4月14日夜に発生した熊本地震で、九州新幹線の回送列車が脱線した。地震による新幹線の脱線は2004年の中越地震から数えて2回目。今回も脱線したとはいえ、転覆はしなかった。乗員も無事とのこと。任務が終わって基地に向かった回送列車だっただめ、乗客はいなかった。

今回の脱線事故も、地震に対する新幹線の安全性を裏づける事例となりそうだ。しかし、安全面で注目すべきは回送列車ではなく営業列車のほうだ。他の列車は地震発生後、約3秒で自動的に緊急ブレーキを作動させていた。

九州新幹線のダイヤで地震発生時点(水色)を確認(列車ダイヤ描画ツール「Oudia」を使用)

熊本県熊本地方を震源とした地震の発生は14日21時26分。時刻表をもとに4月14日のダイヤを作成し、21時26分頃の状況を調べた。営業列車だけを数えても、全部で9本の列車が稼働していた。このうち、速度を上げて走行していたと思われる列車は「さくら571号」「みずほ609号」「つばめ350号」の3本だ。これらの列車については報道されていないため、無事だったと思われる。脱線した回送列車は時刻表に掲載されていないので、このダイヤには表示されない。ちなみに熊本駅に21時11分に到着した「つばめ347号」だ。この列車が回送列車となり、約10km南の車両基地に向かう途中だった。

初期微動発生から3.6秒で非常ブレーキ作動

全国の新幹線には、早期地震警報システムが導入されている。早期地震警戒システムは、地震計が揺れを検知すると、最短で約0.1秒で警報を出す。この警報は中継サーバ経由で監視システムに到達。監視システムは複数の地震計のデータを受け取り、約0.5秒で影響力を判定する。危険だと判定した場合はただちに新幹線司令所に通報し、変電所に対して送電停止の命令を出す。

新幹線列車は、送電の電圧が下がると自動列車制御装置が作動し、非常ブレーキを発動させる。電圧低下から非常ブレーキ作動までの時間は約3秒だ。つまり、地震が発生してから非常ブレーキが作動するまで約3.6秒となる。

新幹線の地震対策のきっかけは、東海道新幹線が開業する4カ月前に起きた1964年新潟地震だ。マグニチュード7.5、最大震度5で、関東大震災に準じた規模だった。ここから新幹線の地震対策の検討が始まる。東海道新幹線開業後の1965年4月には大井川河口地震が発生し、これがきっかけで変電所に地震計と送電停止装置が設置された。構造はとてもシンプルだ。ピンを立てておき、強い揺れでピンが倒れると送電停止スイッチが作動する。これが早期地震警戒システムの第1世代だ。

その後、1970年代から東海大地震の予見が取り沙汰され、1978年に大規模地震対策特別措置法が制定された。この法の下で、静岡県を中心とした地域が「地震防災対策強化地域」に指定されると、官民挙げての地震予知、早期警戒の技術開発が始まった。

国鉄鉄道技術研究所は、1983年に次世代地震警報システム「ユレダス」を開発した。ユレダスは地震の2つの波「P波(初期微動)」「S波(本震)」のうち、P波を検知し、波形を解析して、まず地震発生源までの距離を割り出し、次に地震発生源の方角とマグニチュードを判定して、S波が到達する前に警報を出すしくみだ。ユレダスは「のぞみ」運行開始の1992年3月ダイヤ改正から全面的に稼働した。

地震警報システムは本震の発生に対して警報を出すしくみだ。しかしユレダスは初期微動で判定するため、本震より早く警報を出せる場合がある。どの地震でも本震前の警報が望ましいけれど、ユレダスは自身の半径約200kmを検知対象とするため、検知から警報発令まで3~4秒かかる。つまり、直下型地震では本震前の警報ができない場合も多い。

そこで、検知対象を半径約20kmに限定した「コンパクトユレダス」が開発された。コンパクトユレダスは検知から警報発令まで1秒に短縮されている。また、設置条件がユレダスより緩やかなため、どこにでも設置できる。そこで東北新幹線開業以降は、線路沿いにコンパクトユレダスをたくさん設置するという方針になった。もちろんユレダスも有効で、組み合わせで効果を発揮する。これが第3世代だ。

このユレダスの経験をもとに、さらに進化したシステムが2005年の「フレックル」だ。P波検知から警報発動まで0.1秒に短縮された。こちらは東京メトロや大阪市営地下鉄、小田急電鉄などで採用されている。また、女川原子力発電所や民間企業の工場でも使われている。

東海道新幹線では2005年にJR東海がユレダスを改良した「テラス」を導入した。その他の新幹線では気象庁と鉄道総合技術研究所(JR総研)が共同開発した「EQAS」が採用された。これらがいわば第4世代システムといえる。九州新幹線も「EQAS」が採用された。「EQAS」の特徴はネットワーク化だ。各鉄道事業者が保有する地震情報と、全国的な地震情報を組み合わせて、正確な警報を出せるようになった。

早期地震警戒システムは「もっと早く、もっと正確に」を目標に開発が続いている。そして鉄道会社側は、「警報を受け取ってから列車を停めるまでの時間短縮」について技術開発を続けている。安全の追求はまだまだ続く。