうっかり地面に落とすと見つけられないことこの上ないアイテムだ

わたしの経験上、水底に存在する限り、それが鯉の警戒心に影響を与えることは無いと考えている。それよりもエサの存在感の方が格段に高いからこそ、鯉が寄ってくる訳であるのではないかと思うし、両者を使い比べてもカモフラージュされていたから釣れたと感じるほどの差は無い。しかし、実際に鯉に聞いてみたこともないので、おまじないの意味もあってヨーロッパ式のオモリを使っている。ちなみに、値段はカモフラージュタイプのほうが数倍は高いので、節約派の方は自身で工夫してみると面白いと思う。

ロッドに関しては専用のものもあるが、絶対にそれでないと釣れないということはない。ただし、オモリと撒きエサを投げることになるので、ある程度の強さは必要になる。ちょっと柔らかめの投げ釣り用の竿や、硬めの海用ルアーロッドなどがこれにあたるが、もし新しく釣りを始めたいというのであれば、カープフィッシング専用ロッドを購入するのがベストだろう。ちなみにわたしは、カープフィッシング専用ロッドのガイドを自分の好みのものに変更したお手製ロッドを使用している。

ロッドと合わせて使うリールは、魚が掛かるまでスプールがフリーになるものが使いやすい。投げ釣り用のリールのようにスプールが固定されているものは鯉に竿を持って行かれてしまうので向いていないので注意。ドラグ機構がついていればそれを緩めることによって代用できるが、魚が掛かってからドラグ調整をしないといけないので不慣れな人は落ち着いて対処しよう。

ラインに関しては個人の考え方にもよるが、6~10号のナイロンラインを使う。1m級の鯉の突進力は想像以上で、障害物などが近くにあればどんどんそちら方向へ逃げようとする。これを力で防ぐには太いラインが必要となるのだ。また、太いラインを使っていれば万が一、障害物に触れた場合の耐久力も高い。細いラインは、魚の進行方向を自分でコントロールできるアングラーに向いている。障害物に突進する鯉をいなしつつ、頭をこちらに戻すといったロッドワークができれば、細いラインの方が断然面白い。ただし、細いラインを使う場合は、頻繁にライン交換を行うこと。ギリギリの戦いが多くなるので、少しの傷でも命取りとなるので、後悔しないように準備は万端にしてほしい。いずれにしても、この辺りは個人の考え方にもよるので、好みに応じて選べば良いだろう。

ロッドとリール、ラインなどは専用品もあるが、あり物でも代用は効く。ただし、ロッドをホールドする道具は必要なので揃えておきたい(画像は地面に差し込むタイプ)

最後に紹介するのは前回もお伝えしたバイトアラームだ。アタリがあったことを知るには、仕掛けてあるタックルに何か異常があることをアングラーに知らせる機能が必要になる。日本では古くからロッドに鈴をつけることで、これを満たしてきた。魚が掛かれば竿先が動くので、取り付けられた鈴も必然的に鳴るのである。もちろん、これでも機能は満たしているといえるが、もう一歩進んだのがバイトアラームになる。

魚が掛かるとリールからラインが引き出されるため、バイトアラームの滑車が回り、アラームが鳴る。一度鳴ったアラームはしばらくの間LEDが点灯するので、複数本ロッドを並べている状態でも、どのロッドに魚が掛かっているかよく分かる。さらに、無線機能がついている場合、その情報を離れた位置から知ることもできるのだ。

左の2つは無線式のバイトアラームと受信機、右はアラームが鳴るだけのタイプだ

アタリを知らせるグッズの和式代表はなんといっても「鈴」。こやって見ると、子供の頃に竿を長めながらリンリンリン!と鳴るのを、今か今かとドキドキしながら待っていたことを思い出す

ちなみに、本格的な鯉釣り師の間では、以前から無線式のアタリを知らせる仕組みは使われてきた。ただし、その多くは自作によるもので、専門知識がなければならなかった。ヨーロッパ式の良いところは、それが市販レベルになっているところで、安い物で一台数千円、セットで買っても1万円はしないぐらいで手に入れることができる。無線式になると2万円を超えてくるが、これが必要かどうかは釣り方のスタイル次第なところもある。

例えば、釣り座から5~15mぐらいしか離れないのであれば、バイトアラームも特に必要なく、ラインが引き出される音で釣れたことは分かる。それ以上離れたり、逆にロッドを放置して他のことをするのであれば、有った方が便利という具合だ。無線式が必要になるシチュエーションといえば、長期間の釣りでポイント近くでビバークするような時ぐらいだろう。逆に必須なのはロッドを支える竿掛けのほうで、やはり専用のロッドポッドが欲しいところだが、下が土なら通常の土中に刺して使う竿掛けも利用可能だ。

次回はカープフィッシングで使うエサについてお話したいと思う。