鉄道事業者が運行する列車は大きく分けて旅客列車と貨物列車の2種類。書店で販売される月刊の時刻表には、おもに旅客列車が掲載される。一方、鉄道ファンの間では貨物列車専用の時刻表も知られている。貨物時刻表は年刊で、通販や鉄道書専門店などで購入できる。つまり「お客さんが乗れる列車」「お客さんが乗れない列車」の時刻表がある。

しかし国鉄時代、旅客用の時刻表に「お客さんが乗れない列車」も掲載されていた。旅客列車ではなく、貨物列車でもない列車だ。それはどんな目的の列車で、なぜ旅客用の時刻表に掲載されたのだろうか。

東海道本線などを走っていた荷物列車(本誌連載「昭和の残像 鉄道懐古写真」第59回より)。EF58形機関車の後ろは貨物荷物兼用のワサフ8000形貨車、その後ろに客車風の荷物車が連なる

旅客列車の時刻表に掲載された旅客を運ばない列車は「荷物列車」だ。JTBパブリッシングの電子書籍「1978年10月号 "ごおさんとお"白紙改正の時刻表 時刻表復刻版」によると、東海道本線下り、東京~名古屋間のページの末尾に7本の荷物列車が掲載されている。始発駅はすべて汐留駅で、東小倉行が3本、熊本行が2本、京都行・鹿児島行が1本ずつ。もちろん上り列車も同じ数が設定されている。

他のページを見ると、青森~大阪間、東小倉~青森・隅田川間、東小倉~鹿児島間、熱田~北長野間(上りは長野発)、隅田川~上沼垂・直江津間、隅田川~福島間、隅田川~青森間、隅田川~秋田間、福島~青森間、隅田川~仙台間、京都~盛岡間、秋田~福島間、函館~札幌間の各区間で荷物列車が見つかった。東海道・山陽本線、鹿児島本線、東北本線、函館本線など、幹線区間で設定されていたようだ。

荷物列車と貨物列車の違いは?

発着駅をみると、「汐留」「隅田川」「東小倉」など貨物専用の駅が記されている。しかし、荷物列車は貨物列車ではない。それでは、荷物列車とは何か。そもそも貨物と荷物の違いは何か。簡単に言えば、旅客が預けるものが「荷物」、荷主が輸送を依頼する物が「貨物」ということになる。制度的な説明をすると、貨車やコンテナ単位で輸送する物が「貨物」、客車や荷物車に混載する物が「荷物」となる。

イメージとしては、現在の飛行機での旅と同じだ。飛行機に乗るとき、空港でトランクなどを預ける。これと同じシステムが鉄道にもあった。昔の長距離列車では、旅行鞄や土産品などを積むための「荷物車」が連結されていた。旅客は駅で荷物を預けて、身軽になって列車の旅を楽しんだ。

たとえば戦後に東京~大阪間で運行された特急「つばめ」「はと」の場合、スハニ35形(半室3等座席・半室荷物車)、スハ44形3両(3等車)、スロ53形5両(2等車)、マイテ39形1両(1等展望車)、マシ35形1両(食堂車)という構成だった。

車内に持ち込める荷物は2つまで、という規則もあった。この規則は現在も有効で、当時と比べて大きさなどが緩和されている。3つ以上の荷物を持ち込む場合は手荷物料金が必要となる。手荷物が多い列車には荷物車、または半室を荷物室とした客車が連結された。つまり、荷物車は客車のひとつであって、貨車ではない。

この手荷物の制度は、旅客の携行品だけではなく、駅で預けて到着駅で受け取る荷物にも準用された。貨物輸送は貨車またはコンテナ単位で契約する必要があったため、個人や中小企業では利用しにくい。

そこで、旅客が同行する鉄道手荷物の他に「小荷物」という制度もできた。小荷物は新聞雑誌など多方面に少量の物を運ぶ場合に便利な制度だった。また、ダイヤが乱れた場合、旅客列車を優先して運行するため、急いで送りたい場合も小荷物が使われた。

小荷物輸送は旅客列車に荷物車を連結する形で行われた。ローカル線では客車の中に荷物を置いて布や網でまとめたり、カーテンで仕切って荷物室にしたりして対応していた。しかし小荷物の需要が高まると、幹線では旅客列車だけでは扱いにくくなった。長距離列車では、小荷物扱いのために停車時間を長くする必要もあった。

そのため、荷物車だけを連結し、独立して運行した。これが荷物列車である。大量の荷物を扱うために、駅も旅客駅では賄(まかな)えなくなり、貨物駅で扱った。到着駅に受け取りに行く他に、別料金で駅から個別に配達するサービスもあった。現在でいえば宅配便のようなシステムだ。鉄道小荷物輸送は郵便小包と同様に物流ルートとして普及した。

荷物には旅客用きっぷのように荷札チッキ(チケット)が取り付けられた。鉄道小荷物はチッキ便と呼ばれ、親しまれていたが、トラック輸送が普及し、民間の宅配便や小口輸送サービスが始まると、小荷物輸送は徐々に減っていく。国鉄の労働組合問題が激化し、遵法闘争やストなどが頻発すると、貨物と同様に荷物輸送も法人荷主からの信頼を失った。

こうして1986年に小荷物制度は廃止された。国鉄は分割民営化してJRになることが決まっており、赤字事業の小荷物制度はJRに引き継がなかった。ただし、現在も一部の鉄道路線で旅客列車による新聞輸送が行われている。これは鉄道小荷物制度の名残といえる。