2017年4月1日、JRグループは発足30周年を迎える。鉄道専門誌の4月号で特集が組まれ、すでにJRのあゆみを紹介するムックも販売中だ。一般紙誌でも特集が組まれるらしい。もちろん当事者のJR各社もフリーきっぷや割引きっぷなどの記念商品を販売する。

フリーきっぷといえば、JRの前身の国鉄は最後の日限定のフリーきっぷを販売した。JR発足の前日、1987(昭和62)年3月31日の1日のみ有効とはいえ、当時の鉄道ファンは歓喜に沸くほどの価格と内容だった。当時の時刻表、1987年3月号で紹介されている……といっても、30年前の時刻表は入手しづらい。しかし、JTBパブリッシングが2017年2月20日に発行した『時刻表が刻んだあの瞬間――JR30年の軌跡』にそのページが収録されていた。

『時刻表が刻んだあの瞬間――JR30年の軌跡』(JTBパブリッシング)は、JRグループの節目となる時刻表や料金案内ページを採録した、資料性の高い1冊

国鉄最後の日限定のフリーきっぷは、「謝恩フリーきっぷ」という名前だった。紹介文を引用すると、

仕様 謝恩フリーきっぷは特大サイズ。駅で貼られているポスター1枚分の大きさです。図柄は、6つの鉄道会社に色分けされた全国鉄道路線図。この地図の隅に"謝恩フリーきっぷ"がついています。
効力 有効日は、3月31日の1日限りです。この日のうちなら、新幹線・特急・急行・普通列車、連絡線のどれにも乗れます。(ただし、普通車の自由席に限られていますが……)
※3月31日から4月1日にまたがって運転される列車にお乗りになった場合は、その列車が終着駅に着くまで有効です。

価格はおとな6,000円、こども3,000円。これだけで、新幹線や特急列車に乗って沖縄以外の日本全国に行ける。「乗り鉄」なら見過ごせない大盤振る舞いだ。鉄道専門誌によれば、発行枚数は10万枚限定だったという。3月21日から販売され、徹夜で並ぶ人もいて即日完売だったようだ。そして迎えた3月31日(国鉄最後の日)、10万人の「乗り鉄」が始発から動き出した。一部の強者は3月30日発車の夜行に乗り、3月31日に日付が変わった駅から使い始めた。そのための臨時夜行列車も用意されたという。

じつは筆者もこのきっぷを利用して、同級生と乗りまくった。ポスター1枚分の大きなきっぷといっても、実際はポスター部分はおまけで、きっぷの大きさはハガキの半分ほど。取り外すと、当時のトクトクきっぷのサイズだった。

ルートは忘れてしまったけれど、青函トンネルができたら廃止されるはずの青函連絡船に乗りに行き、函館駅から長万部駅まで行って戻ってきた。青函連絡船を2往復するか、北海道の列車に乗るか、悩んだ記憶がある。

帰りは盛岡駅から東北新幹線に乗った。ここでも大盤振る舞いだ。なんと全車自由席で、グリーン車もヘッドカバーを外して普通車扱い。高校生だった筆者は生まれて初めてグリーン車の座席に座って興奮し、友人を呆れさせた。この列車はもしかしたら定期列車ではなく、「謝恩フリーきっぷ」利用者のための臨時列車だったかもしれない。おそらく全国各地で同様の状況があったのではないか。

JR開業10周年・20周年も大サービスだった

国鉄の「謝恩フリーきっぷ」と同じ年に、JR東日本は創立記念として「EEきっぷ」を販売した。5月の大型連休後から6月末頃までの土日限定。2日間有効で1万円。普通列車だけでなく、新幹線や特急列車の普通車自由席にも乗車できた。つまり「謝恩フリーきっぷ」のJR東日本限定版だ。このきっぷは翌年以降も継続販売された。後の「週末パス」や「3連休パス」への布石かもしれない。

1997年に「謝恩フリーきっぷ」は「JR発足10周年記念フリーきっぷ」として"復活"した。JRグループ旅客鉄道会社全線の普通列車と新幹線・特急列車の普通車自由席に3日間乗り放題で3万円。1日あたり1万円で、国鉄の謝恩フリーきっぷに比べると高いとはいえ、3日間もあれば新幹線に乗って簡単に元が取れた。

JR発足20周年となった2007年も期待されたけれど、「JR発足20周年記念フリーきっぷ」はなかった。代わって「JR発足20周年・青春18きっぷ」が販売された。価格が発売開始時と同じ8,000円に戻った。「青春18きっぷ」は1986年に1万1,000円に値上げしており、当時は消費税を加味した1万1,500円だった。3,500円引きという小さなサービスだったとはいえ、当時話題となり、「青春18きっぷ」の人気回復にも貢献した。

2007年はこの他に、JR7社共同企画として「JRオールキャスト 日本列島縦断 華麗なる列車の旅8日間」が販売された。札幌発鹿児島行と長崎発札幌行の2コース。豪華客車を連結した「夢空間・北斗星」「トワイライトエクスプレス」を組み込んだ。「トワイライトエクスプレス」が松山駅や長崎駅に向かうなどで話題になった。

「JR7社」とあるように、JR貨物も関わっており、「夢空間・北斗星」の牽引機にJR貨物の最新鋭機関車EF510形が起用された。JR東日本が「北斗星」「カシオペア」にEF510形500番台を投入する前の話だ。ツアー代金は2名1組で80万~100万円。これは現在の豪華クルーズトレインの元祖かもしれない。

さて、今年、2017年はJR発足30周年になるわけだけど、過去2回のようなグループ共同企画は発表されていない。3月10日現在、JR各社個別の記念乗車券企画は以下の通り。

JR九州 自社エリア限定で普通列車と新幹線・特急列車の普通車自由席に乗り放題の「30周年記念! ネット九州パス」を発表
JR四国 発足30周年関連では未発表
JR西日本 EX予約会員限定で「IC早特タイプ21」をJR発足30周年記念価格で販売。「京都鉄道博物館・水族館きっぷ」購入者にJR発足30周年を記念して「オリジナル鉄道ミニチュア模型」をプレゼント
JR東海 EX予約会員限定で「IC早特タイプ21」をJR発足30周年記念価格で販売。発足30周年記念「TOICA」を希望者全員に販売
JR東日本 自社エリアの普通列車に乗り放題の「JR東日本30周年記念パス」を販売。自社全駅を網羅した「JR東日本30周年記念入場券」セットを販売
JR北海道 発足30周年関連では未発表

発足から30年も経つと、各社の状況が異なるという事情もわかる。しかしJRグループ全線有効のフリーきっぷなどがないとは寂しい。夏休みに向けて、なにかインパクトのある企画がほしい。