今月初め、あるテレビ番組で「閉じ込められたタレントを探す」という企画が失敗に終わった。タレントがSNSで示した手がかりをもとに、居場所を探って助け出すという内容だ。このときの重要な手がかりが「電車の走行音」だった。結果として、その場所は間違いだったようだ。しかし、鉄道の設備に詳しい人なら、電車の走行音で路線や場所を絞り込める。走行音の何が手がかりになるのだろう?

最もわかりやすい手がかりは、車輪がレールの継ぎ目を通過するときの「ガタン、ガタン」という音だ。この音と法則を知れば、誰でも電車の連結数がわかる。たとえば、「ガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタン」と聞こえたら4両連結だ。「ガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン、ガタン」の場合は10両連結である。一連の音の長短ではなく「ガタン」の回数で正確にわかる。なぜなら、走行音は電車の構造と結びついているからだ。

電車の構造と音の関係

最近の電車の多くは、1つの車両の前後に2つの台車がある。台車には片側から見て2つの車輪が付いている。つまり、1両だけで走ったとき、レールの継ぎ目において車輪は順番に「ガ」「タン」「ガ」「タン」と音を出す。ただし、前の台車と後ろの台車の間隔が空いているから「ガタン、ガタン」となる。2両の場合は、1両目の後ろの台車と、2両目の前の台車が近いから「ガタン、ガタンガタン、ガタン」となる。つまり、編成の最前部と最後部のみ「ガタン」ひとつ。その間に連結部の「ガタンガタン」がある。だから「ガタンガタンの数プラス1」が電車の連結数となる。

ここで電車が10両とわかった段階で、10両編成が走っていない路線は対象外だ。山手線は11両だから対象外。もちろん都電も対象外。京王井の頭線も5両編成だから対象外。こんな風に絞り込める。もっとも、10両編成は大手私鉄やJRの通勤区間でたくさん走っているから絞り込みにくい。むしろ、3両編成の場合は東急池上線・東急多摩川線ではないか、2両編成なら東武亀戸線・小泉線ではないか、などと推理できる。採用路線が少ないほうが特定しやすい。

複数の列車の音を組み合わせると路線を特定しやすい。京急本線の場合、12両、8両、6両、4両の列車がある。1つの路線でこれだけの種類がある路線は珍しい。小田急電鉄の場合、ロマンスカーの一部は連接車体を採用しているから「ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……」となる。連接車体は珍しいから、小田急電鉄は特定しやすい路線といえる。

貨物列車も特徴的な音が出る。機関車の車軸が多いからだ。たとえば、EF81形電気機関車は6軸だから、2軸+2軸のコンテナ車を連結すると「ガタタタタタン ガタン、ガタンガタン……」となる。

特徴的な車輪配置の例

電車の連結数以外の要素もわかる。まず、首都圏のほとんどの鉄道は「ロングレール」という、継ぎ目の少ないレールを使っている。継ぎ目があったとしても、駅間の場合は隙間がないタイプで、通過音は小さい。つまり、そもそも「ガタンガタン」という音が鳴る場合は駅のそば、あるいはポイントを渡るときだと予想できる。

列車の速度の変化もわかる。「ガタンガタン」という音のテンポが変化すれば、電車が減速したり加速したりしているわけで、やはり駅の近くだ。テンポが変わる電車と変わらない電車があるなら、停車する電車と通過する電車があることになる。急行通過駅である。駅のそばは道路が多く、踏切もあるはずだ。しかし駅のそばで踏切警報音が聞こえないとしたら、その路線は高架化されていると考えられる。レールの継ぎ目を通過する車輪の音だけでここまで特定できる。

鉄道車両に詳しい人なら、モーターや制御機器の音、ブレーキ用のエアコンプレッサーの音、警笛などで車両の形式を当てられるだろう。わかりやすいところでは、京急電鉄で採用された「ドレミファを奏でるインバータ音」があるし、進行方向によって警笛音を変える会社もある。遠くから電車の警笛が聞こえたとき、こちらに来る電車か、遠ざかる電車か判別するためだ。この法則を知っていれば、音だけで電車の進行方向までわかる。

ただし、これだけのヒントがあっても、ピンポイントで場所を特定するとなるとかなり難しい。路線と駅の種類がわかる程度だ。だからテレビ番組の企画でも、間違った場所に企画の参加者が集まって、付近の人々に迷惑をかけてしまったわけだ。

それでも、電車の走行音から得られる手がかりは多い。同じように、自動車ファンやバスファンも走行音で車種などが判別できるだろう。最近は誰でも自宅から動画をアップしたり、ストリーミング放送したりできる。外部の音を紛れ込ませると、その場所を特定されてしまうかもしれない。くれぐれも注意してほしい。