ユーザー視点で低価格クラウドサービスを展開する使えるねっと。そのチャレンジングな企業姿勢の源は何なのか。そして、これからのクラウドサービスはどうなるのか。今回は使えるねっとの起業ヒストリーやサービスを支える環境について、同社社長のフリッシュ氏に聞いてみた。

起業家精神でサイドビジネスを本業に

使えるねっと 代表取締役社長 ジェイソン・フリッシュ氏

フリッシュ氏はオーストラリア生まれだ。交換留学生として来日し、大学卒業後に日本企業に就職。しかし、起業精神旺盛(これは両親の教えでもあったらしい)なフリッシュ氏は、90年代後半のインターネットブームに乗り、サイドビジネスとしてホームページ制作を開始する。さらには自分で使っていたサーバーの無料レンタルを始め、アフィリエイトで稼いでいたという。

その後、アフィリエイトによる広告収入の減少もあり、2002年4月に現在の使えるねっとの前身である株式会社JMFインベストメント&テクノロジーを設立。共有サーバーの有償サービスを開始する。自らがインターネットビジネスのベンチャーを実践していたわけだ。

波乱続きだったVPSサービス

起業した翌年、2003年にインターネットの本家米国でVPSが話題になっているのを知ったフリッシュ氏は、「VPSを世界基準の価格と品質で、日本人に適した形で提供できればビジネスになる」と思い、サービス提供を開始するための準備を始めたそうだ。

当初は米国のデータセンターを使ったサービス提供を考えたが、同氏の要件を満たすサービスが見当たらず、自らサーバーを運営することを決意。長野県に移り住み、コンビニ跡地にサーバーを設置。2004年にクラウドの基盤となるVPSサービスの提供を開始するわけである。そして使えるねっとはこのデータセンターをもとに、クラウドの基盤であるVPSのサービス提供を2004年に開始するわけである。

しかし、「2004~2005年は最悪だった」とフリッシュ氏は語る。

仮想化技術に対する知識不足やマシンパワーが低いといった理由もあり、思ったようなパフォーマンスでサービスを提供できず、社長自ら24時間体制でサーバーを管理するという、心身ともに苦しい時期だったそうだ。実際に「2ちゃんねる」で酷評されたこともあったという。しかし「新しいことをやると叩かれてしまうのは仕方ないこと」と苦言も真摯に受け止め、ユーザーとともに成長を続けてきた。

そして2008年には、事業拡大に対応すべく新たに建設した専用設計のデータセンターに移転。安定したサービス提供を実現し、サポート体制も拡充してきた。

現在使えるねっとが提供している低価格かつ高品質なVPSサービスは、サービス開始から6年間に蓄積された経験や知識のたまものなのだ。

使えるねっと創業の地となったコンビニの跡地。ここにサーバを置いてビジネスをスタートさせた

SMB向けクラウドの可能性

フリッシュ氏は、SMB(中堅・中小企業)市場向けのクラウドの活用方法も考えているという。これはまだ未提供のサービスだが、従来のPCのデスクトップ環境そのものをクラウド上に置き、インターネット回線を通してリモートデスクトップ機能で利用するというものだ。

この方法なら、社内に高スペックなマシンは必要なく、もちろんサーバーも必要ない。サーバー設置にかかるスペースや電気代、メンテナンスのための人件費まで不要となる。時間単位の課金が可能なクラウドなら、業務が停止する夜間の使用料は発生しない。「使った分だけを支払う。それが使えるねっとが考えるクラウド」(フリッシュ氏)とのことだ。

日本は、高速で安定した光ファイバー回線が安価で利用できる。クラウドを上手に使えば、社内のIT環境そのものをクラウド上にアウトソーシングすることも可能なわけだ。

さらにフリッシュ氏は、「業種や業態に特化したサービスを提供していく必要がある」とも語っている。

SMB市場は広範囲にわたるため、クラウドを広めるには、技術スタッフやサポートスタッフが業界特有のニーズを把握し、最適な環境を提供するサポート体制が必要だというのだ。そのニーズは、メンテナンスのタイミングであったり、接続方式であったり、使用するソフトウェアであったりと様々だ。

専任のIT管理者がいない企業が多いSMB市場でサービスを提供するには、そのレベルまでのニーズを満たすサポートが必要だという。使えるねっとは単なる"サーバー管理屋"ではなく、顧客のニーズに合致したシステムの土台を提供する。それがクラウドプロバイダーとしての役割だというのだ。

たとえば、使えるねっとではFXの自動売買向けのサービスを提供しているが、これは「FX」という分野に特化したサービスの一例だ。

FXの自動売買に最適化した「Value VPS

ビジネスハブとなるクラウド

デスクトップ環境をクラウドで使う話をお伝えしたが、これは、ソフトウェアベンダーにとっても大きなメリットがあるはずだ。デスクトップ環境をそのままクラウドで利用できるのであれば、現在のソフトウェア資産を広くユーザーに提供できることになるからだ。

この環境なら、ソフトウェアベンダーはSaaS向けのWebアプリを再開発する必要なく、現在の資産をそのまま有効に活用することができる。使えるねっとでは、このようなソフトウェアベンダーとのパートナー関係を構築した上でのビジネス展開も進めている。

分野特化型のソフトウェアを幅広くSMB市場向けに提供できれば、ソフトウェアベンダーにとってもビジネスチャンスが広がり、エンドユーザーにとってもメリットが生まれる。クラウドというインフラが、ソフトウェアベンダーとユーザーの仲介、いわば"ハブ"となるわけだ。

ロゴに込められた意味

使えるねっとのロゴマークは、「感動品質」「価値創出」「社会還元」「独自技術」「プロ集団」という5つの経営理念が織りなす五角形となっている。そしてロゴマークの近くには「cloud for everybody」の文字がある。これには、「初期費用をゼロにしてインターネットビジネス参入時のインフラ投資に対する障壁を低くし、クラウドの拡張性を生かして"小さく始めて大きく育てる"ことを可能にする」(フリッシュ氏)ことで、幅広くインターネットを普及させたいという思いが込められいる。

使えるねっとのロゴに込められた意味

フリッシュ氏は、バーベキューなどで社員と食事を共にすることも多く、朝までカラオケを興じることもしばしばらしい。そんなフランクな社風を象徴するかのように、長野にある使えるねっとの本社には、オフィスの入口にサッカーゲームが置かれている。

本社の入口付近に設置されたサッカーゲーム

使えるねっとのチャレンジングな姿勢や定評のあるクラウドサービスは、このような環境のもとで育まれているのだ。

使えるねっと本社のオフィス風景

次回は、使えるねっとのクラウドサービスを支えている専用設計の国内データセンターについて、フォトレポートにてお届けする。