国内外の地下鉄などで採用している駅ナンバリング。近年は国内の大手私鉄でも採用され、定着した感がある。そしてついに鉄道業界最大手のJR東日本も首都圏で駅ナンバリングを始める。主要な乗換駅では、アルファベット3文字の「スリーレターコード」も採用するという。「スリーレターコード」は空港の国際的な略称にも使われている。

ところで、駅ナンバリングが始まる前から、首都圏の大手私鉄などではアルファベット3文字を車体に記していた。現在は見かけなくなったけれど、一体どんな文字で、どんな意味だろうか? 「T.K.K.」「KHK」「OER」などがあった。

「京王れーるランド」に展示された京王帝都電鉄2400形に「K.T.R.」の文字

その答えは、車両の所属会社名だ。「T.K.K.」は「Tokyo Kyuko KabushikiKaisha」で東京急行電鉄。「KHK」は「Keihin Kyuko」で京浜急行電鉄だ。「OER」は「Odakyu Electric Railway」で小田急電鉄である。小田急電鉄の場合、「急行」を英語に直訳した「Odawara Express Railway」と勘違いする人もいそうだけど、英語の会社名は「Odakyu Electric Railway」となっている。小田急電鉄の公式サイトの左上にも、新しいロゴと英語社名が表記されている。

その他の採用事例として、「K.T.R.」は「Keio Teito Electric Railway」で京王帝都電鉄、現在の京王電鉄だ。「K.D.K.」は「Keisei Dentetsu KabushikiKaisha」で京成電鉄である。大手私鉄ではないけれど、江ノ島電鉄も「Enoshima Electric Railway」を略して「EER」の文字を車体に表記していた。

アルファベット3文字を比較すると、各社の個性が見えてくる。東急電鉄と京成電鉄はすべてローマ字。アルファベットを覚えたばかりの中学生のようだ。京浜急行電鉄は「Keihin」の一単語から「K」と「H」を取り出した。東京の「京」と横浜の「浜」、両都市を結ぶというプライドか。小田急電鉄、江ノ島電鉄、京王電鉄は地名以外は英語だ。会社名の英文表記はローマ字派と英語派がある。これは鉄道会社に限ったことではない。

なお、西武鉄道と東武鉄道、関西の大手私鉄では車体の3文字アルファベットは採用されなかったようだ。社章や阪急の「H」をモチーフにしたマークなどが使われていた。

現在、アルファベット3文字は車体から消えている。その大きな理由は会社名の変更やCI(コーポレート・アイデンティティ)の導入だ。京王帝都電鉄は京王電鉄に社名変更したため、「K.T.R.」の「T」が使えなくなった。東急電鉄はグループロゴとして「TOKYU CORPORATION」を採用し、電車のロゴもこちらに変更となった。小田急電鉄もロゴマークを制定し、英文社名を省略しない。京急電鉄、京成電鉄、京王電鉄はそれぞれもっと簡単な略称の「KEIKYU」「Keisei」「KEIO」を採用している。

CIは、日本では1970年代から採用企業が増えていった。オイルショックの景気低迷を打破するために、小売業で採用され始めた。イトーヨーカドーのハトのマークが代表例だ。1980年代になるとバブル景気が始まり、多くの企業が自社のイメージアップのため、ロゴマークや企業ブランド名を変更している。たとえば、おもにトイレなどのメーカーとして知られた伊奈製陶は、1985年にINAXに変わった。現在はLIXILのブランド名である。鉄道会社のCI導入もほぼ同じ時期だ。

昭和時代からの鉄道ファンにとって、全国的に有名なアルファベット3文字といえば「JNR」だろう。「Japanese National Railways」の略で、意味は日本国有鉄道、つまり国鉄だった。「JNR」はきっぷの地紋にも描かれていたけれど、車体に表記する場合は文字そのままではなく、鋭角と丸みを組み合わせたロゴマークだった。

「JNR」マークの採用は、1958年に登場した電車特急「こだま」から。その後、国鉄の特急列車のシンボルとして、485系電車などで長く使われた。経営母体がJRになってからは、リニューアルなどに合わせて撤去されていった。