鉄道愛好家団体、鉄道友の会が毎年5月下旬にブルーリボン賞・ローレル賞を発表している。前年の1月1日から12月31日までの間に営業運転を正式に開始した鉄道車両が対象で、会員の投票と選考委員会の審議によって決定する。鉄道ファンが認めた優秀な営業車両を表彰しており、鉄道事業者にとって名誉ある賞だ。受賞車両を運行する事業者がプレスリリースを出し、受賞記念式典を行ったり、車内に記念プレートを飾ったりする。

2017年のブルーリボン賞はJR九州BEC817系。蓄電池電車として初の受賞

ところが、過去の受賞歴をみると「該当車なし」という年がある。ブルーリボン賞は4回、ローレル賞は3回あった。両賞とも「該当車なし」という年はない。つまり毎年、新型車両(改造車両も含む)は登場していた。一体どんな事情があるのだろう。

そもそも鉄道友の会とはどんな組織か。創立は1953(昭和28)年。当時の国鉄内部で鉄道愛好者が集まり、東京・大阪の親善団体が合同し、全国規模の鉄道親善団体を作った。初代会長は新幹線の産みの親としても知られている島秀雄氏だった。その後も同会の会長職は国鉄副総裁や鉄道に詳しい大学教授が歴任している。現在の会長はJR東海の発足時に代表取締役社長を務めた須田寛氏だ。

権威ある方々が率いておられるけれど、入会資格は「鉄道に興味を持つ中学生以上で入会金と会費を納めた者」と門戸は広く、入会金は1,000円。年会費は6,400円。親しみやすい会といえる。JRグループ各社や大手私鉄などの鉄道事業者も賛助会員に加わっており、鉄道事業者からも認められた鉄道ファン組織といえそうだ。東京本部の他に17の支部が全国にあり、現在は会員数3,098名、賛助会員72法人・団体とのこと。

鉄道友の会に入会すると、月刊の機関誌「RAIL FAN」が届くほか、同会主催の鉄道施設見学会、撮影会、講演会、模型運転会、研究会などに参加できる。ブルーリボン賞・ローレル賞の投票権も与えられる。ひとり2票が与えられ、賞の指定はできない。投票にあたっては「該当車なし」という選択もできる。もちろん投票を行わない「棄権」も可能だろうけれど、「該当車なし」は「投票したくてもふさわしい車両がない」という意思表示だ。なかなか手厳しい。

会員の投票は本部が集計し、最も得票数の多い車両形式がブルーリボン賞となる。同数票や僅差の場合は選考委員会が決定するそうだ。ブルーリボン賞は同会発足の5年後、1958年に制定された。ローレル賞はさらに4年後の1961年から。得票数を優先するため、ブルーリボン賞は特急形車両などに対する人気投票となる傾向がある。そこで、通勤形車両など技術的に優れた車両についてローレル賞が制定された。

今年のローレル賞のひとつ「えちごトキめきリゾート 雪月花」(ET122系1000番台)。地域の観光資源を素材として取り組む点などが評価された

現在のローレル賞は、得票上位の車両の中から審査委員会が決めるとのこと。技術的に優れているといえば、「ドクターイエロー」のような試験車両なども最新技術を搭載しているけれど、営業運転を行う車両が対象のため、保線車両や試験車両は候補にならない。

ブルーリボン賞が「該当車なし」だった年は1971年、1975年、1994年、1997年の4回。前年にデビューした車両を探すと、1970年は京阪旧3000系や名鉄7300系、1974年は営団7000系、1993年は近鉄23000系や西武10000系、1996年は小田急30000系や北近畿タンゴ鉄道KTR8000形などが登場していた。たしかに"不作"だった年もあるとはいえ、かっこいい特急形電車が豊作だった年もある。

ローレル賞は1968年、2004年、2013年が「該当車なし」だった。2013年なんて最近だ。それぞれ前年にデビューした車両をみると、1967年は東急7200系や国鉄711系、2003年は阪急9300系や万葉線MLRV1000形、2012年は千葉都市モノレール0形などが登場していた。

東京メトロ銀座線1000系は2013年にブルーリボン賞を受賞。この年のローレル賞は「該当車なし」だった

鉄道友の会に「該当車なし」の理由を聞くと、ブルーリボン賞、ローレル賞、それぞれ異なる理由だった。ブルーリボン賞の場合は「日本一と呼べるほど多くの得票数を獲得できる車両がなかった」から。会員の投票が分散し、ひとつに絞りきれなかったという。当初は前年に営業運転を開始した形式すべてを候補としたため、票が割れてしまった。

現在は審査委員会で一次審査を実施し、投票できる車両数を絞り込むことで、票をまとまりやすくしているそうだ。2017年の場合、前年の2016年に営業運転を開始した車両は41形式もあったという。そこで一次審査で13形式に絞り、その上で投票を行っている。票がまとまりやすくなったため、今後は「該当車なし」にはなりにくいとのこと。

一方、ローレル賞の場合は今後も「該当車なし」になる可能性がある。技術、デザインなどで特筆すべき項目がない場合は、審査委員会が選定を見送るとのことだ。

現在のブルーリボン賞は「人気があり、親しまれる車両形式」、ローレル賞は「秀でた特徴がある車両形式」が選ばれているようだ。いずれにしても、名誉ある賞には違いない。むしろ「該当車なし」があるからこそ、受賞に価値があるといえそうだ。鉄道友の会に入って"推し車両"に投票する。これも鉄道ファンの楽しみ方かもしれない。