鉄道ファンにとって、電車の運転席の真後ろは絶好のポジションだ。前方の展望を楽しめるし、運転士さんの挙動や運転席のメーターも興味深い。ところで、運転士さんがときどき口をもぐもぐと動かしている。どうやらガムを噛んでいるようだ。電車の運転士さんはガムを噛んでもいいのだろうか?

電車の運転中、ガムを噛んでもお咎めなし?(写真はイメージ)

「運転士」「ガム」で検索すると、目撃談や写真、動画がいくつか見つかる。そしてコメントでは賛否の論議が起きている。「不謹慎だ」という人もいれば、「眠気覚ましになるし、事故になるよりいい」という人もいる。「鉄道会社に通報すればいい」「新聞社にニュースとして採り上げてもらおう」と過激な声もある一方、「密告するなんてひどい、運転士の人生を左右するようなことはやめるべき」という穏健派もある。総じて「ガムはダメ」「ダメだけど、許してあげたい」との見解に別れるようだ。

そういえば、バスや電車の運転席の後ろには、「夏期は制帽を省略いたします」とか「業務のため携帯電話を使用する場合があります」という表示もある。正当な理由があっても、いちいちクレームを入れる人がいるのだろう。面倒な世の中になったものだ。しかし「眠気防止のためにガムを使う場合があります」という表示はない。「ガムはダメ」派の根拠は、そんなところにあるのかもしれない。

実際には、多くの鉄道会社において、ガムを噛んだ運転士が咎められることはない。過去の報道を検索すると、鉄道会社の見解として「眠気防止のため黙認」との声が紹介されていた。JR貨物では煙草も認められており、機関車の運転席に灰皿も設置されているという。

そんな中、近畿日本鉄道は公式サイトで「ガムOK」と記載している。これは画期的な見解かもしれない。掲載場所は「きんてつこどもクイズ」だ。公式サイトのトップページから「企業・採用」のページへ、さらに「安全・社会・環境・広報活動」に進んだページにバナーがある。「きんてつこどもクイズ」は「1 あんぜんクイズ」「2 かんきょうクイズ」「3 でんしゃのなまえクイズ」の3分野あり、「1 あんぜんクイズ」の6問目がガム問題だ。

きんてつでんしゃの
うんてんしさんが うんてん中に
しても いい ことは
どれでしょう?

1 たばこをすう 2 あめをなめる 3 ガムをかむ 4 うめぼしをたべる

正解は「3 ガムをかむ」である。解説にはこう書いてある。

ガムを かむ ことで
ちゅういりょくが ふえるので
じこを おこさないように
うんてん中に
ガムを かんで よい
ことに なっています。
かまない 人も います。

……噛まない人もいるんだね。義務ではないんだね。そりゃそうだ。

ちなみに、日本チューインガム協会の公式サイトには、ガムの効用として「脳波では個人差がかなり認められるものの、浅い眠りのときに出現するθ(シータ)波の出現率がガム咀嚼により抑制され、覚醒レベルの低下の抑制が認められた」とある。また、カフェイン、菊花エキス、イチョウ葉エキスが配合されたガムは「咀嚼直後の高い覚醒レベルが持続し、咀嚼後期の30分まで高レベルに維持された。またガム咀嚼終了後も覚醒レベルの維持が認められた」という。商品名はこの成分を検索すると出てくる。

というわけで、近鉄では「運転中にガムを噛んで良し」だ。他の鉄道会社は黙認のようだけど、近鉄は公表している。すばらしい。他の鉄道会社も見習ったほうがいい。あいまいにしたままだと、「真面目に勤務している運転士さんがネットで晒される」という事例が野放しになってしまう。制帽省略や携帯電話使用のように掲示したっていいくらいだ。

なお、「きんてつこどもクイズ」は子供向けコンテンツだけど、大人が挑戦しても楽しい。とくに「3 でんしゃのなまえクイズ」の誤答選択肢にはニヤニヤした。クイズの作者も楽しんでいるようだ。さあ、大人も子供も、楽しみながら近鉄電車を学ぼう!

※写真は本文とは関係ありません。